20日、プロ野球パ・リーグが開幕しました。最高のスタートを切ったのがオリックス。昨季リーグ2位の東北楽天相手に10年ぶりとなる開幕3連勝を果たしました。また、2年連続Bクラスと低迷気味の千葉ロッテも埼玉西武に2勝1敗と勝ち越しましたね。一方で前覇者の北海道日本ハムは2連敗を喫し、ホームでの開幕カードを落としてしまいました。しかし、実は昨季も日本ハムは開幕3連敗を喫しているのです。シーズンはまだ始まったばかりですから、今後が非常に楽しみです。
 さて、今季のパ・リーグは6球団全てに優勝の可能性があるといっていいほど、混戦必至。恒例となっている開幕前の優勝予想でも、皆口をそろえて「どこが優勝してもおかしくない」と言っていましたね。私も全く同感です。開幕カードの戦いを見て、さらにそのことを再認識した人も少なくないでしょう。

 そのひとつとしてあげられるのが日本ハムと福岡ソフトバンクとの試合。昨季までならどのバッターも日本を代表する投手、ダルビッシュ有(日本ハム)や杉内俊哉(福岡ソフトバンク)に対して気後れしているところが見受けられましたが、今季はそれが全くありませんでした。それどころかピッチャーに向かっていく気迫が感じられたのです。これは両チームともにいいキャンプが過ごせたことの証でもあり、「よし、今季はしっかりと戦えるぞ」という気持ちになっているのだと思います。

 また、西武とロッテとの試合ですが、正直どちらに転んでもおかしくない紙一重の試合でした。その中でロッテが勝ち越しましたが、ロッテは7年ぶりに指揮官が代わり、今は発展途上の段階。しかし、勢いに乗ればおもしろいチームです。キーマンとして注目したいのは、やはり韓国代表のキム・テギュン。開幕カードは13打数1安打7三振と散々な結果に終わりました。ワールド・ベースボール・クラシックでもそうですが、韓国のバッターは力はあるものの変化球に弱いところがあります。技巧派ピッチャーの多い日本球界では必ずといっていいほど苦戦してしまいます。

 しかし、私は同じく韓国からロッテに移籍したイ・スンヨプ(巨人)よりも慣れるのが早いのではないかと見ています。というのも、セ・パともに左打者への懐を突くボールを投げるピッチャーは多いのですが、右打者にはそれほど厳しい内角攻めはない傾向にあるからです。もともと柔軟性もあるバッターですから、順応するのにそう時間はかからないかもしれませんね。

 また、チームが上昇するために不可欠なのが西岡剛の活躍です。今季はキャプテンに抜擢されました。彼の中にも「自分が変わらなければいけない」という思いがあったのでしょう。周りに積極的に声をかけるなど、これまで以上に責任感と自覚が芽生えてきたようです。打線でもリードオフマンとしてチームを牽引していくことが求められる西岡ですが、彼に最も必要なのは出塁率。初球からでも振っていく積極的なバッティングが売りの西岡ですが、今後は選球眼を養い、確実性をあげていってほしいと思います。積極性と確実性を兼ね備えることができれば、もともと素材は一級品なのですから、日本を代表するリードオフマンになれるはずです。

 そして、明暗がはっきりとわかれたオリックスと楽天の試合ですが、それぞれのいいところ、悪いところが出ましたね。オリックスは投手陣が期待通りのピッチングをし、さらに打線は大事なところで一発が出ました。まさに投打がかみあった3試合だったと思います。特に開幕投手を任された金子千尋は無四球完封とこれ以上ない素晴らしいピッチングを見せてくれましたね。相手としても初戦であれだけのピッチングをされたのですから、脅威に感じたことでしょう。好投した最大の理由はやはり開幕投手を任されたという責任感にあったと思います。昨季までは同じ先発の柱だった小松聖が今季はリリーフに回ったことで、「自分がエースとしてやらなければ」という思いが強くなったのでしょう。岡田彰布監督は選手に明確な役割を与える指揮官ですから、それが功を奏したといえると思います。

 また、打線では若手が多い中でメジャー経験もあるベテラン田口壮の存在は非常に大きいことでしょう。キャプテンシーがある選手ですから、チームをうまくまとめていくと思います。また、今季私が注目しているのがカブレラです。開幕こそ体調を崩しただの、DHを拒否しただのと欠場しましたが、あれはカブレラが故意にやったことではないかと思うのです。というのも、岡田監督という人がどんな指揮をとる監督なのか、そして自分自身をどう評価しているのかという本音を知りたかったのではないかと。だからこそ、ワガママを言うようなことを言ったのです。しかし、そこで岡田監督にガツンとやられたことで、「自分は与えられたポジションで頑張るしかない」と気持ちが固まったことでしょう。実際、先制、決勝と連日大事なところでホームランを放っています。今季の活躍を暗示したバッティングでした。

 一方、3連敗を喫した楽天ですが、実は私は開幕前の予想として1位にあげていました。その理由は昨季の経験がいかされるのではないかと思ったからです。厳しい野村克也前監督から、選手との距離が近いブラウン監督に指揮官が交代したことで、チームに緩みが生じているのではないかという声もあります。しかし、私は決してそうは思いません。昨季の楽天を振り返ると、初めてAクラスとなり、クライマックスシリーズ(CS)に進出したことが取り沙汰されますが、最後彼らは負けて悔しい思いをしているのです。選手は皆、CS進出ではなく日本一になることを目指しています。ですから、楽天の選手はCS進出の喜びよりも日本シリーズに進出できなかったことへの悔しさの方が大きく残っているはずです。そんなチームに気の緩みが生じるというのは考えにくいこと。皆、今年こそはという思いでいることでしょう。

 もちろん楽天にも弱さはあります。開幕カードで見せた打線のもろさ、そしてリリーフ陣の不安定さはまさにそうです。しかし、他の5球団もそれぞれ穴はあり、抜きん出ているチームは見受けられません。だからこそ、どの球団が優勝してもおかしくないのです。その中で楽天は昨季の経験がプラス材料としていかされるのではないか、それが私が楽天を優勝チームに予想した理由です。

 まさに群雄割拠といっていい今シーズンのパ・リーグ。最後までダンゴ状態となり、CS進出のAクラス争いも激しさを増すことでしょう。野球ファンにとってはどの球団からも目が離せそうにありません。果たして最後に笑うのはどのチームなのでしょうか。6球団の熱い戦いに注目です!


佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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