その日、ニンジニアスタジアムはたくさんの着ぐるみマスコットであふれかえっていた。4月24日、J2第8節、愛媛FC対横浜FC戦。「伊予銀行サンクスデー」と銘打って行われた試合で、愛媛県中の「ゆるキャラ」が勢ぞろいしたのだ。愛媛FCのキャラクターである「オ〜レくん」「たま媛ちゃん」「伊予柑太」や、ネットで話題沸騰中のカエルマスコット「一平くん」など、27体のマスコットがスタジアムに訪れたサポーターたちをなごませた。
(写真:伊予銀行のマスコット「とりカエル」(左)と「オ〜レくん」)


 愛媛FCはJ2に昇格した2006シーズンより、ホームゲームでマッチスポンサーを募り、さまざまなイベントを行っている。愛媛FCのスポンサーでもある伊予銀行は、初年度から毎年1回、ホームゲームで「伊予銀行サンクスデー」を開催してきた。過去には縦10メートル、横14メートルのオレンジの巨大ユニホームを作成。試合前やハーフタイムにピッチ上やスタンドでお披露目され、スタジアムを驚かせた。

 今年のサンクスデーについて、具体的なプランを練り始めたのは昨年11月末から。今季からJ2は19クラブに増加した関係で、試合数が36試合に減少した。つまり、ホームゲームは18試合しかない。過去4年、サンクスデーはリーグ戦も佳境に入った秋に行われていた。ただ、この時期は行楽シーズンとも重なる。
「もっと早い時期にたくさんの観客を呼んで、愛媛FCを後押ししよう!」
 そんな声もあり、今回はシーズン序盤の4月に開催日が設定された。

 着ぐるみは職員の手づくり!

 多くの人をスタジアムに集めるためには、試合の中身はもちろんのこと、スタジアム内外で観客を楽しませる仕掛けが不可欠だ。試合は土曜のデーゲーム。クラブでは多くの子どもたちが来場することを見越して、先に挙げたように「ゆるキャラデー」を企画していた。

 伊予銀行にもオリジナルのマスコットがいる。「とりカエル」と「イカノオスシダー」だ。「とりカエル」は伊予銀行のクレジット機能付キャッシュカード「IYOCA」のキャラクター。顔はカエルで体はトリの姿で、女性や子どもたちにも親しみやすいものになっている。

 一方、「イカノオスシダー」は、実は銀行をPRするキャラクターではない。地域防犯のためにつくられたマスコットだ。警視庁の防犯標語「いかのおすし(※)」を、より分かりやすく子どもたちに伝えるために作成された。赤いコスチュームに身を包んだ姿は、子どもたちの大好きな戦隊ヒーローそのもの。これまでも防犯イベントや安全啓発ビデオに登場し、愛媛の平和を守るために貢献してきた。

 この2つのマスコットとも、何と着ぐるみは伊予銀行職員のお手製だ。専門の業者に発注する方法もあったが、日頃からキャラクターを活用している職員が作成したほうが思い入れは強い。一念発起し、仕事の合間を縫って製作した着ぐるみは、いずれもイメージにピッタリの力作となった。

 試合は快勝、イベントも成功

 そして試合当日、「とりカエル」「イカノオスシダー」をはじめとしたマスコットは、試合前から会場前広場で来場者と触れ合った。大集合した「ゆるキャラ」に子どもたちは大喜び。あちこちで歓声が上がった。またスタジアムゲートの入口では、先着3000名に伊予銀行と愛媛FCのコラボタオルを配布。中学生以下の子どもたちには先着300名限定で、特製缶バッジがプレゼントされた。
(写真:コラボタオルは「とりカエル」と「オ〜レくん」のイラスト入り)

 過去のサンクスデーでも活躍したジャンボユニホームがピッチ上に登場し、いよいよキックオフの時間が近づいてきた。キャラクターたちに先導されて両クラブの選手たちが入場する。スタンドでは伊予銀行の職員と、その家族約1000名がスタンドに陣取り、愛媛FCに大きな声援を送った。

 ゲームは前半27分、コーナーキックからキャプテンのFW福田健二がヘッドで落としたボールをゴール前に詰めていたDF小原章吾が押し込み、愛媛が先制する。さらに40分、これまたセットプレーからDFアライールが鮮やかなヘディングシュートを決めて2−0。愛媛は前半でリードを奪って、試合を折り返した。

 ハーフタイムには再びジャンボユニホームが登場して、場内を一周。スタンドにボールを投げ込んで、スタジアムを盛り上げた。勢いづいたオレンジの選手たちは後半に入っても動きが落ちない。追加点こそ奪えなかったものの、安定した守備で元日本代表の大黒将志らスタープレーヤー擁する横浜を封じた。試合はそのまま愛媛が2−0で快勝。サンクスデーはJ通算50勝を達成する節目の1勝で締めくくられた。
(写真:晴天に恵まれ、ジャンボユニホームも輝いていた)

 より地域に愛される銀行、そしてクラブへ

「来場者のお客さんに、より楽しんでいただけたと考えています」
 伊予銀行では今回のイベントをそう評価している。試合後には、各営業店のロビーで当日の映像を流し、来店客にPRを行った。愛媛FCは5月28日現在、5勝4分4敗の9位。目標としている8位以上に向け、好位置につけている。“サンクスデー効果”は充分にあったといえそうだ。

「これからは試合前後だけでなく、観客が一体となる応援やスタジアムを離れたところでの企画も必要だと考えています」
 来シーズンのサンクスデーに向け、早くも構想は膨らんでいる。サッカークラブも企業も地域住民の支持なくしては成り立たない。いかに地域に親しまれ、愛されるか。伊予銀行も愛媛FCも目指すゴールは一緒である。

 伊予銀行は愛媛FCのスポンサードのみならず、先に挙げた地域防犯活動や、環境保護活動への支援、点字カレンダーの贈呈など、さまざまな地域貢献の取り組みを行ってきた。愛媛FCでもサッカー教室のみならず、小学生の安全な下校を支える「見守り隊」活動や、障害者スポーツ大会での介添えといった地域密着の試みは少なくない。
「試合以外での活動で連携することも検討していきたい」
 クラブと企業がいくつもパスを出し合いながら、ゴールへと向かう。5年間のサンクスデーを通じて育まれた互いの連係は、今後ますます強固なものになりそうだ。

※「行かない、乗らない、大声で叫ぶ、すぐ逃げる、知らせる」と防犯に大切なポイントの頭文字をとった標語。


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