第1197回 施設運用に散見されるパラスポーツの「バリア」
スポーツニッポンフォーラムが制定する「FOR ALL」。スポーツを通じて日本を元気にしたり、社会貢献並びに地域振興に寄与した個人または団体に贈られる。
2025年のグランプリには、7月から8月にかけて行なわれた全英女子オープンゴルフを制した山下美夢有、そして、この9月に全米オープンシングルスで初優勝し、生涯ゴールデンスラム(パラリンピック・全豪・全仏・ウインブルドン・全米)を達成した車いすテニス男子の小田凱人が選出された。
小田の活躍や2021年に東京で開催されたパラリンピックの影響もあり、近年、パラスポーツに対する世間の認知度は、昔に比べると著しく向上した。
しかし、パラスポーツを取り巻く環境に関し、現場から聞こえてくる声は、必ずしも好意的なものばかりではない。最も多い指摘が施設を利用する際のハードルの高さだ。
スポーツ庁長官に転じた河合純一の後任として、この10月に日本パラリンピック委員会(JPC)会長に就任した三阪洋行は、大阪の強豪校でプレーした元ラガーマンだ。練習中に頚髄を損傷し、車いすでの生活となった。その後、車いすラグビーの選手となり、04年のアテネを皮切りに、3大会連続でパラリンピックに出場した。16年のリデジャネイロ大会では、コーチとして日本代表初の銅メダル獲得に貢献した。
その三阪には苦い記憶がある。12年ロンドン大会を間近に控えたある日、居住地の埼玉県戸田市にあるスポーツセンターの使用を願い出たところ、けんもほろろに断られた。
三阪の述懐。「担当者に使わせてください、と頼むと、いきなり車いすラグビーの転倒シーンの写真を持ってこられた。床に傷や汚れがつくからダメだと…」
帰り際、不意に駅前の看板が目に入った。「戸田市は生涯スポーツ都市宣言」。書いていることと、やっていることが違うじゃないか。市の公式サイトを通じて市長に“市民の声”を届けると、2日後に秘書課から連絡が入った。「一度会って、現状を教えて頂けますか。我々も知らないことが多すぎるので……」。それから6年を経て、「やっと障がい者も一般の方と同じようにスポーツセンターを利用できるようになった」という。
障がい者の施設利用を巡っては24年4月に「改正障害者差別解消法」が施行され、障がい者に対し「合理的配慮」が義務化された。また、今年6月に成立した「改正スポーツ基本法」では、基本理念に「スポーツを行う者に対し、不当に差別的取り扱いをしない」旨が明記された。
このように共生社会の実現に向けての法改正が進む一方で、運用レベルにおいては、今も事なかれ主義が散見される。
東京パラリンピック前、そここで「心のバリアフリー」という言葉を耳にした。それを空証文にしないためには、施設が適正に運営されているか否か、不断の検証が求められる。
<この原稿は25年12月17日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>
