今シーズン、伊予銀行男子テニス部がチーム再建のカギとして取り組んできたのが“切り返しの速さ”だ。ボレー&ストロークといった瞬発力を身に着けるトレーニングを積み重ねてきたことで、確実にその課題は克服しつつある。チームはいよいよこれから日本リーグに向けて徐々にエンジンをかけていくことだろう。その中で一つの山として迎えるのが愛媛県代表として出場する国民体育大会だ。これまでの最高は2001年の6位。果たして今年はどんな目標を立てて臨むのか――。

「ここまでやってきたことを発揮する。それだけです。結果は後からついてくると思っています」
 秀島達哉監督はそう国体での目標を語った。「優勝するつもりでいく。最低でも入賞」と意気込んでいた昨年までとは一転、今年は順位などの具体的な目標はない。その意図するものとは何なのか。

「国体がチームにとってどれだけ重要かは、もう選手は十分にわかっています。ですから、私からプレッシャーを与える必要はないと思っています。選手をガチガチにさせるのではなく、いかに本番で実力を発揮させてあげられるか。今回はその点を大事にしています」
 同行にとって初めての専任コーチに就任して3年目。指揮官の考えや方針はチームにはすでに浸透しており、チームづくりは次の段階へと来ていることを秀島監督は感じているのだろう。それだけチームは着実に成長しているという証でもある。

 今回、国体に出場するのは植木竜太郎選手と廣一義選手の2人だ。今やエースとしてチームを牽引する植木選手は伊予銀行に入行以降、5年連続の出場だ。だが、今シーズンの序盤は決してよくはなかったという。優勝した5月の国体県予選まではなかなか調子が上がらなかった。試合でも勝ち切ることができず、自分のプレーに納得することができなかったようだ。

 浮上のきっかけは4月のみまさか湯郷オープンだった。その試合で後輩の坂野俊選手に負けを喫した植木選手は、秀島監督など周囲からいろいろとアドバイスを受けたことで気持ちを切り替えることができたという。

「それまでは『絶対に負けられない』という気持ちが強すぎて、逆に『負けたらどうしよう』と考えてしまっていたんです。それがプレーを小さくしていた。そのことに気づいたんです。『もっと得意のフォアで攻めていったほうがいい』というアドバイスもあって、自分のプレーが消極的になっていることに気づくことができました。これが大きかったですね。勝ち負けを気にするよりも、とにかく攻めていこうと。たとえ負けても『内容は悪くないから大丈夫』と、敗戦もステップアップの一つだと考えられるようになったんです」(植木選手)

 国体では1、2年目こそ入賞を果たした植木選手だが、一昨年、昨年は2回戦敗退を喫し、悔しい思いをしている。それだけに気合いは十分。そうした植木選手の国体への姿勢が廣選手にもいい刺激となっている。

 秀島監督が今年最も成長したと選手に挙げたのが、その廣選手だ。
「昨年1年間、実業団のレベルを知ったことで今年は自覚が出てきましたね。“必死にやらなくてはチームには生き残れない”とわかったのでしょう。どちらかというと、やらされていた昨年とは違い、練習での姿勢も自主性が出てきました」

 メンタル面の変化と同時に、プレーの面においても昨年とは違う。秀島監督のアドバイスで持ち味であるネットプレーの割合を増やしたのだ。これが功を奏し、結果も出るようになった。強力なライバルのチームメイトに勝利し、国体出場権を得たのはその代表例と言っていいだろう。

 国体の県予選以降、ダブルスを組んでいる植木選手と廣選手だが、果たして相性はどうなのか。お互いの印象を訊くと、口をそろえて「組みやすい相手」と語る。ストロークを得意とし、ガッツあふれるプレーの植木選手に対し、廣選手はネットプレーを得意とし、どんなときも冷静でいられるタイプ。対照的だからこそ、お互いをカバーし合い、調和が取れているのだ。

 廣選手が植木選手とのダブルスにより自信をもつことができたのは8月の愛媛オープン準決勝だという。この試合、プロのペア相手に植木・廣ペアは第1セットを6−4で先取。続く第2セットも序盤はリードを奪っていた。ところが、3−3と並ばれた後の第7ゲーム、植木・廣ペアのサービスゲームを40−0としながら、4ポイント連取され、ブレイクされてしまったのだ。結局、そこから挽回することができないまま3−6で奪われると、第3セットも2−6で落とし、逆転負けを喫した。だが、廣選手はこの結果に気落ちすることはなかったという。

「プロを相手に第1セットを取って、第2セットの序盤までリードすることができました。『あ、自分たちもこれくらいのレベルの選手とやりあえるんだ』と自信がつきました。ただ、結局は負けてしまった。勝てそうで勝てなかった。格上の選手に勝つにはもっと思い切ったプレーが必要だいうことがわかりました。技術的には相手が上ですけど、自分もちた決して勝てないわけではない。そう思えたことが自分にとっては大きかったですね」

 着実にレベルアップしているダブルスに関して、秀島監督もまったく心配していない。では、国体で上位を狙うためのポイントは何なのか。
「やっぱり、シングルスですよね。どこのチームもNo.1は強い。ですから、植木はとにかく思い切りぶつかっていくだけです。一番のポイントはNo.2の廣だと思っています。ここは確実に取りたい。廣はポテンシャルの高い選手ですし、ネットプレーは抜群です。しかし、疲労がたまる後半、ストロークが乱れてくる。ですから、今はフィジカル強化に重点を置いています。メンタル面は植木が廣とコミュニケーションをとって引っ張ってくれているので安心しています。あとは体力的なところでの勝負になると考えています」

 国体が終われば、2カ月後には日本リーグが待っている。前述したように、廣選手が成長したことで、チームの戦力は格段にアップした。新人の佐野紘一選手がチームの中で最も調子がいいというのも心強い。全日本選手権も本戦から出場する予定である。新キャプテンに就任した萩森友寛選手は自らプレーでチームを牽引しようと、奮闘している。昨年、好調だった小川冬樹選手が春先にラケットをかえたことでスランプ気味ではあるものの、もともと実力のある選手。日本リーグに向けて復調してくれると指揮官の信頼は揺るがない。

「日本リーグでは誰をシングルスにするか、誰と誰をダブルスにするか、正直悩んでいます」と嬉しい悲鳴をあげる秀島監督。選手層はこれまでとは比較にならないほど厚いものになっている。チーム再建の目途は立った。あとは結果を残すのみだ。国体、日本リーグと伊予銀行にとっていよいよヤマ場を迎える今後に注目したい。


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