3年後に迫った愛媛国民体育大会に向け、強化に取り組んでいる伊予銀行テニス部。5月に行なわれた全日本選手権兼国体県予選では、エース佐野紘一選手が昨年に続いての連覇を果たし、準優勝には廣一義選手。伊予銀行から2人そろって愛媛代表となったのは3年ぶりのことだ。8月には四国予選が行なわれ、10月の長崎国体に出場する代表が決定する。現在、佐野、廣両選手の調子はどうなのか。そして、5年ぶりの日本リーグ決勝トーナメント進出に向けて、チームの状況は――。

 好調・廣に勝った佐野の集中力

「チーム全体的に順調にきていると思います。それぞれのスキルは着実に上がっているし、チームの雰囲気もいいですよ」
 伊予銀行テニス部発足以来、初の専任監督に就任して今年で6年目を迎えた秀島達哉監督は、チームについてそう手応えを口にした。

 なかでも今シーズン、最も調子がいいのが廣選手だという。その要因のひとつが、今春に替えたラケットだ。もともと愛用していたラケットが廃盤となり、廣選手はずっと自分にフィットするラケットを探し求めていた。そんな中、今春になって発売されたラケットが、もともと愛用していたものと似通っており、フィーリングを取り戻したのだ。

 さらに春先からチームとして強化してきた体幹トレーニングによっての相乗効果もあったと指揮官は見ている。
「これまでは相手に振られると、身体のバランスを崩してミスをすることが少なくありませんでした。でも今は、随分球際に強くなりましたね。これまで拾えなかったボールを拾うことができているので、ゲームにしつこさが出るようになりました。もともと廣はネットプレーは得意ですから、それに加えてベースラインでのテニスが安定してきたことが大きいですね。チーム内の練習試合でも、佐野や飯野(翔太)に勝っていたりしていましたから、国体の予選もある程度は勝ち上がっていくだろうなとは思っていました」
 秀島監督にとって、廣選手の決勝進出は十分に想定内だった。

 決勝でその廣選手を破ったのが、佐野選手だった。決勝での廣選手のプレーは決して悪くはなかったという。だが、結果は佐野選手が6−3、6−2のストレート勝ちを収めた。
「直前の練習試合で、佐野は廣に負けていましたから、調子の良さを肌で感じていたと思うんです。だからこそ、決勝では集中していました。負けられないというプライドもあったでしょうからね」

 途中、廣選手が追い上げ始め、流れがいきかけると、佐野選手はすぐさまネットに出て展開を変えた。ベースラインでのラリー戦では、相手に分があると感じたからだ。悪い流れを断ち切ろうと、要所要所でネットプレーに転じた佐野選手。展開を読む力は、さすがエースである。

 佐野選手は今シーズン、さらなるレベルアップを求め、ストローク強化を図ってきた。もともとネットプレーには定評のある佐野選手。課題は、ストロークで、特にフォアハンドにあった。その佐野選手の変化について、秀島監督はこう説明する。
「バックハンドのストレート、つまりダウン・ザ・ラインやショートクロスは得意なんです。でも、フォアハンドのダウン・ザ・ラインは苦手で、どうしてもセンター寄りの甘いボールになってしまっていました。それがムーンボールでのフォアのダウン・ザ・ラインが決まるようになったんです。技の引き出しが増えたことによって、得意だったネットプレーやバックのショットがより効果的に決まるようになりました」

 今シーズン、佐野選手は国内外のフューチャーズにも5度、出場した。シングルスで1ポイントでも得ること、ダブルスの国内ランキングを1ケタ台にまで上げることを目標としてきたが、ここまでどちらも達成してはいない。だが、今後も出場できるフューチャーズにはチャレンジしていくつもりだ。その理由を秀島監督はこう語る。
「フューチャーズには国内のトップ選手ばかりが出場しますから、簡単には勝たせてくれません。しかし、そういう環境に身を置くことで、精神的なタフさを養うこともできる。それに、そこで通用しない限り、トップ選手に勝っていくことはできませんからね」
 さらなる高みへと、佐野選手のチャレンジ精神は尽きない。

 飯野、自己分析で課題克服へ

 昨シーズンの日本リーグ戦で浮き彫りとなった課題を克服しようと、現在奮闘しているのが飯野選手だ。今シーズンの飯野選手の調子は決して悪くはない。3月のブレインアスリートツアーではシングルス、ダブルスの2冠に輝き、6月のチームスタッフオープンではシングルス決勝で廣選手にストレート勝ちし、優勝している。だが、最も重要な国体県予選では、初戦で新人の中島啓選手に敗れている。最大の敗因はプレッシャーにあった、と指揮官は見ている。
「彼もこのままではダメだということは十分にわかっているんです。もともと才能はある選手。ただ、考え方がまじめすぎて、プレッシャーの楽しみ方をしらない。プレッシャーはデメリットではなく、考え方次第で自分の武器にもなるということをわかってほしい。それがわかると、大切な試合で、彼は十分に力を発揮できると思います」

 予選後、秀島監督は飯野選手とじっくりと話し合った。そこで指揮官から提案されたのが、自分のプレーを分析することだった。
「プレッシャーを感じるな、と言っても無理だと思うんです。ならば、プレッシャーを感じた状態でも本来のプレーができるようにすればいい。そのためには、まずはプレッシャーを感じた時とそうでない時とのプレーに、どんな違いがあるのかを分析すること。プレッシャーを感じた時に、どう修正すればいいのかを自分で把握しておけば、ズルズルといかずに済むと思うんです」

 現在、飯野選手は試行錯誤を続けている。試合の入り方、サーブの軌道、テイクバックの角度……いい時と悪い時との違いについて気づいたことは何でも試している。
「今、飯野は弱い部分も含めて、自分と向き合っています。とにかく自分を知ろうと必死です」と秀島監督。日本リーグでは、成長した飯野選手の姿が見られることを期待したい。

 一方、国体県予選で飯野選手を破る金星を挙げた中島選手は、今年3月にテニスの名門、早稲田大学を卒業し、4月に入行した新人選手だ。大学とはまったく違う生活リズムの中、仕事とテニスの両立に、入行1年目は壁にぶつかる選手も少なくない。だが、中島選手はその壁を難なく越えたようだ。
「1年目は研修も多く、仕事とテニスとの両立はなかなか大変なんです。しかし、中島は順応性が高いんでしょうね。仕事もテニスもコツコツとやっていて、うまく両立しているようです」

 テニスの方はというと、サウスポーの中島選手はフットワークが良く、ネットプレーも器用にこなすオールラウンダー。特にボールをラケットでとらえる瞬間の、ボールタッチのテクニックは天才的なものがあるという。課題はプレーの安定感だ。
「大学時代からポテンシャルの高さは認められているのですが、これといった結果は出ていないんです。というのも、相手次第のところがあって、自分のテニスと合わない選手と対戦すると、簡単に負けてしまう。どんな相手にも自分の実力が出せるようになれば、トップ選手を負かす力も十分にあると思うのですが」

 何かをきっかけにして歯車がかみ合えば、大ブレイクする可能性も秘めている選手だと指揮官は見ている。そして、中島選手がレベルアップすることによって、チーム内の競争が激しさを増し、チーム力がアップすることも期待している。

 ひと夏を越え、国体、日本リーグではどんな戦いを見せてくれるのか。伊予銀行のテニスは、まだまだ進化の途中だ。




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