人生の敗者復活戦か。
 デーブ大久保(本名・博元)元埼玉西武打撃コーチの東北楽天入りが“内定”した。

 周知のようにデーブは現在、西武球団と係争中である。これまで球団と事を起こすような人間は敬遠されてきたが、楽天がオファーするということは指揮官である星野仙一の意向が働いたと見て間違いあるまい。
 逆に言えば、デーブの手腕がそれだけ高く評価されたということだ。10月7日号でも書いたが、パ・リーグのホームラン王が確実な西武の「おかわり君」こと中村剛也は、デーブの最高傑作と言える。
 伸び悩んでいた中村にポイントを前にするように指示し、素質を開花させた。先見の明があったということだ。

 しかし、デーブはガチガチの“前軸派”ではない。指導法は実に柔軟なのだ。
 それは打撃論からも明らかだろう。
「一般的に言われるように、軸足を後ろに置く。これも間違いではないんです。
 というより、僕の考えでは軸足は前の足のでも後ろの足でもどっちでもいい。どちらかで回ればいいんです。
 サンペイ(中村のニックネーム)の場合、極端にボールを引き寄せ、(後ろの)右足の前で打っていた。それが証拠に詰まったファールが多かった。何でも極端にやり過ぎるのはよくないんです。だから、そこを指摘した。
 現在、サンペイは(2ストライクと)追い込まれるまではポイントを前に置き、1、2、3のタイミングで振っている。別に空振りしたっていいんですよ。ホームランバッターなんだから。
 その代わり、追い込まれたら後ろ側の足の前で打てばいい。これなら変化球にも対応できます。前の足の前でも後ろ足の前でも打てればヒッティングポイントの幅が広がり、自ずと打率も上がっていきますよ」

 デーブはアイデアマンでもある。西武のコーチ時代、アーリーワークという名の朝の“特打”を奨励した。自身が米国で学んだものだ。これが選手には好評だった。
 あるOBが感心した素振りで、こう語っていたものだ。
「“早出特打”というとコーチから無理やりやらされているような印象があるけど、“アーリーワーク”と聞くと、自発的にやっているようなイメージがあるよね。デーブは技術論もしっかりしているけど、ムードメーカーとしての役割も心得ている。正直ここまでやるとは思わなかった」

 楽天のチーム打率2割4分4厘(10月11日現在)はリーグワーストの千葉ロッテとわずか1厘差のリーグ5位。総得点417もリーグ5位だ。星野がデーブ招聘を目指すのは打線のテコ入れに加え、外から血を入れることで、ややもすると内向的なチーム体質を根本から変えたいという狙いもあったのだろう。

 その一方で“外様コーチ”の大量解雇に乗り出す球団もある。
 監督の落合博満に事実上の「解任」を通告した中日だ。その後、森繁和ヘッドコーチ以下9人のコーチと来季、契約を結ばないことを発表した。「解雇」を通告された9人は森を含め、辻発彦、小林誠二、田村藤夫、笘篠誠治、高柳秀樹、奈良原浩、垣内哲也、勝崎耕世といずれも外様。奈良原に1年間、中日でプレーした経験があるだけだ。既に契約更新しないことが決まっていた石嶺和彦、高木宣宏の2人も外様だ。
 翻って「解雇」リストから漏れたコーチは全員が中日OB。いくら契約社会とはいえ、これはあまりにも偏った人事である。

 こんな“外様軽視”の人事をやっていたら、OB以外で中日でコーチを引き受ける人間がいなくなるのではないか。
 チームが弱体化した、その責めを負わされるのなら、コーチとしてそれは当然である。
 しかし発表時、中日は東京ヤクルトと激しく首位を争っていた。中日はその後も快進撃を続け、優勝が濃厚だが、一般的にはそんな折に粛清人事を発表してチームの士気が落ちないわけがない。
 穿った見方をすれば、中日のフロントは落合政権下で、これ以上優勝を重ねることを望んでいなかったのではないか。そんな風にすら映る。

 そもそもコーチは専門職であって、OBの再就職先ではない。能力があれば、腕一本でメシが食えるところに実力社会の良さがある。
「チームが弱体化しても、OB集団なら許してもらえる」
 もし中日のフロントがそう考えているとしたら、それはプロの仕事の作法ではない。黄金期の終焉とならなければいいが……。

<この原稿は2011年11月4日号『週刊漫画ゴラク』に掲載されたものです>

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