1月20〜22日、日本リーグ・セカンドステージが行なわれた。12月のファーストステージでは1勝3敗だった伊予銀行男子テニス部は巻き返しを図るべく、同ステージを2勝1敗とし、その結果、3勝4敗で5位。前回の屈辱を晴らし、きっちりとリーグ残留を決めた。しかし、チームはこの結果に決して満足はしていない。「最低限の仕事はできた」ものの、2年ぶりの決勝トーナメント進出には至らず、多くの課題が浮き彫りとなった。チームの再建を託された秀島達哉監督に、今回の結果を踏まえ、来シーズンに向けたチームづくりについて訊いた。

「今回は戦力としては非常に充実していました。特に佐野(紘一)が入ったことにより、チームが活性化され、全体的にレベルアップを図ることができました。なかでも佐野の影響を一番受けたのは同世代の廣(一義)。彼が成長したことが本当に大きかったですね。今回の日本リーグは、もちろん決勝トーナメントを目指していましたが、今の実力通りの結果となったかなと思っています。選手たちは力を発揮してくれました。今回は次へのステップアップと位置づけて大会に臨んだこともあり、十分に意義のある大会になったと感じています」
 秀島監督はそう言って、全力で戦い抜いた選手たちの健闘を称えた。

 実は今大会、初戦でいきなり最大のピンチを迎えていた。「最重要ポイント」としていたファーストステージ第1戦のリコー戦、10年ぶりにリーグ残留を逃した前回と同じ展開となり、指揮官は危機感を募らせたのだという。決勝トーナメント進出へのカギを握ると考えていたこの試合、秀島監督は勝負どころはダブルスと見ていた。そこでチーム事情も考慮した上で、指揮官が選択したのは萩森友寛選手と坂野俊選手のペアだった。2人はシーズンを通して安定した成績を挙げ、ダブルスでのランキングも上げていたのだ。

 実際、試合はシングルスで両チームが1本ずつを取り、勝負の行く末はダブルスにもちこまれた。第1セット、お互いにサービスゲームをキープし合っての第6ゲームで萩森・坂野ペアがブレークしてゲームカウント4−2。第7ゲームをブレークダウンしたものの、第8ゲームをまたもブレークし、5−3。第9ゲームはデュースに持ち込まれたものの、きっちりとキープし、6−3で第1セットを先取した。ところが、第2セットを3−6で落とすと、第3セットは1ゲームも取ることができず、0−6の完敗。結局、伊予銀行は黒星スタートを喫してしまった。

 試合の途中、秀島監督の脳裏をよぎったのは前回大会の初戦だった。シングルスを1本ずつ取り合い、迎えたダブルスで萩森・坂野ペアは第1セットを6−2で取りながら、第2セットを3−6で落とすと、第3セットも4−6で奪えず、逆転負けを喫したのだ。しかも展開のみならず、敗因も同じだった。
「今回の試合では第2セット、ゲームカウント1−2で迎えた4ゲーム目、デュースとなり、2度、ゲームポイントがあったのですが、そこで萩森が致命的ミスを犯してしまったのです。本人は気付いていなかったかもしれませんが、そこは絶対に取らなければならなかったポイントでした。彼は前回も似たようなミスをしているだけに、このままでは前回の二の舞になってしまう、なんとかしなければと思いました」
 第1セットを取ったことで安心してしまい、無意識に気の緩みが生じた。それが大事なところでのミスとなって表れてしまったのだろう。

 なんとか悪い流れを食い止めたいと考えた秀島監督は試合後、ミーティングを開いた。1時間以上、話し合いが行なわれ、本音をぶつけ合った。その結果、翌日の第2試合のダブルスは坂野・廣ペアで出ることが決まった。そして、そのメンバー変更がチームの悪い流れを断ち切ったのだ。相手は前回の初戦で敗れた協和発酵キリン。またもシングルスを1−1とし、迎えたダブルスで坂野・廣ペアはタイブレークまでもつれこんだ第1セットを奪うと、第2セットは6−2で取り、ストレート勝ち。伊予銀行は初勝利を挙げた。この1勝がチームの士気を高め、残留への第一歩となったのだ。

 その後、伊予銀行はリビック、エキスパートパワーシズオカに連敗。1勝3敗で臨んだセカンドステージ初戦のライフ・エヌ・ピーにも敗れ、3連敗を喫した。しかし、第2戦の東京海上日動に3−0で完勝し、あと1試合を残して残留を決めた。このことは「最低限の仕事をした」という他に、チームにとって大きな意味を持っていた。実は、最年長としてチームを牽引してきた日下部聡選手が、この大会を最後に現役を引退することが決定していた。そのため、「早く残留を決めて、日下部さんに花道を!」というのがチームの目標でもあったからだ。

 最後の九州電力戦、日下部選手はシングルスに出場し、第1セットを6−1で取り、舞台を用意してくれたチームメイトの期待に応えた。しかし、第2セットを3−6で落とし、迎えた第3セット、両者ともに一歩も譲らない接戦となったが、結局、5−7で敗れた。勝利で終えることはできなかったが、最後まで全力を尽くして戦う姿勢は、後輩たちへ、しっかりと受け継がれたに違いない。

 一方、その試合で再びチャンスを与えられたのが、萩森選手だった。ファーストステージの第2戦以降、萩森選手が試合に出場することはなかった。しかし、残留を決めていたこともあり、秀島監督はこの試合に萩森選手を出場させることにした。
「失敗した選手に、チャンスを与えないというのでは成長はありません。ですから、最後の試合、坂野とダブルスを組ませたんです。彼自身、この試合に自分が出場することが、どういう意味をもつのか、十分にわかっていたと思います」

 第1セットを6−1で取った萩森・坂野ペアは、第2セット、またもリードを許し、2−5とされてしまう。初戦と同じ展開に、秀島監督はベンチに返ってきた萩森選手にこう助言した。
「リコー戦(初戦)でやったことを覚えているか? オマエにとって、この試合のもつ意味が分からなければ、この先の成長はないぞ」
 この言葉に、萩森選手は奮起した。崖っぷちの状態から挽回し、6−6とすると、タイブレークを制し、ストレート勝ちを収めたのだ。この勝利が、今後の萩森選手の飛躍へとつながることを指揮官は切に願っている。

 さて、来シーズンに向けての課題を訊くと、秀島監督は「サーブ強化」と「ゲームを制する対応力」の2点を挙げた。
「ストロークに関しては、技術もパワーも、非常にレベルアップしました。しかし、昨シーズンから強化してきたサーブは、まだトップチームと互角に渡り合えるところまではいっていません。肩、胸、背中、足と、それぞれのパーツをさらに強化し、フィジカル的な差を縮める必要性があると感じています。あとはサーブのエキスパートを呼んで、角度やキレを出すにはどうすればいいのか、専門的な知識を取り入れながらトレーニングをしていこうと思っています。そして、トップチームと試合をする機会を増やすことによって、経験を積み、ゲームでの対応力を養っていくつもりです」

 来シーズンで就任4年目を迎える秀島監督。この3年間でチームは確実に成長してきてきたと感じている。だが、それに比例するかのように、年々、他チームは外国人選手の補強などで格段にレベルアップしていることも事実で、トップチームとの差を縮めるのは至難の業だ。さらなる成長には、チーム内での厳しい競争の中で切磋琢磨する必要がある。1年後の雪辱に向け、伊予銀行は新たなスタートを切る。


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