苦渋の決断であることは、伏し目がちなその表情が物語っていた。
 労組・プロ野球選手会がオールスターゲーム期間中の7月20日、大阪市内で臨時大会を開き、来年3月に開催予定の第3回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に参加しないことを決議した。
 記者会見の席で労組・選手会の新井貴浩(阪神)会長は、こう語った。
「選手も楽しみにしていました。当然見たかったと思うし、出たかった。ただ5年後、10年後を見たとき、今回のことは間違ってなかったと信じています」

 周知のようにWBCはサッカーW杯におけるFIFA(国際サッカー連盟)のような世界を束ねる組織が運営しているわけではない。
 大会を主催するWBCI(ワールド・ベースボール・クラシック・インク)はメジャーリーグ機構(MLB)と同選手会が共同出資してつくった運営会社だ。参加国はWBCIから招待されるという立場だ。

 選手会によれば、大会のスポンサー収入の約7割が日本からもたらされる。「ジャパンマネーなくしては成立しない大会」(選手会関係者)とも言われている。
 ところが、利益の66%をWBCIが独占するのに対し、日本プロ野球機構への配分は13%。「あまりにもこれは不公平」(同前)という思いが不参加表明の背景にはあるようだ。
 といって、選手会側は配分比率の改善を求めているわけではない。松原徹選手会事務局長は「日本の権利を返して欲しいだけ」と語る。

「第1回、第2回は始まったばかりということもあり、日本側も強くは出なかった。大会を成功させることが先でしたから。しかしWBCも軌道に乗ってきたことで、ジャパンマネーを吸い取るだけ吸い取るのは、もう止めて欲しいというのが当方の考え方。ところが昨年8月以降、交渉にも応じてくれない。もう少しジャパンマネーが還元されれば野球の普及や育成にも使えるわけですが……」

 私見を述べれば、選手会の主張は筋が通っている。アメリカのアメリカによる、アメリカのためのWBC。これでは他国も不満がたまる一方だろう。
 とはいえ、野球世界一を決めるWBCを楽しみにしているファンは多く、「できれば出場してみたい」と参加に期待をつなぐ選手もいる。WBCをステップボードにMLBに名前を売りたい、との本音がのぞく。

 WBC不参加となれば、オリンピックから野球が除外された今、エキシビジョンゲームを除き、侍ジャパンの活躍の場はなくなる。
 それを受けて新井会長は、「WBCを前提にしないで、侍ジャパンとしてアクションを起こしたい。侍ジャパンのユニホームを着て新しい形で国際大会をつくっていきたいと考えている」と述べた。
 国際野球連盟が1938年から開催してきたW杯は昨年限りで終了している。WBCに代わる国際大会とは、いったいどういうものなのか。もう少し具体的なプランが聞きたい。

<この原稿は2012年8月12日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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