優勝は14人中8人が埼玉西武、6人が福岡ソフトバンク。最下位は9人が東北楽天、4人が千葉ロッテ。恒例のスポニチ評論家による順位予想の結果だ。
 意外だったのはロッテの評価の低さだ。確かにオープン戦は6勝9敗1分の8位と振るわなかったが、2年前には日本一になったチームである。今季は大学ナンバーワン左腕の藤岡貴裕(東洋大)をはじめ、中後悠平(近大)、益田直也(関西国際大)とルーキーの活躍も見込める。私はパ・リーグの台風の目になるのでは、と期待している。

 浮沈のカギを握るのはエースの成瀬善久だ。昨季の成績は26試合に先発し、10勝12敗、防御率3.27。低反発の統一球の導入で、ほとんどのピッチャーが防御率を改善するなか、成瀬だけがバスに乗り遅れたような格好だ。

 なぜ統一球のアドバンテージを生かせなかったのか。昨オフ、私にこう語った。
「統一球は(変化球の)曲がり幅が大きい。それによって右バッターの外を狙ったスライダーが曲がりすぎて真ん中に入ったりすることがありました。あるいはそのまま抜けてしまったり……。
 逆に右バッターのヒザ元にスライダーを投げようとすると、曲がり幅が大きくなったため、ヒザを直撃してしまうリスクがあるんです。“ぶつけてもいいや”くらいの気持ちならば楽なんですが、こっちだって無駄なランナーはなるべく出したくない。それで手加減すると、今度は真ん中に入っちゃったりとか……」

 当初、想定したよりも変化球の曲がり幅が大きかったために微妙なコントロールがままならなかったのだ。
 昨季、打たれた15本塁打、188安打はいずれもリーグワーストだった。自責点69もリーグ最多だ。統一球に対する違和感はなかなか拭えなかった。
 揺さぶりを身上とする成瀬だが、なぜかシュート系の変化球は投げない。スライダーとセットで使えば、コースの出し入れにさらに磨きがかかると思うのだか、成瀬はそれを好まない。

 この理由を訊ねると、こう答えた。
「実は一度、左バッターのインコースにシュートを投げてみたいと思って練習したんです。ところがそれによってストレートを投げる際の腕の振りが鈍くなった。スピンもかからなくなりました」
 同じようなことは中日のクローザーの岩瀬仁紀からも聞いたことがある。岩瀬もこれまでシンカーを投げなかった。「シュート系のボールを投げるとスライダーの質が落ちる」というのだ。
 どうやら、これは左ピッチャーに共通する特徴のようだ。食い込むボールと逃げるボールの2種類があれば“鬼に金棒”という気がするが、それはあくまでも“机上の空論”ということか。

 統一球にも2年目ともなれば慣れるだろう。故障でもしない限り、昨季の成績を下回ることはあるまい。07年には16勝(1敗)をあげている。精密機械のようなピッチングは蘇るのか。

<この原稿は2012年4月15日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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