伊予銀行女子ソフトボール部は、4年ぶりの1部リーグでのシーズンを終え、4勝10敗で、自動的に残留となるぎりぎりの10位となった。この結果について、酒井秀和監督は「もう1つ2つ、勝ち星を上積みしたかったというのが正直なところ」としながらも、「ただ、内容的には大差での負けが多かった前半に比べて、後半は上位チームとも接戦を演じるなど、まずまずだった」と述べた。そこでシーズンを振り返ってもらい、来季に向けての手応えと課題について訊いた。

「わずか4勝、されど4勝」である。今季、1部残留を決めた最大の要因に、酒井監督は「絶対に勝たなければならない4試合をひとつも落とさなかったこと」をあげた。ぺヤング戦とシオノギ製薬戦で取りこぼしがなかったことで、10位を確保したのだ。実際、ぺヤングは11位、シオノギは12位でシーズンを終え、2部との入れ替え戦に臨んでいる。

 特に大きかったのは、残留争いが続く中で行なわれた10月12日のぺヤング戦だ。1回裏、四球で出塁した1番・近藤琴美選手が送りバントとパスボールで三塁へ進み、3番・山崎あずさ選手の犠牲フライで生還。伊予銀行は無安打で先制した。2回表、すぐに同点とされるも、3回裏には2番・酒井梨花選手の犠牲フライで再び勝ち越しに成功した。そして、さらに山崎選手がタイムリーを放ち、貴重な追加点を奪った。このたたみかけるようにして放った山崎選手の一打が、チームにとっても相手にとっても大きかったと酒井監督は語る。

「実は酒井の打球は結構大きな当たりだったんです。相手はエンドランを警戒して外野が前進守備をしいていましたし、センターオーバーの2点タイムリーとなってもおかしくはなかったんです。しかし、不運なことに強い逆風が吹いていた。それで犠牲フライでの1点に終わってしまったんです。だからこそ、すぐに山崎がタイムリーを放ってくれたのは、チームにとって非常に大きかった。二、三塁だったランナー2人を残さず返すという、理想の展開でもありました」
 この試合、伊予銀行は4−1で貴重な勝ち星を挙げた。

 教訓となった国体

 前述した通り、前半では大差で敗れた強豪相手にも後半では接戦を演じることが少なくなかった。例えば、今季2位のルネサスエレクトロニクス高崎とは、前半は0−7で完敗したが、後半は3−4と競り合った。こうした試合内容の違いは、“攻めの姿勢”からくるものだと酒井監督は言う。

「1部との強豪相手には、攻守にわたって攻めることが重要です。例えば攻撃では、よく“好球必打”と言いますが、それだけでは1部リーグのピッチャー相手から出塁することはできません。リスクを負ってでも、ファーストストライクから打ちにいく。守備でも、打球を待つのではなく、一歩でも前で捕りに行かなければ、アウトにすることはできません。そういう姿勢が後半には出てきた。それが接戦にもつながったのだと思います」

 伊予銀行にとって教訓となった試合がある。リーグ終盤の合間に出場した国民体育大会だ。準々決勝の神奈川戦、3−4と1点ビハインドで迎えた最終回、伊予銀行は無死一塁とした。酒井監督は、ここで送りバントのサインを出した。ところが、2球続けてファウルとなり、バッターは追い込まれてしまう。それでも酒井監督はバントのサインを出した。だが、3バント失敗を怖れたのだろう、バッターは中途半端に打ちにいき、プッシュバントのようなかたちになったのだ。結局、打球の勢いを殺すことができずにピッチャーゴロとなり、併殺をとられて2死ランナーなしとチャンスをつぶす結果となった。そのまま試合は3−4で敗れた。

「私が怒っているのは、バントを失敗したことではない。攻める意識が欠けているところだ。攻められないのは、気持ちで負けている証拠。それでは勝つことはできない」
 試合後、酒井監督は選手たちにそう語った。指揮官の思いは、選手たちに痛いほど伝わったのだろう。翌日の練習から、選手たちの様子に変化があったという。
「とにかく1球に対して集中しているという雰囲気が、チーム全体に感じられました」
 国体後、残っていた2試合は、ともに敗戦を喫した。だが、攻めの姿勢が随所に見受けられ、酒井監督は来季に向けての手応えをつかんだ。

 新キャプテン、来季のキーマンに

 一方、来季に向けての課題は山積している。まずは打撃面。
「やはりスイング力が不足しているなと感じましたね。遠くへ飛ばす力を身に着けることがチーム全体の課題としてあります。それと、各選手の苦手としているコースへのバッティングを克服すること。これらの課題をオフでしっかりとトレーニングして、チーム打率のアップを図りたいと思っています」

 そして守備に関しては、ピッチャーへの課題を挙げた。チーム防御率4点台から3点台にすることが来季の目標だ。そのためには制球力を身に着けることが重要だと考えている。その理由は、後半、接戦を落とした試合の敗因が、ホームランを打たれていることにあったからだ。やはり1部のバッターともなれば、甘い球は見逃さない。そのため、少しのコントロールミスが命取りになるのだ。木村久美、庄司奈々、内海花菜の3投手いずれもが球のスピードは上がっている。あとはコントロールに磨きをかければ、もう一段、上のピッチングができるはずと指揮官はふんでいる。

 シーズンを終え、チームは既に来季に向けて始動している。新キャプテンには、攻守にわたってチームの要として活躍した山崎選手が就任した。今季は結果もさることながら、スイング自体に自信が垣間見えたという。
「山崎は思い切りのいいスイングで、チームを牽引してくれました。相手ピッチャーにとっては、プレッシャーにもなっていたと思います。たとえ三振をしたとしても、下を向かないところにも自信が表れているなと思いましたね」

 そして、キャプテン就任について、指揮官はこう続けた。
「心技体の中の体という部分は、今年でできつつあると思います。ですから、来年は気持ちの部分でも落ち着いてプレーできるんじゃないかなと思うんです。そういう意味で、キャプテンとしてもチームを引っ張っていってくれると期待しています。もちろん、来年のキーマンのひとりです」

 1部残留という最低限の目標をクリアした伊予銀行は、来季はさらなる高みを目指す。今季は敗戦から得たことも多く、勝敗の数字以上に、指揮官も選手も手応えを感じている。来季は、接戦をどう勝ち切るかが課題となることは言を俟たない。果たして、どんな進化が見られるのか。すべてはオフ期間のトレーニング次第である。




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