日本リーグ参戦25年目の快挙だ。
 伊予銀行テニス部は2月13〜15日に東京体育館で行われた日本リーグ男子決勝トーナメントで、初戦と3位決定戦に勝利し、3位入賞を収めた。これまで決勝トーナメントでは未勝利だった伊予銀行にとって白星をあげたのも3位に入ったのも初めてだった。アマチュア選手のみで最高の成績を収め、ベストアマチュア賞を受賞。最優秀新人選手にダブルスで快進撃に貢献した1年目の中島啓選手が選ばれた。エースの佐野紘一選手も優秀選手賞を獲得した。

(写真:今季限りで現役を退く坂野俊選手には特別賞が贈られた)
 「打倒リコー」で一丸

「みんなで力を合わせてベクトルがひとつになりましたね」
 秀島達哉監督は“チーム一丸”で勝ち取った好成績だと強調する。

 ファーストステージで4連勝。セカンドステージでは1勝2敗だったものの、通算5勝2敗でレッドブロック3位に入り、5年ぶりの決勝トーナメント進出を決めた。

 1回戦で顔を合わせたのはブルーブロック2位のリコー。伊予銀行にとっては因縁の相手だった。5年前の決勝トーナメントでは順位決定戦で対戦して敗戦。昨年度、一昨年度は同じブロックで激突し、いずれも苦杯を舐めて決勝トーナメント進出を阻まれた。

「リコーを倒そう」
 それが全員の合言葉だった。先鋒を務めたのはシングルスNo.2の飯野翔太選手。対戦相手は早稲田大学の後輩でもあった。
(写真:フィジカル強化で体重を絞り、動きにキレが出たという飯野選手)

「よく知っている相手だったので、自分なりに考えてプレーできました」
 競った展開を6−4、7−6。飯野選手自身が「一番気合が入っていたので、今までで一番うれしい勝利」と振り返る1勝で流れをつくる。
 
 続くシングルスNo.1の佐野選手は敗れ、勝負はダブルスでの決着にもつれこんだ。ペアを組むのは廣瀬一義選手と新人の中島選手。指揮官が「経験を積ませてポテンシャルを引き出したい」とルーキーを抜擢した新生コンビに初戦突破への願いは託された。

「中島のサーブがいいので僕が動いて決めようと思っていました。リターンも前に入っていって、ネット際で勝負する考えでした」
 廣瀬選手のプラン通り、第1セットは7−5で接戦を制した。第2セットはブレイクを許して苦戦をしながらも、追いつき、ついにマッチポイントを迎える。

 ところが……これをモノにできず、タイブレークの末、第2セットを落としてしまう。
「正直、イヤな流れだなと思いました」
 廣瀬選手は率直にその時の心境を明かす。

 ファイナルセットはタイブレーク方式の10ポイントマッチだ。秀島監督は2人に「守りに入っても仕方がない。攻めていこう」と声をかけた。中島選手も「1回リセットして、切り替えがうまくできました」と前を向いた。

 雌雄を決する第3セット、指揮官の指示通り、ペアはアグレッシブに戦った。先手をとり、プレッシャーをかけて相手のミスを誘発。10−5でついに宿敵を打ち破った。伊予銀行にとっては初のベスト4入りを果たした瞬間でもあった。
(写真:廣瀬選手は中島選手とのコンビネーションに「試合を重ねて良くなった」と手応えを感じている)

 3位決定戦は粘って逆転

 翌日の準決勝はリーグ3連覇を狙うイカイが目の前に立ちふさがった。セカンドステージでもシングルスとダブルスでいずれも敗れ、黒星を喫している。しかも決勝トーナメントでは昨年のウインブルドン選手権でシングルス3回戦進出の実績を持つジミー・ワン選手がメンバーに加わっていた。

「真っ向勝負では勝てない。粘り強く戦いたかったですね」
 秀島監督の思いと裏腹に、コート上では実力差をみせつけられた。先鋒の飯野選手が、若手プロの関口周一選手に2セットを続けて落とし、敗戦。佐野選手もワン選手の力強く、正確なショットに翻弄された。

「相手は本気ではなかったと思います。球のスピードより、タイミングの早さが印象に残りましたね。こちらがペースをつかむ時間を奪って決めてくるんです」
 佐野選手も完敗を認めざるを得ない内容でセットカウント0−2。敗戦が決まった。続くダブルスも落とし、選手たちは上位チームの分厚い壁を実感した。

 それでも、まだ最終日の3位決定戦が残っている。秀島監督はS級エリートコーチ養成講習会に出席のため、この試合は指揮が執れない。キャプテンの植木竜太郎選手が代行を務め、メンバーは「いい結果を届けたい」との一心でエキスパートパワーシズオカとの決戦に挑んだ。

 だが、シングルスNo.2の飯野選手が敗れ、シングルスNo.1の佐野選手も第1セットを失った。崖っぷちの大ピンチ。ここから伊予銀行が持ち味である「粘り強さ」を発揮する。

「サービスゲームさえキープしていけばチャンスが来る」
 第2セット以降、佐野選手はサービスゲームを着実に手中にしていく。第2セットでは2度のブレイクに成功し、セットカウントを1−1に戻すと、最終第3セットも2−2で迎えた第5ゲームをブレイクする。その後もサービスゲームを相手に渡さず、逆転勝ちを収めた。

「初日、2日目どっちも負けていましたし、相手の松尾(友貴)選手は夏に負けていた相手だったので何とか勝ちたかったんです」
 エースが望みをつなぎ、3位の行方は若い2人のダブルスに託された。
(写真:ハードコートを生かした相手の速いサーブにも徐々に対応した佐野選手)

「(同じくダブルス勝負だった)リコー戦と比べれば、自然と入れました」
 廣瀬選手に気負いはなかった。立ち上がりをいきなりブレイクして主導権を奪い、第1セットを6−3で制す。

 第2セットも「決勝トーナメント直前で調子が戻ってきた」という中島のサーブが次々と決まり、相手にリズムをつかませない。サーブミスを連発した相手とは明暗がくっきり分かれ、ゲームカウント6−1で圧倒した。 

 「日本一への道筋は見えた」

 粘り腰をみせての3位。伊予銀行の選手たちには何としても勝って締めくくりたい理由があった。それは今季限りで引退する坂野俊選手の存在だ。チーム最年長の32歳は良き兄貴分だった。

「入社した時から良くしてもらった」と佐野選手は感謝する。この決勝トーナメントでは出番がなかったものの、応援席から声援を送り、コート上のメンバーを鼓舞し続けた。「いい結果で送り出したい」との気持ちでチームはひとつにまとまっていた。

 もちろん、思いだけでは試合に勝てない。思いを成果に結びつけるだけのトレーニングを選手たちは重ねていた。今季はフィジカル強化に力を入れ、女子ソフトボール部のトレーニング施設を利用して筋力アップに取り組んだ。

「コート上ですばやく動ける。体の不安がなくなった」と佐野選手は、このリーグでも効果を実感していた。彼らの追い込まれてからの粘りは、日々、懸命に流した汗の産物だったのだ。

 決勝トーナメント初勝利、そして3位とひとつの山に到達したことで、チームには更なる高みが見えてきた。
「ここまで来たからわかることがある。これから1年、取り組む材料を肌で感じてくれたことが大きかったですね」
 指揮官は選手たちの成長に期待を寄せる。

 決勝トーナメントに出場したメンバーは
「テンポを速めて、相手のペースにする前にポイントを取りに行けるスタイルを身につけたい」(佐野選手)
「ファーストサーブできっちり決められるようになりたい」(飯野選手)
「もっとサーブ練習をして、戦術面を含めた細かい点も突き詰めていきたい」(廣瀬選手)
「もともと得意だったボレーの精度を上げて決め切りたい」(中島選手)
 と今後のテーマを明確に理解していた。
(写真:最優秀新人に輝いた中島選手は「仕事と練習をまだ両立しているとは言えないが頑張りたい」と話す)

 4月にはインカレシングルス優勝の実績を誇る近藤大基選手(慶應大)の入部が内定している。有望な新人が入り、部内の競争は一層激しくなりそうだ。
「日本一を目指すことは簡単なことではありません。でも、まずはその気になることが大事。今回、選手たちが抱いた“やれるかもしれない”という雰囲気を生かしたい。日本一への道筋が見えてきました」

 新年度も秀島監督の下、伊予銀行は国体、日本リーグでの上位進出へ全員のベクトルをひとつにしてチャレンジする。




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