伊予銀行男子テニス部にとって、日本リーグ同様に重要な大会が国民体育大会だ。今秋、東京で行なわれる国体の愛媛県予選が5月18、19日行なわれた。8月の四国予選に出場する2枠を勝ち取ったのは佐野紘一選手と、昨年に続いての国体出場を狙う大学生の弓立祐生選手だった。果たして、そこでの選手たちのパフォーマンスはどうだったのか。手応えと、そして国体、日本リーグにつなげるための課題について秀島達哉監督に訊いた。

 予選の組み合わせを見て、秀島監督が最も注目していた試合はワイルドカードで出場した飯野翔太選手の初戦。相手は昨年覇者の弓立選手だった。
「今年こそは伊予銀行のペアで国体に出場しよう、という合言葉で予選に臨みましたから、飯野も弓立選手には勝たなければいけないという強い気持ちがあったと思うんです。勝負は五分五分だと見ていました」
 結果は弓立選手が4−6、6−4、6−3で逆転勝ちを収めた。

 内容的には決して悪くなかったという。スコア以上に競った試合展開で、終始いい緊張感の中で行なわれた。しかし、その日のコンディションは弓立選手の方が上だったようだ。
「弓立選手は昨年から一段と成長していましたね。ミスをしても自分のスタンスを見失うことなく、最後まで崩れませんでした。精神的に非常にタフだったと思います」

 一方、飯野選手もその試合で課題とされていた“テニスの幅”が広がっていることを証明したようだ。
「以前のように単調なリズムの中ではなく、時には高い打点から打つことでペースを上げたり、時には緩いボールを混ぜるなど、さまざまに工夫を凝らしているのが見受けられました。さらに出し入れが巧くなると、結果もついてくると思います」

 そして、弓立選手と決勝を戦ったのが、エースの佐野選手だ。試合前、周囲に「絶対に負けられない」という気持ちが伝わってくるほど、佐野選手は強い気持ちで臨んだ。それもそのはずだった。伊予銀行にとっては大学生に2年連続、ファイナルで敗れるわけにはいかなかったのだ。結果は佐野選手がストレート勝ちを収めたものの、7−6、7−5という大接戦だった。それを佐野選手が勝ち切った最大の勝因は、勝負どころをきちんと抑えたことにあった。

 その代表的なシーンが第1セットにあった。6−6でタイブレークに入っても、なお互いに一歩も譲らず、4−4と並んだ。そこから佐野選手がそれまでの速い展開から、スッとペースを落としたのだ。それに相手はリズムを崩し、佐野選手が流れを引き寄せた。
「佐野は普段はほとんど使わないロブを使ったりして、ペースを落としたんです。また、サーブも速いサーブだけでなく、チェンジアップを混ぜるなどしていた。やはり佐野の方が多く修羅場を経験している分、引き出しが多いなという感じでしたね」

 8月の四国予選には佐野選手と弓立選手のペアで出場する。両者ともにシングルスでのポテンシャルは申し分ない。課題はダブルスだ。あまり経験のない弓立選手だけに、ネットに出る動きを求めるのは、少しリスクがある。それならば、あえてストローク勝負にもっていく方がいいのか……。今後、実戦で試しながら、2人ならではのスタイルを確立させていくつもりだ。

 さて、佐野選手や飯野選手以上に、予選で調子の良さをうかがわせたのが、坂野俊選手だ。この予選で坂野選手は廣一義選手、植木竜太郎選手に勝っている。佐野選手にこそ3−6、2−6とストレートで敗れているが、秀島監督いわく「内容としてはいい感じで競っていた」という。現在、チームの中でも最も上向きで、自信をつけている。

「坂野は、攻守にメリハリが出てきて、無理して打つようなことがなくなりましたね。たとえ相手に振られたとしても、時間をかせいで丁寧に打ち、チャンスが来たら一気に攻める。そういう技と技のつながりが出てきたので、凡ミスが少なくなりました。彼の一番の武器であるバックのクロスストレートを、ここぞという時にうまく使えるようになったことも大きいと思います」

 一方、なかなか調子が上がってきていないのが植木選手だ。プレーに迷いが生じているように、指揮官には見えるという。佐野選手、飯野選手らが上がってきているだけに、焦りもあるのだろう。
「植木は、課題だったサーブは、テイクバックをする際のヒジの位置を安定させたことで、徐々に良くなってきています。でも、展開が一本調子で、たとえファーストセットをとって、セカンドの入りが良くても、その後逆転されることが少なくない。自分のテニスの中で、相手や場面によって展開をかえていく対応力が必要です」

 そして、指揮官はこう続けた。
「現状維持のためにやっているわけではありません。これだけテニスに時間を費やせる環境を整えてもらっているんですから、少しでも向上し続けていかなければならないんです」
 これは植木選手に限らず、チーム全員に言えることだろう。一歩でも二歩でも前へ――個々のレベルアップこそがチームの強さとなるはずだ。国体、日本リーグに向けた戦いはこれからが本番である。


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