24日、日本サッカー協会(JFA)は2015年の育成年代(アンダーカテゴリー)日本代表コーチングスタッフ(男子)を発表した。「FIFA U−20韓国W杯」出場を目指すU−18日本代表の監督に内山篤、「同U−17W杯」出場を狙うU−15代表は森山佳郎が指揮を執る。また育成年代の代表強化責任者にあたる担当ダイレクターを新設。同役職に横浜F・マリノスやラオス代表監督などの監督を務めた木村浩吉が就任することも発表された。
 2014年、A代表はブラジルW杯で惨敗し、リオデジャネイロ五輪出場を目指すU−21代表もアジアの舞台(U−22アジア選手権、アジア大会ともに準々決勝敗退)で苦杯をなめさせられた。そして世代別代表の低迷。2015年は日本サッカーが再出発する年でもある。
「五輪代表、A代表というトップ(カテゴリー)の代表を永続的に強化するために、アンダーカテゴリーの強化が必要」
 会見に出席した霜田正浩技術委員長(強化担当)は、このように育成年代強化の重要性を述べた。

 育成年代のひとつの目標になるのが、U−20W杯とU−17W杯である。世代別のW杯に出ることは、グローバルスタンダードの経験を獲得できる貴重な機会だ。中田英寿氏や小野伸二といった黄金世代の選手たちは、これらの世界大会を育成年代時に経験し、A代表選出、そしてW杯出場へとステップアップしていった。しかし、2014年、U−19代表とU−16代表は、アジア予選を勝ち抜くことができず、来年の世代別W杯に出場できなかった。
「15歳の選手を7年かけて、22歳でA代表に入れるためにはどうしたらいいか。そういったことをすべてのカテゴリーのナショナルコーチングスタッフが共通認識を持って、なるべく上に選手を吸い上げてもらいたい。1人でも多くの若い代表選手にいい経験を積ませる。そして五輪代表やA代表に何人輩出できるかという共通の目的をもって、U−15、U−18の活動にあたっていきたい」

 霜田技術委員長によれば、各代表チームが敗戦した時の試合内容にはいくつもの共通点があるという。課題として会見では「ボール支配率は相手を上回るが、チャンスに決められない」「ほとんど攻められていないが、致命的なミスが起こり失点してしまう」「相手の強い個を止められない」などが挙げられた。これらの課題を打ち破るために、霜田技術委員長はオン・ザ・ピッチとオフ・ザ・ピッチでの取り組みの方針を掲げた。

「オン・ザ・ピッチではサッカーの原点に立ち戻り、(攻撃では)ゴールを目指す、(守備では)相手からボールを奪うということを選手達に求めていきたい。(その中で)特にどんな環境でも戦えるようなメンタルの強い選手を日本の育成環境から育てていかないといけない」
 香川真司(ドルトムント)や本田圭佑(ACミラン)など、海外で戦う日本人選手は増えつつある。しかし、育成年代の時から海外に出る選手はまだまだ少ないのが現状だ。整備が行き届いた日本の環境では高い能力を発揮できるが、ことアウェーでは持っている実力を出せない。今年、U−19代表、U−16代表ともに世界の切符を逃した要因の大きなひとつでもある。気候、ピッチ状況など、どんな環境下でも「代表のユニフォームを着た以上は戦える選手」(霜田技術委員長)を育てることが重要なのだ。

 オフ・ザ・ピッチでは以下の3つからなる強化施策を実行していく。
●組織・人材配置
【1】担当ダイレクターを新設
【2】代表強化ミーティングの実施(テーマに応じてエキスパート参集)
【3】海外から、育成スーパーバイザーを招聘(検討中)
【4】コンディショニングコーチを新設(A&U−22代表との連携)
【5】育成アシスタントコーチを新設(元代表経験豊富なコーチ)
【6】ナショナルコーチングスタッフの複数年代指導

●国際経験
選手に年間20試合以上の国際試合(国内外)を経験させる

●コミュニケーション強化
【1】選手の所属クラブコーチとダイレクトコミュニケーション
【2】エリート育成におけるJFA/Jリーグの協働ボード(中長期での貢献)

 大きな効果が期待されるのは担当ダイレクターと育成スーパーバイザーだ。担当ダイレクターはJ−22選抜、U−18代表、U−15代表の監督・コーチと常に連携しながら、上のステップにつながるように強化を導いていく。これまでは技術委員長がすべてのカテゴリーを担当してきたが、どうしてもA代表、五輪代表に強化の重心が傾きがちだった。今後は担当ダイレクターが育成年代を専門的に管理し、きめ細やかな選手選考、対戦国対策などの代表強化を行なう。霜田技術委員長は、担当ダイレクターに木村浩吉を選出した理由を次のように語った。
「マリノスで各カテゴリーの様々なポジションを経験してこられて、JFAでもユースダイレクターとしてユース各年代の大会も全部知っている。ラオスの代表監督も経験し、アジアの予選、アジアでの戦い方あるいはアジアの他の国々が日本に対してどう対処していくのかという経験もある」

 そして育成スーパーバイザーは、担当者の国の育成方法を日本サッカー界に落とし込むのみならず、日本の育成方法を確認した上で日本のやるべきことを意見する役割を担うという。育成スーパーバイザーの意見をもとにディスカッションを行い、選手だけでなく指導者のレベルアップにもつなげるのが狙いだ。同役職の設置は検討中だが、外部から見た日本の育成の状況分析があれば、より多角的な強化案の策定が可能になるだろう。

 世界の舞台で勝てる日本代表をつくるために、世界の舞台で戦える選手を育てる。育成年代の強化なくして、日本サッカーの未来はない。

(文・鈴木友多)