2年ぶりの1部復帰を目指している伊予銀行女子ソフトボール部。前節を終えた現在、5勝3敗で3位につけている。優勝するには全勝することが求められる後節では、果たしてどんな点がポイントとなるのか。前節で見えた成長、そして浮き彫りとなった課題について酒井秀和監督に訊いた。

「まずまずの出来だったと思いますよ」
 酒井監督はそう言って、前節で感じた手応えについて語った。
「正直、昨年のチームと比べると、打力という面では落ちました。それに大卒とはいえ、新人選手が多く、チームは若い。そんな中で、チーム力は着実に上がってきている。前節ではそのことを感じることができました」

 特に酒井監督が成長著しい一人として挙げたのが、末次夏弥投手だ。ボール自体も、ストレート、変化球ともにキレが増し、投手として一本立ちの気配を見せている。彼女の成長ぶりを最も表わしているのがマウンドでの姿だ。
「ピンチになっても全く動じなくなりましたね。冷静に、次の相手バッターを見て投球していますし、何よりも自分から野手に声をかけるようになりました。おそらく、冬場の練習でピッチングの幅が広がったことによっての自信が、心の余裕をもたらせてくれているのだと思います」

 その末次投手が今季初完投した試合が、前節最終戦の靜甲戦だった。0−0で迎えた4回裏に1点を先制された伊予銀行だったが、6回表に2死二、三塁から7番・加藤文恵選手が決勝打となる2点タイムリーを放って逆転した。そして、この1点を末次投手が守り切り、2−1で接戦をモノにしたのだ。
「先制されながらも、ワンチャンスをモノにして逆転し、バッテリーも最少失点に抑えてくれた。まさにチームが目指しているソフトボールができた試合でした」
 昨年1部の靜甲に2戦2勝したのは、チームにとっても大きな自信となったに違いない。

 実はこの試合、伊予銀行にとってはチームの立て直しを図るのに、最も重要な試合だった。前日の湘南ベルマーレ厚木戦、伊予銀行は3−6で敗れた。3回を終えた時点で3−1とリードしていただけに、勝てる試合だった。いや、勝たなければいけない試合だった。ところが、4回表に打者一巡の猛攻を浴び、5失点を喫してしまったのだ。その後、伊予銀行はリズムを取り戻すことができず、痛い黒星を喫した。

 この試合、先発はベテランの坂田那己子投手だった。女房役にはキャプテンの藤原未来選手。坂田投手は3回まで1失点に抑えていた。だが、ヒットにはなっていなくても、湘南ベルマーレの打者たちがバットの芯に当て始めていた。そこで、酒井監督は3−1とリードし、ほぼ完全に自分たちの流れとなったと感じた4回表、思い切って尾崎由季投手と上田彩生選手のバッテリーに代えたのだ。

 すると、ヒットと盗塁でピンチを迎えると、内野安打、暴投で3失点。試合が振り出しに戻ったところで、坂田投手と藤原選手のバッテリーに戻したが、一度ついた湘南ベルマーレの勢いを止めることは容易ではなかった。結局この回、5失点。6回以降は追加点を許さなかったが、伊予銀行の打線も得点を奪うことができなかった。しかし、5失点とはいえ、クリーンヒットでのタイムリーは1本もなかった。ラッキーな内野安打かエラー絡みでの失点だったのだ。つまり、投手としては打ち取った当たりだった。だからこそ、喫してはならない黒星だったと言える。

「申し訳ない。私の采配ミスだ」
 試合後、酒井監督は選手たちに謝罪の言葉を述べた。そして、こう続けた。
「私の采配ミスであることは確かだ。でも、今日のプレーを一つひとつ見直していってもらいたい。練習で取り組んできた次の打球への予測や判断といったところはどうだっただろうか」

 そして、選手たちだけでミーティングをさせたという。ミーティングで選手たちは、気持ちの面が足りず、いつもはできていたことが、できていなかったことを反省。そして「明日はつなぎを大事にしていこう」と、一丸となって勝利を目指すことを誓った。

 翌日、選手たちは明らかに前日とは違っていた。たとえヒットを打てなくても、ファウルで粘り、少しでも相手のピッチャーを疲れさせて次への打者につないだ。それがワンチャンスをモノにできた最大の要因だった。
「一人では勝てないことを、改めて感じたのではないでしょうか」
 指揮官はまた一つ、チームが成長したことを感じていた。

 7月25〜29日に兵庫県で開催された全日本実業団女子ソフトボール選手権大会では、準々決勝で靜甲に3−4で敗れた。だが、この試合でもチームの成長をうかがうことができたようだ。
「2回を終えて0−4。さらに3回にも1死一、三塁と攻め込まれたのですが、このピンチを無失点で切り抜けたことは大きかったと思います。そして打線も4回以降、3点を挙げて、粘り強さを発揮してくれました」

 その一方で課題も浮き彫りとなった。
「5、6回はどちらも三者凡退、合わせて12球で攻撃を終わってしまったんです。しかも1番からの好打順だったにもかかわらずです。たとえヒットを打てなくても、いろいろと出塁する方法はあったはずです。そういう細かいところを、後節では出していけるようにしていきたいですね」

 後節は9月7日からスタートする。それまでの約1カ月間、ひとり一人の課題克服に取り組む。猛暑が続く中、優勝への条件となるであろう全勝に向けての練習が続いている。


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