2014年、藤田寛之は肩に故障を抱えながらも、ツアーで3勝をあげた。45歳の藤田は賞金ランキング2位に入り、存在感を示した。藤田は20代で1勝、30代で5勝、40代で12勝と齢を重ねるごとに輝きを増している。43歳にしての初の賞金王獲得は、ツアー最年長記録である。“中年の星”と呼ばれる藤田の矜持に二宮清純が迫った。
二宮: 大学卒業後の1992年、プロに転向しました。最初はなかなか勝てなかった。
藤田: そうですね。プロテストに受かり、その翌年からツアーに出られるようになったんですが、まぁ打ちのめされましたね。獲得賞金約300万円は6月までに稼いだ。8月以降は1回も予選通れなくなったんですよ。そこで完全に自信を失くしましたね。大学上がりが、いきなり青木功さん、中嶋常幸さん、ジャンボ尾崎さんらと戦う。自分の中では“そんな去年まで大学でゴルフをやっていたのが、プロの世界で通用するわけないだろう”と割り切っていた部分もありましたね。

二宮: 日本のゴルフ界をリードしていた「AON」ですもんね。それでも半年足らずで300万円を稼いだ。簡単にできることではないですよ。
藤田: それも最初は“あれ?”と思ったんですが、ほんの一瞬でしたね。自分がうまくないと思っている上に、結果が出ないわけですから、試合に出るのも怖くなりましたね。

二宮: 今でも試合前は緊張しますか?
藤田: めちゃくちゃ不安です。緊張しているように見えないとはよく言われるんですが……。

二宮: サントリーオープンでツアー初優勝を果たすまで、5年の歳月がかかりました。プロの壁を感じたことはありますか?
藤田: いろいろな壁がありますね。まずは試合に出る壁がある。試合に出たら次は優勝する壁。優勝したら次は、2勝目の壁。そこから先はシード権を何年確保できるのか、メジャーを獲れるのかどうか。いろいろな壁が次々に出てきますね。

二宮: その壁を乗り越えるためには、練習で自信をつけていくしかないと?
藤田: 基本的に自分は、技術の積み重ねで、それがある人は生き残っていくと思っています。

二宮: よく勝てない原因をメンタルに求める人がいますが、藤田さんの場合は技術がすべてだと?
藤田: 自分はそうですね。それにメンタルが強いというのは結局、自分に対する自信だと思うんです。じゃあ、それはどこからくるのかというと、自分のゴルフに対する技術なんです。絶対的な技術を持っている人がやはり強い。それを持っていれば、自然にメンタルは後からついてくると、思っています。だから、とにかく技術を磨いて磨いて、誰にも負けない技術を身につけるというのが原点ですね。

二宮: プロに入って、この世界で通用するなと思ったのは、いつ頃からでしょうか?
藤田: それが今でも、そうは思えないんですよ。一瞬、やっていけるなというのはあるのかもしれないのですが、シーズンが終わると、翌年はみんなゼロからなんですよ。1億円稼いだ人も、1円も稼げなかった人もスタートラインは全部並ぶんです。そういう意味では、いつどうなるかわからないというのがすごくありますね。

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