昨季、リーグ戦を4勝18敗の10位で終え、1部リーグ残留を果たした伊予銀行女子ソフトボール部は今季、新体制でシーズンを迎える。4年間チームを率いた酒井秀和監督は総監督となり、2年後の「愛顔(えがお)つなぐ えひめ国体」に向けた選手獲得や環境整備などに力を入れる。酒井総監督から「現場で強いチームをつくってほしい」とバトンを受け継いだのが、秋元理紗新監督だ。現役時代は強豪レオパレスでピッチャーとして活躍。2010年から5年間、コーチとして伊予銀行の選手たちを指導してきた。

(写真:国体でも東京都チームのエースとして優勝の実績を持つ秋元新監督)
「年齢は若い(33歳)が、選手を叱ったり、褒めたり、うまくコントロールしていました。1部の強いチームでやってきた経験を若い選手に伝えられる点でも最適だと思いました」
 酒井総監督は新指揮官を「会社に一押しも二押しも推薦した」という。その思いに、最初は就任を迷っていた秋元監督も、チームを引っ張る決心を固めた。

 最優先課題は打力アップ

 5年前、コーチとして愛媛に来た際、秋元監督が1部のトップクラスとの差を真っ先に感じたのは体力面だった。
「フィジカルの強さが足りなかったですね。ウエイトトレーニングはしていたものの、体に対する意識はまだまだでした」
 そこで旧知のトレーニングコーチを東京から月1回ペースで招聘。選手たちの体づくりを一からやり直した。

「まだまだ、こちらの求めているレベルではない」と指揮官は厳しい視線を送るものの、5年間で徐々に選手たちの体力は上がってきている。その成果が1部昇格、そして残留につながる一因となった。

 今回、監督に就任し、真っ先に取り組んだのは打力向上だ。昨季はチーム打率が2割にも満たず、得点力不足に泣いた。いくらピッチャーが頑張っても点を獲れなければ勝てない。2月の鹿児島キャンプでは男子のピッチャー相手のフリー打撃も行い、強化に努めた。

「まだ目に見えて良くなっているわけではありませんが、選手たちが目先の結果にとらわれず、バッティングを考えるようになってきました。まずは自分のスイングで、しっかり打つことを心がけさせたいと思っています」

 一昨季、1部昇格に貢献したメンバーから上位打線が入れ替わり、秋元監督は「経験の浅い選手ばかりなので、打線やポジションは試行錯誤」と明かす。キーとなるトップバッターや中軸は主将に就任した山あずさや兼任コーチを務める矢野輝美に頼ることになる。

 新しい力の台頭が望まれる中、外野でレギュラーを獲りそうなのが、2年目の前川綾奈だ。「去年はほとんど出場機会がなく、練習ではパッとしないんです(苦笑)。でも、使ってみると意外と打つ。実戦向きの選手だと感じました」と新監督は期待を寄せる。内外野を守れる3年目の正木朝貴、「バッティングにはいいものを持っている」と指揮官が評する片岡あいといった既存のメンバーのブレイクがチームの底上げには不可欠だ。

 「無理と言ったら何も始まらない」

 打撃は劇的に良くならないだけに、今季もバッテリーを含めた守りでゲームをつくっていかなくてはならない。エース右腕の木村久美や左腕の内海花菜、地元出身の庄司奈々と昨季を経験した投手陣が崩れないことが1部を勝ち抜く上での大前提だ。
「昨年1年間、1部を経験したことで自分たちの力がどれだけ通用するか、どうしたら抑えられるか、打たれるかを理解できたはずです。それを踏まえて今季に臨んでいるのでワンランク上がっていますね」

 新人は3名。ピッチャーの大西里帆子は昨季まで2部の甲賀健康医療専門学校で投げていた。速球を武器とする右腕だが、秋元監督は「1部で戦うにはまだまだスピードが足りない」と指摘する。
「スピード、変化球、コントロール。これら3つのうち、最低2つは武器にすることが必要です。体力づくりと並行して取り組ませたいと考えています」

 野手は城西大で主将を務めた對馬弥子と、21歳の北野まいと内野手を2人加えた。對馬は粗削りながらセンスがあり、ショートでの出番がありそうだ。「実業団の打球やピッチャーのスピード、威力についていければおもしろい」と秋元監督も楽しみにしている。また北野はパンチ力があり、開幕当初はまず代打で持ち味をアピールする。

 キャンプを経て3月に松山で開催されたオープン戦の「マドンナカップ」では1勝1分4敗。この4敗は太陽誘電やHonda、日立といった1部のチームが相手だった。「1部のピッチャー相手に長打はなかなか出ない。コツコツ単打を重ねて、出たランナーをきちっと返すしかない。チャンスだと選手たちはどうしても固くなってしまうので、どんな状況でも自分のスイングができるよう、継続して打ちこみをしたい」と秋元監督は開幕までの修正点をあげる。

 今季の目標を新指揮官はあえて「4強入り」と高い位置に設定した。
「戦力的には絶対的なエースも強打者も外国人の助っ人もおらず、昨季は残留を目標に掲げてギリギリ4勝して1部に残ったチームです。だからと言って今季も同じことを目指していたら進歩しない。無理だと言っていたら何も始まらないんです。なので、今季は私から“ベスト4”“15勝”を目標にしようと言い続けています」

 開幕戦は4月19日、ナゴヤドームでのSGホールディングス戦だ。昨季順位は伊予銀行のひとつ上の9位。直接対決は2戦とも3点差以内の接戦だったが、いずれも敗れた。
「実力は向こうが上でしょうが、開幕戦は独特の緊張感がある。何が起きるかわかりません。こちらがうまく勢いに乗って、いいスタートを切りたいですね」
 
 より高みへ、一戦一戦、プライドを持って戦う。時には厳しく、時には優しく、選手たちに接する若き指揮官の下、新生・伊予銀行が1部に旋風を巻き起こす。




◎バックナンバーはこちらから