第315回 綱取り安青錦と“潜航艇”岩風

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 誰が名付け親か知らないが、昔の力士のニックネームには、はたと膝を打つものが多い。

 

 

 

 たとえば、190センチ近い長身からの豪快な吊り出しで一世を風靡した関脇・明武谷のニックネームは“人間起重機”。その並外れたパワーで“大鵬キラー”としても名を馳せた。

 

 誰に対しても、頭から激しくぶつかっていった関脇・黒姫山は“デゴイチ”だ。折しもSLブームで、力強いぶちかましが蒸気機関車のD51(デゴイチ)になぞらえられた。

 

 酒豪で知られた青森県出身の関脇・陸奥嵐は“東北の暴れん坊”。体はさして大きくないが、豪快な取り口で人気を博した。

 

 私も大好きな力士だった。大柄な力士を吊り上げたまま、わざわざ土俵の一番遠いところにまで運ぶ途中で、逆転負けをくらったりするのだから始末に負えない。勝ち負けよりも、自らのパワーを満天下に知らしめることが目的だったのだろう。

 

 そして、極め付けは関脇・岩風の“潜航艇”だ。日本相撲協会公式チャンネルの動画に、1959年7月場所の横綱・若乃花戦が残っていた。

 

 立ち合い前のNHKアナウンサーの前ふりはこうだ。

「今日も潜ってやろうかと、早くも相手の足元を見つめております」

 

 この一番、うっちゃりで岩風に軍配が上がった。

 

 身長は174センチ程度だが、筋骨隆々。相手の懐に潜ったまま、低い姿勢を保つには強じんな足腰と背筋力が必要となる。そうでなければ、あれだけ長く潜ってはいられない。

 

 ふと、ある力士の相撲が重なった。3月場所に横綱昇進をかけるウクライナ出身の大関・安青錦である。

 

 NHK大相撲解説者の琴風さんは、低い姿勢でも前に落ちたり、体が浮いたりしない安青錦の相撲を評して、「まるで背中に鉄板が一枚入っているようだ」と語っていた。

 

 これは言い得て妙だ。そう言えば、同じく背中に鉄板が入っているように見えた岩風の実家は、なんと鉄筋屋だった。

 

<この原稿は『週刊大衆』2026年3月2日-9日合併号に掲載されました>

 

 

 

 

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