伊予銀行男子テニス部が快進撃を見せている。昨年12月4〜7日の4日間にわたって行なわれた日本リーグファーストステージ、伊予銀行は4連勝を飾った。現在、イカイ、ノア・インドアステージに続いて男子レッドブロックの3位。これで5年ぶりの決勝トーナメント進出の可能性が大きく広がった(各ブロック3位以内が決勝トーナメントに進出)。そこで、今月23日から始まるセカンドステージを前に、秀島達哉監督にインタビュー。ファーストステージを振り返ってもらい、セカンドステージへの意気込みを訊いた。

「初戦を勝てば、決勝トーナメントが見えてくる」。ファーストステージ前、秀島監督は最大のヤマ場は初戦の協和発酵キリン戦にあると考えていた。その初戦、最大の勝負どころはシングルスNo.2にあるとにらんでいた。そのシングルスNo.2に誰をあてはめるか。秀島監督が切ったカードは、3年目の飯野翔太選手だった。実は前回の日本リーグで、飯野選手は誰よりも悔しい思いをしている。チームが「すべてをかけていた」というセカンドステージの初戦、飯野選手はシングルスNo.2に抜擢された。相手とは前年秋に一度対戦しており、飯野選手が勝っていた。試合前も調子の良さをうかがわせていた。

 ところが、「勝たなければいけない」というプレッシャーが重くのしかかったのだろう。動きがかたく、思うようなプレーができずに苦しんだ。さらに攻めに転じると、今度は相手にカウンターをもらい、なかなか勝機を見出すことができない。一度狂った歯車は、最後までかみ合うことはなかった。結局、1−6、0−6と完敗。この雪辱を果たすチャンスを、指揮官は飯野選手に与えたかった。

「前回の日本リーグの後、飯野は誰よりもトレーニングをしてきました。それはチーム全員が知っているし、彼の努力を認めている。だから私は飯野でいこうと思いました」
 指揮官の出した決断に、チームの誰もが納得していたという。

 初戦で見えた飯野の成長

 迎えた初戦、飯野選手の相手は大学時代にはインカレで準優勝したこともある実力者の星野武蔵選手。予想通り、一筋縄ではいかなかった。第1、2セットは、7−5、5−7というスコア通り、大接戦となった。
「流れがこっちに来たり、向こうに行ったりと、本当に最後までどちらに転ぶかわからない展開でした」
 
 飯野選手が取った第1セットも、リードしていたところを追いつかれ、そのまま一度は逆転され、それを飯野選手がまた追いつくという展開だった。最大の勝負どころとなった5−5と並んでの11ゲーム目、6度のデュースの末に飯野選手が制した。そのまま12ゲーム目をブレークして、飯野選手がこのセットを先取した。だが、再び激しい攻防戦となった第2セットは、5−7と惜しくも競り負けた。

 結局この試合、最後に勝敗を分けたのは、フィジカル面での差だった。第3セット、最後まで自分のテニスをし続けた飯野選手に対し、相手は明らかにフットワークが落ちていた。途中、疲労からであろう、足に痙攣を起こしているしぐさも見受けられた。結局、6−1と飯野選手が圧倒し、セットカウント2−1でこの試合をモノにした。

 もちろんこの勝利は、チームを鼓舞する意味でも非常に大きな意味をもっていた。だが、それだけではない。飯野選手の著しい成長の跡がそこにはあったのだ。1年前、秀島監督は飯野選手について、こう語っている。
「ポテンシャルは十分にある選手なのですが、プレッシャーのかかる場面では、なかなか本来の力を出すことができない。今後は、それを克服していかなければなりません。一緒にメンタル面の強化をしていきたいと思っています」

 今回も大事な初戦、しかもチームの先鋒役を担う自らの試合の結果が、どのような意味をもつのか、飯野選手は十分に理解していた。もちろん、プレッシャーは小さくはなかったはずだ。しかし、そうした試合で飯野選手はしっかりと結果を残した。本人にとって、大きな自信となったことは間違いない。秀島監督も「しつこい相手にも、最後まで我慢のテニスができましたね」と飯野選手の活躍を称えた。

 佐野、上回った“引き出し”の数

 一方、佐野紘一選手が臨んだシングルスNo.1の試合もまた、ファイナルセットまでもつれる接戦となった。秀島監督は、相手の意気込みの強さを感じたという。
「相手の小林(太郎)選手も、この試合に賭けていて、とてもいいテニスをしていました。佐野にとっても難しい試合でしたね。」

 第1セットは佐野選手がスピードもテニスの内容も相手を圧倒し、6−1で先取した。ところが第2セット、小林選手が戦術を変えてきた。第1セットではベースライン上でストロークを放っていた。そのため、小林選手は守りのテニスにならざるを得なかった。しかし第2セットでは、ベースラインよりも前でストロークを打ち、攻めのテニスに変えてきたのだ。自分の好きな速い展開にもっていくことで勝機を見出した小林選手は、6−4でこのセットを奪い、勝負はファイナルセットへと持ち込まれた。しかし、佐野選手に動揺の色はまったく見られず、いたって冷静だったという。

 第3セット、佐野選手は相手のペースを乱そうと、ムーンボールやスライスショットを多用し、展開のスピードを落とした。そして要所ではギアを上げた。相手を左右に振るなどして、自らが攻める展開をしっかりとつくってから、強打を放った。秀島監督の言葉を借りれば、相手の小林選手に「自ら展開をつくらせる」のではなく「(佐野選手のプレーに)対応せざるを得ない」状況をつくり出したのだ。

「佐野の引き出しの多さが遺憾なく発揮された試合でしたね。第2セットは相手のスーパープレーが連発していて、そのままズルズルと流れが持って行かれてもおかしくはありませんでした。しかし、佐野はそこで一歩引いて、わざとスローペースの展開にもっていったんです。さすがだなと思いましたね」
 佐野選手は第3セットを6−4で奪い、チームを勢いづかせる貴重な勝利を挙げた。

 カギ握る最終戦、キーマンはシングルスNo.2

 伊予銀行は佐野、飯野両選手の活躍でシングルスを2本とも取り、早々と勝利を決めた。チームにとっても嬉しい白星だったが、これはチームの結束力を高めることにもつながる1勝となった。その理由はダブルスにあった。大会前、秀島監督が最も頭を悩ましたのは、ダブルスのメンバーだったという。選択肢は2つ。安定感のある廣瀬一義選手と新人の中島啓選手、そして廣瀬選手とベテランの坂野俊選手という2つの組み合わせが候補に挙がっていた。

「廣瀬、中島でいった場合、もしシングルスで1−1と並んだ時のことを考えると、少し心配だったんです。廣瀬、坂野のペアは、昨年の日本リーグで全勝した実績もある。ここは大事な初戦ということもあって、経験を買って坂野でいこうかとも考えました。しかし、ベテランに頼ってばかりでは、やはりチームの底上げは図れない。プレッシャーのかかるところで起用してこそ、本当の実力がつくんじゃないかと。それで最終的には廣瀬、中島でいこうと決めました」

 すると、チーム内では日本リーグのデビュー戦となる中島選手に楽な気持ちで伸び伸びとプレーさせてあげたい、という空気が流れたという。佐野、飯野両選手もそれだけに気合いが入っていたに違いない。果たして、狙い通りにシングルスを2本とも取ったことで、最後のダブルスで登場した中島選手はデビュー戦とは思えないほどリラックスした状態で、いつも通りのプレーができていたという。廣瀬、中島選手の息の合ったプレーで、ダブルスは6−0、6−1と圧勝。伊予銀行は大事な初戦を1本も落とすことなく3−0で快勝した。

「初戦でチームが乗っていけたことが非常に大きかった」という秀島監督の言葉通り、伊予銀行の快進撃は続いた。結局、ファーストステージは4連勝。しかも落としたのは4戦目のダブルスのみと、チームの好調さをうかがわせる結果となった。

 今月23日からはセカンドステージが行なわれ、イカイ、ノア・インドアステージと強豪との試合が続き、最終戦では現在3勝1敗と4位につけている九州電力と対戦する。最大のポイントは、やはり九州電力との直接対決だ。伊予銀行が4勝2敗、九州電力が3勝3敗で最終戦を迎えた場合、勝てば文句なしの決勝トーナメント進出が決定するが、敗れた場合は4勝3敗で並ぶ。この場合、それまでの取得セット数は関係なく、直接対決の結果によって順位が決定する。つまり、九州電力戦での勝敗が決勝トーナメント進出へのカギを握るのだ。

「キーマンとなるのは、シングルスNo.2だと考えています。九州電力のNo.1は非常に手強い。佐野との試合もどうなるかわかりません。だからこそ、No.2のシングルスが重要になってくる。まだ誰を起用するかは決めていません。当日、調子がいい選手でいきたいと思っています。それくらい、チーム全体の調子はいいですよ」

「今年こそは決勝トーナメントに行く」を合言葉に、春からトレーニングを積み重ねてきた伊予銀行男子テニス部。ファーストステージでつかんだ流れを維持し、セカンドステージでも本来の力を発揮したいところだ。そうすれば、自ずと道は開けてくるはずだ。




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