酒井秀和監督就任1年目の今シーズン、伊予銀行女子ソフトボール部はあと一歩のところで1部復帰には至らなかった。リーグは13勝3敗でアドバンスセクションの2位を確保し、プレーオフ進出を果たしたものの、ホープセクションの2位・NECアクセステクニカに1−2と惜敗した。それだけに「来季こそは必ず」という指揮官の思いは強いはずだ。そこで今季の反省を踏まえたうえで、来季への課題について酒井監督に訊いた。

「気持ちの面で最後まで修正することができませんでした」
 優勝することができなかった敗因について訊くと、指揮官は開口一番にそう言って、今シーズンを振り返った。
 伊予銀行女子ソフトボール部は前節を9戦全勝の好成績でシーズンを折り返した。後節までの約3カ月間、全日本総合選手権四国予選、全日本実業団選手権大会、国体四国予選などをこなしながら、猛暑に耐え得る体力強化を中心に、チームは順調に調整を進めていた。

 ところが、後節の初戦となった日本精工戦、伊予銀行はミスが続出。前節には一度もなかった2ケタ失点で敗れた。なかでも指揮官が“最大の敗因”としたのが、2回裏の坂田那己子投手のピッチングだった。初回に1点を先制された伊予銀行だったが、2回表に川口茜選手の2ランなどで一挙3点を奪って逆転に成功と、流れは伊予銀行に傾きかけていた。ところがその裏、坂田投手はダブルプレーで2死としながら、そこから2者連続ヒットで1点を失ってしまう。さらに四球を与えて2死一、二塁とすると、レフトの川口選手が痛恨のエラー。3ランとなるランニングホームランを許し、再びリードを許した。これで勢いづいた日本精工は3回裏、5回裏にも3点ずつを追加し、試合の主導権を握った。

「確かに川口のエラーも痛かったのですが、その前にせっかくダブルプレーをとって、いい流れができたわけですから、あそこで坂田がきっちり3人で終わらせなくてはいけなかったんです。味方が逆転してくれた直後の守りでしたから、なおさら踏ん張ってほしかった。そうすれば、十分に勝ちにつなげることができた試合でした」

 この試合で酒井監督は無意識のうちに選手の気持ちに“驕り”が生じていることを感じた。
「選手たちに前節のような何が何でも勝ってやろう、という気持ちが全く感じられなかったんです。これはベンチも含めてです。味方がピンチの時にこそ、ベンチが声をかけなければいけないのに、シーンとしている。グラウンドでもエラーをした選手に誰も声をかけない。ただ淡々と試合をしていました。それじゃ、勝てる試合も勝てるはずがありません。そこには“なんとかなるだろう”という驕りや、“誰かがやってくれるだろう”という甘えがあったと思うんです。そのことを選手には厳しく言いました」

 翌日、翌々日の試合は台風の影響で順延となった。これが伊予銀行にとってはプラスとなった。次の試合までに時間が空いたことで、しっかりと気持ちを切り替えることができたのだ。約1カ月後の島根三洋電機戦では2−0と完封勝ちを収めた。その内容もよかった。序盤に挙げた得点を、末次夏弥投手、坂田投手の継投で守り切り、酒井監督が目指す理想通りの展開だったのだ。

 ところが、喜ぶのも束の間、ダブルヘッダーとなった翌日は連敗を喫してしまう。不運だったのは1試合目の甲賀健康医療専門学校戦だ。2点ビハインドで迎えた最終回、無死一塁からセンターへのテキサスヒットで無死一、二塁に……となるはずが、ショートバウンドした打球を二塁塁審がノーバウンドで捕球したと判定し、「アウト」の宣告をしたのだ。そのため、一塁ランナーはあわてて帰塁せざるを得なかった。ここで一時中断となる。議論の結果、アウトの宣告は取り消されたものの、二塁フォースアウトとなり、1死一塁から試合再開となった。結局、後続が凡打に終わり、伊予銀行は完封負け。その敗戦をひきずったまま入ってしまった2試合目のぺヤング戦では、気持ちを切り替えることができず、2−7で敗れてしまった。

 それでも伊予銀行はその後、再びチームを立て直した。最後は3連勝でリーグ戦を締めくくり、プレーオフ進出を決めた。特にリーグ最終戦となったカネボウ化粧品戦では今シーズン初のタイブレークにまでもつれこむ接戦を、新人の小西智子選手のサヨナラ打でモノにし、チームに再び活気が戻った。

 そして迎えたプレーオフ、NECアクセステクニカ戦は1点を争う投手戦となった。序盤に2点を失った伊予銀行だったが、4回に1点を返し、追い上げを図る。しかし、なかなか相手のピッチャーを攻略することができず、結局1点差に泣いた。この試合を酒井監督は次のように振り返った。
「NECのピッチャーはリーグ戦で5勝0敗、防御率1.69という好成績を挙げたサウスポー。うちの打線はなかなか彼女を打ち崩すことができませんでした。クリーンヒットが無理ならば、バットを短くもってくらいつき、ファウルで粘ってポテンヒットでもとか、四球でもいいから出塁しようとか、そういう執念が欲しかったのですが……」
 ここでもやはり、メンタル面での課題が浮き彫りとなった。

 もちろん、来シーズンの目標はただ一つ、1部復帰である。そのためにはまず、自らが変わらなければいけないと酒井監督は感じているという。
「1年目ということもあって、私の方も選手に遠慮しているようなところがあったことは否めません。でも、この1年間で、選手との距離はほとんど感じることはなくなりました。来シーズンはグラウンド内ではビシビシ厳しくやっていきますよ!」

 今後は12月に行なわれる行内での年末合宿や来年1月の強化合宿などを通して、チーム再建を図ることになる。若いチームだけに、伸びしろは十分。オフでのトレーニングによって、来シーズンはどんなチームへと成長を遂げるのか。 “仏”から“鬼”へ変貌した指揮官の手腕に注目したい。


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