今シーズン、5年ぶりに日本リーグ決勝トーナメントに進出した伊予銀行男子テニス部。しかし、その決勝トーナメントでは準々決勝で三菱電機に0−3の完敗を喫すると、続いて行なわれた5、6位決定戦でもリコーに1−2で敗れた。1月の予選リーグ第2ステージから数えれば5連敗。決勝トーナメント進出という目標は達成したものの、後味の悪い結果となった。果たして、来シーズンはどうチームを強化していくのか。監督就任2年目となる秀島達哉氏にチーム構想を訊いた。

 昨年12月に行なわれた日本リーグの予選リーグ第1ステージでは怒涛の4連勝を飾った伊予銀行。しかし、今年1月の第2ステージではまさかの3連敗を喫した。ギリギリのところでグループ4位に食い込み、5年ぶりの決勝トーナメント進出を果たしたが、東京体育館では勝利の喜びを味わうことはできなかった。
 長いシーズンを終え、現在大会には出場しているものの、チームとしての活動は休止している。一度、心身ともにリセットするため、今シーズンの反省を踏まえ、今後克服すべき課題についてを各選手が分析する期間としたのだ。今月末には全員で集まり、話し合いの場を設ける予定だ。
「選手自身の考えと、外側から見た私の意見とを融合させて、来シーズンはどうすればいいのか、その方向性をチームとして共有していきたいと思っています」(秀島監督)

 今シーズン、初の専任監督として秀島氏を迎えた伊予銀行は、前シーズンに露呈したフィジカルの弱さを克服するため、普段の練習からフィジカル強化をテーマとしてトレーニングに注力した。そのおかげで足腰の筋力やスタミナがアップし、試合でもその成果が表れた。日本リーグの第1ステージでの4連勝はまさにその賜物といっても過言ではない。
「もちろん、来シーズンも引き続きフィジカル強化は行なっていきます。正直、今シーズンは、勢いでいったところもあると思います。しかし、来シーズンは確実に今シーズンよりも決勝トーナメントにいくのは難しくなる。となれば、練習も同じことをやっていてはダメなんです。ですから、専門のトレーナーとの話し合いでは、今シーズンよりもさらに1.5倍の質と量のトレーニングをやっていこうと。そして、そこに何か新たなことをプラスしていかなければいけないと思っています」と秀島監督。その“何か”を選手たちは今、それぞれ模索している。

 国体こそがチームの存在意義

 さて、日本リーグ決勝トーナメント進出と並んで、伊予銀行にとって柱となる目標といえば、国体での上位進出だ。地方銀行である伊予銀行にとって地域密着・貢献は重要な役割のひとつ。この厳しい経済情勢において、他の強豪チームが次々と廃部・休部を決定する中、伊予銀行が男子テニス部の活動支援をやめようとはしないのは、チームの存在意義がそこにあると見ているからだ。秀島監督を筆頭に選手たちも皆、その思いに応えたい一心で日々練習に励んでいる。その結果として核となるのが、愛媛県代表として臨む国体なのだ。

「現在、伊予銀行男子テニス部は愛媛県随一の強さを誇っています。ところが、国体では9年前の6位入賞が最高となっている。これでは、地域活性化どころではありません。さらに言えば、そんなチームが日本リーグの決勝トーナメントに進出したところで、国体で勝てなくても勝てる大会なのか、と日本リーグの価値まで下げることになる。国体を第一の目標に据えるのは、そういった意味も含んでいるんです」(秀島監督)

 来シーズンも秋までは、あくまでも国体に照準を合わせて、チームの強化を図るという。
「今のままでは、正直ベスト4が精一杯かなというところ。でも、これから約半年間の練習次第では優勝の可能性もありますよ」と自信をのぞかせる秀島監督。今シーズン1年間、指揮官としてチームを見てきた中で、選手たちには伸びしろが十分にあることを感じているのだろう。

 その代表例として今、最も調子のよさをうかがわせているのが2年目の小川冬樹選手だ。
「今シーズンの小川はどんどん成長しているのが手に取るようにわかりましたね。その要因のひとつは社会人2年目ということで、自分なりの生活スタイルが確立され、気持ちが安定していたことにあると思います。そのおかげでテニスへのモチベーションも高くなっているのでしょう。性格的にちょっと考えすぎてしまうところがあるのですが、やる気にさえさせれば最後まで頑張れるタイプ。大事なのは、いかに彼のモチベーションを高めるか、なんです。ですから、コミュニケーションを細かくとるようにしていましたね」と秀島監督は言う。小川選手の成長の背景には、指揮官との信頼関係があったようだ。

 もちろん、その他の選手にも指揮官は期待している。その一人がキャプテンの日下部聡選手だ。今シーズン、本来の調子を取り戻すことができずに苦しんだ日下部選手。だが、どうすればいいかは明確だという。
「やっぱり彼の持ち味はフォアハンドでどんどん攻めていくテニスなんです。でも、通常の国内大会では、彼の実力をもってすれば、それをしなくても勝ってしまう。だからこそ、変えるのが怖いのでしょう。しかし、それでは国際大会や日本リーグの決勝トーナメントといった上のレベルで勝つことはできません。彼自身もわかっているんでしょうけどね……。来シーズンは目先の結果を追い求めるのではなく、その先を見据えて本来のテニスで力を発揮してほしいと願っています」

 専修大学時代、日下部選手のテニスにほれこみ、自らスカウトした選手という経緯もあり、秀島監督はキャプテンの復活を待ち望んでいる。また、それこそがチーム強化の起爆剤となると信じている。4月には同大の後輩、広瀬一義選手が加わる予定でもあり、ぜひ、先輩としての意地を見せたいところだ。

 そして、もう一人秀島監督が復調を願う選手がいる。エースの植木竜太郎選手だ。
「監督として反省していることは、エースの植木竜太郎に負担をかけすぎてしまったことですね。国体前に伊達公子選手との中国遠征があったり、全日本選手でも混合ダブルスに出場したり……。どれも彼にとっては貴重な体験で、得たものは大きかったと思います。そして当行にとっても絶対的に必要なことであったと思っていますので、決して後悔はしていません。ただ、移動の疲れやプレッシャーのことを考えると、彼にとっては厳しかっただろうなと。彼なりに精一杯の調整を図ってくれましたが、やはり負担の大きさが国体や日本リーグの結果に表れているのではないかと思います。ですから、来シーズンは彼のペースで思い切りやらせたいと思っています」
 今シーズンの経験が糧となり、植木選手は必ずや飛躍するに違いない。

 日本リーグでは第2ステージから連敗が続き、シーズンでの有終の美を飾ることはできなかった伊予銀行。しかし、5年ぶりに決勝トーナメントに進出したからこそ、見えてきた課題があるはずだ。秀島監督が就任して1年目の今シーズン、チームは確実に強くなった。しかし、真の実力を試されるのはこれからだ。4月1日、伊予銀行男子テニス部が新たなスタートを切る。


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