NPBもアイランドリーグも各球団が2月1日に新チームが始動し、開幕に向けた実戦も増えてきた。今シーズン、リーグからは過去最多の7名が新たにNPBの門をくぐり、計23選手が1軍の檜舞台で活躍するべくキャンプで汗を流している。リーグの行方ともに、彼らの動向も気になるところだ。NPB入りというひとつの夢を叶えた選手たちは、新たなシーズンにどのように臨もうとしているのか? その今を追いかけた。
 新フォームで勝負――弦本悠希

 2011年6月1日、クリネックススタジアム宮城。東北楽天−広島。楽天3点リードの8回裏、ルーキーの弦本悠希は緊張の初登板を迎えていた。
「次の回、いくぞ!」
 コーチの声を聞いてからブルペンでもう80球ほど投げていた。いつもなら10球未満で肩をつくるが、投げなくては落ち着いていられない状況だったのだ。

 しかもマウンドに上がると最初に顔を合わせたのは、楽天の4番・山崎武司(現中日)。この試合、2安打2打点をあげていた。ただ、出番が来るまで投げ続けていたおかげでムダな肩の力が抜けた。一発のある怖いバッターをアウトコースのストレートで詰まらせ、内野ゴロに打ち取った。
 
 これで自分のペースをつかんだ弦本は、このイニングを無安打無失点に抑える。まずまずのデビュー登板だった。2日後にはマツダスタジアムにも初お目見え。5回の1死2、3塁のピンチを切り抜けた。
「ウイニングショットのフォークも追い込めばいいところへ落とせる。1軍でも充分通用すると感じました」

 しかし連続して無失点に抑えたことで、弦本は更なる結果を出そうと考えすぎてしまう。走者を一塁に釘付けにすべく、より早いクイックで投げたりした。取り組み自体は決して悪いことではない。だが、それは試合のマウンドではなく、まず練習で身につけるべきテクニックだった。
「それでフォームを乱してしまいましたね。試合は自分のフォームと勝負するのではなく、相手と勝負する場。それなのに自分のフォームで精一杯で、打者に向かっていく姿勢がなくなっていました」

 6月6日の福岡ソフトバンク戦はワンアウトしかとれず、押し出し含む3四球を与えて1失点。11日の千葉ロッテ戦は四球や守りの乱れもあって3失点。直後に2軍降格が告げられ、弦本の1年目の1軍成績は4試合、防御率4.50に終わった。
「2軍に落とされて、また一段と1軍で投げたいという気持ちがガッと出てきました。あそこで投げないと意味がない」
 再昇格を目指して2軍で登板を続けたが、思いとは裏腹にボールは走らなくなっていく。暑い夏を迎え、連日の登板に疲労がたまってしまったのだ。

「アイランドリーグでは週末の3連戦が基本で、残りの4日間は調整に充てられる。でもNPBでは試合が続いて、中継ぎは毎日、ブルペンで肩をつくらなくてはいけない。腕の筋肉が落ちてしまって、リリースの時にうまく力が入らない状態になってしまいました」
 フィジカル面の弱さを痛感した弦本はアイランドリーグ時代にはしなかったウエイトトレーニングにも励むようになった。そして下半身を徹底していじめた。おかげで太ももはひとまわり大きくなった。

 春のキャンプからは連投にも耐えられる効率のよいフォームづくりにも取り組んでいる。
「これまでは力任せ、腕任せで投げている部分が多かったんです。だから疲れて力が衰えるとスピードが落ちる。体も開き気味になってコントロールも悪くなる」
 変えたポイントは上体主導から下半身主導。軸足でしっかりタメをつくり、体重移動の際に後ろの右足のヒザでしっかり送り込んで、前の左足に乗せる。腕は“振る”のではなく、腰の回転で勢いをつけることで“ついてくる”という感覚だ。
「ブルペンでメチャクチャいいボールが投げられています。春先でも140キロ台から出ていますからね」

 アイランドリーグの徳島にいた頃から、弦本の高めにホップするストレートはNPBのスカウトからも好評価を受けていた。ただ、低めのストレートはどうしても押し出すようなかたちになり、ホームベースの手前で垂れてしまっていた。下半身主導のフォームにすることで、本人曰く「地を這うストレート」が投げられるようになったという。「低めのストレートでも空振りをとる」。これが今、追求しているテーマだ。

 2年目のキャンプは2軍スタートだった。14年連続Bクラスからの脱却を目指す広島において、リリーフ陣の整備はひとつのポイントになっている。活きのいい弦本のピッチングが1軍で必要になる時が必ずやってくるはずだ。1年目はブログでの発言が“球団批判”ととられるなど、ピッチング以外の部分が目立ってしまった。
「結果を出さないと、文句言っているだけの人間になってしまいますからね。もう1軍で投げるという段階はクリアしたので、今季は結果を残すことを一番に考えていきたい」
 父親の影響で小さい頃からのカープファン。憧れの球団を勝利に導くべく、弦本はその右腕をうならせるつもりだ。

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(石田洋之)