昨シーズン、4年ぶりに1部復帰を果たした伊予銀行。結果は最下位に終わったが、レオパレス21の廃部により、今シーズンも再び1部のステージに挑むこととなった。だが、厳しい戦いが待っていることに変わりはない。2勝20敗に終わった昨シーズン以上の成績を残し、今度こそ自力で1部残留を決められるかが焦点となる。開幕を約1カ月後に控えた今、チームはどんな状態にあるのか。監督就任5年目を迎えた大國香奈子監督に訊いた。

 昨年12月には毎年恒例の年末合宿、そして今年1月にも約1週間ほど強化合宿を行った伊予銀行。その2つの合宿では主に基礎体力を身につけるためのトレーニングを行なった。そして2月の宮崎県での春季キャンプでは、より実戦的な練習を行ない、開幕に向けて着々と準備を進めている。「オフの間、どう過ごすかが何より重要」と語っていた大國監督。果たしてチームはどんな成長を見せているのか。

「内容自体は、変わったことをやっているわけではありません。ほとんど昨年と同じメニューなんです。でも、選手は明らかに変わりました。昨年までは厳しい全体練習の後に個人練習などできなかったんです。ところが、今年はこちらが何も言わないのに、自主的に個人練習をする子が多かったですね。今年も昨年までと同様、選手のスタミナぎりぎりのところまで追い込むようなメニューなんです。選手自身の体力もそれほど大きな差があるとは思えません。それでも個人練習までやってのけた。その理由は一つ。やはり気持ちだと思います。昨シーズンの二の舞を踏まないためには、やらなければいけない、という気持ちが選手たちの体を動かしているのだと思います」

 昨シーズンの伊予銀行には1部がどれだけ厳しいかを身をもって知っていたのは、わずか数人しかいなかった。しかし、今シーズンは違う。新人選手2人を除けば、全員が1部の怖さを十分に知っている。だからこそ、チームの雰囲気も選手自身の練習への取り組みも1年前とは全く違うのだろう。1シーズンとはいえ、“経験”がチームの財産となっているのだ。
「2部にいたら、ずっとわからなかったでしょうね。実際、選手たちは自分たちと1部の選手との一番の違いはメンタルの強さという点を肌で感じたようです」と大國監督。監督自身、やらせてばかりの練習では1部では勝てないことはわかっていた。

 今シーズン、キャプテンは引き続き川野真代選手が務めるが、副キャプテンには中森菜摘選手と重松文選手を指名した。闘志を内に秘めるタイプの中森選手と、どちらかというと目立つことが嫌いな重松選手。果たして二人を抜擢した理由とは何なのか。
「中森は1年目、全く声が出ていなくて、厳しく叱ったことがあるんです。でも、3年目の昨年あたりから、だいぶ声が出るようになってきました。彼女のいいところは年上だろうと年下だろうと、ズバッと自分の意見を言えること。そして、練習でも率先してやるような積極性がある。リーダーシップに長けた子ですから、とても頼りがいがあると思いますよ。
 一方の重松は大人しい性格の選手。でも、誰にでも優しくて、気配りができる子ですから、サポート役にはピッタリ。キャプテンの川野はチームをまとめるのに必死。もともと頑固な子ですから、すぐに悩んじゃうんです。キャンプでも精神的に相当クタクタになっていたみたいです。そんな川野を重松はうまく陰で支えてくれるのではないかと思っています」

 今シーズン、大國監督が掲げたチームの課題は「元気よく」だ。とにかく声を出して、チームも自分も奮い立たせることが最重要テーマだ。キャンプではだいぶ声が出てきていたようだが、やはり疲れてくると声が出なくなることも少なくなかったという。
「きつい時にこそ、声は出さなければいけないんです。試合で一番きついのは劣勢の時。そんな時に声も出なくなってしまったら、もうそれだけで相手に負けてしまっている。昨シーズンも勝負が左右しそうな場面になると、声が出なくなっていた。今シーズンはそういうことがないように、今から声を出させています」

 その言葉通り、大國監督はキャンプで「元気よさ」を徹底させた。キャンプの最後には同じ1部リーグのシオノギ製薬と2試合行なった。指揮官が求めたのは勝敗にはこだわらず、とにかく最後まで声を出し、元気よくプレーすることだった。1試合目、キャンプでの振り込みが成果として表れ、結果的には完封負けを喫したものの、ヒット性の当たりが数多く出た。声もほとんどの野手が合格点だったという。問題はバッテリーだった。配球的に甘くなった場面もあり、今後への課題となった。それでも時期的なことを考えれば、大國監督も納得はしていたという。しかし、指揮官2人の若いキャッチャーの態度には不満をあらわにした。

「この試合、キャッチャーは3年目の藤原未来でいくと決めていました。本人にもそう伝えていたんです。しかし、あれだけ元気よくと言っていたにもかかわらず、5回に失点されて以降、声が出なくなってしまった。だからすぐに2年目の池山あゆ美に代えたんです。ところが、『元気を出していきなさい!』と送り込んだはずの池山も全く声を出さなかった。仕方ないので、再び藤原に代えました」

 サッカーで言えば、司令塔の役割を担うのがキャッチャーだ。ピッチャーをはじめ野手陣と向かい合う唯一のポジションでもあるキャッチャーはグラウンド全体がよく見える。チームメイトの表情も雰囲気も感じ取ることができるキャッチャーが最も声を出し、チームを盛り立てなければならない。だからこそ、大國監督はあえて若い2人に厳しく指導しているのだ。

 さて、今年も新人選手が加入する。ピッチャーの西村瑞紀選手と外野手の松岡玲佳選手だ。西村選手は西山高校(京都)出身。高校時代は2番手だったが、169センチとチーム一長身の大型ピッチャー。今後の成長が楽しみな選手だ。一方の松岡選手は須磨ノ浦女子高校(兵庫)出身。キャプテンとしてチームを牽引し、昨年のインターハイ優勝メンバーでもある。松岡選手は既に宮崎でのシオノギ製薬との試合にも出場し、2試合で好出塁率を残した。「相手にデータがなかったことが大きい」と大國監督は言うが、それでも垣間見えたセンスの良さは即戦力として十分。1年目からの活躍に期待したい。

 昨シーズン、伊予銀行が1部残留のために掲げた目標は「6勝」という数字だった。果たして今シーズンは――。
「今回は具体的な数字はあげません。目標は5位以上。これは私ではなく、選手たちで掲げてきた目標です」
 高い目標設定にチームの成長の跡が垣間見える。練習をやるもやらないも、本番で勝つも負けるも、全ては選手自身。その自分たちが5位以上という高い目標をかかげたのだから、練習に気合いが入るのも当然だ。

 開幕は4月11日。対戦相手は昨シーズン2部で15勝1敗とダントツの成績で優勝し、1部に昇格した大鵬薬品だ。5月に入れば、4週連続で2試合ずつ試合が予定されている。第2〜4節は栃木、群馬、埼玉と関東圏内の試合のため、愛媛には戻らずに6試合をこなす。さらに最終節は山口へ移動しなければならない。2週間以上のホテル暮らし、長距離移動と疲労困憊の中での戦いを強いられる。こうした厳しいスケジュールを乗り切るためにも、スタートでつまづくわけにはいかない。大國監督自身も開幕戦を最重要ポイントに挙げている。

 理由は何であれ、1部残留が決まった伊予銀行。せっかく与えられたチャンスをみすみす逃す手はない。昨シーズンの悔しさを糧にして成長した姿を、ぜひグラウンドで見せてほしい。


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