2015年は山本化学工業にとって、新たな歩みを始めた1年だった。3月には競泳用水着の新素材を発表。水に触れる表面のみならず、皮膚と接する内側にも親水性をもたせ、泳ぐ際に生じる皮膚と水着の摩擦抵抗を極めて小さくすることでパフォーマンス中の筋肉への負担軽減に成功した。

 

 

 10月には国内の競泳用水着ブランド「マーリン」を買取。本格的に競泳用水着市場へ参入した。これにより、競泳用水着の素材開発から製造、販売までを一手に引き受けることとなった。

 

 「2016年は五輪・パラリンピックがあります。今回、高島屋で水着の取り扱いが始まったように、多くの百貨店やスポーツ用品店で皆さんに届けられるようにしていく方針です」

 山本富造社長は新年の抱負をこう語る。“両面親水”という新機軸の素材は国内のみならず、海外からも注目を集めている。夏のリオデジャネイロ五輪・パラリンピックでは同社の最先端素材が世界を席巻するかもしれない。

 

 「近年はアジアの各国も水泳に力を入れてきています。新素材とともに、正しいフォームを身につけるゼロポジション水着、ゼロポジションベルトをアジアに広げていきたい」

 山本社長の夢は大きく膨む。

 

 アスリートのパフォーマンス向上とともに、山本化学工業が力を入れてきたのが、人々の健康増進である。同社の開発したバイオラバーは加熱の必要がなく、電力など他のエネルギーに頼ることもない。昨年は、その血流改善効果について実証的な検査結果も出た。東京大でバイオラバー装着時の血流データを調べたところ、バイオラバーは他の血流改善を促す方法とは異なる特徴が見つかった。血管を圧迫したり、広げたりすることなく、血流速度を上げ、血流量を増やす。身に着けていれば持続的に体を温め、低体温状態を解消する。

 

 そして昨年末には、このバイオラバーと、それまで主にアスリートのフォーム矯正を目的としてきたゼロポジション水着、ゼロポジションベルトを組み合わせ、「バイオラバーゼロベスト」、「バイオラバーゼロベルト」を発売開始した。山本化学工業が着目するのは「骨格のひずみ」。健康を維持する上で、「骨格を正しい位置に整える」ことが重要なポイントだととらえている。

 

 「骨格のゆがみは体全体のひずみにつながる。それが体調不良を引き起こしたり、パフォーマンスが低下する一因となるのです。アスリートにも高齢者にも、この点は共通しています」

 山本社長は昨年12月に山口県で開催された日本統合医療学会で約300名の参加者を対象にセミナーを実施。低体温の解消と、骨格の正常化による健康力アップというアプローチは興味深く受け入られたという。

 

 「体温を上げることがスポーツを行う上でも、健康的な生活を過ごす上でも大切だと多くの方に認識していただけたと感じています。また、骨格のゆがみを正すことがアスリートにはフォームの改善につながり、高齢者には歩行時の転倒防止にもつながる。スポーツと介護の両面で役に立つ方法が示せたのではないでしょうか」

 

 このように大きな手応えを山本社長はつかんでいる。現代の高齢者医療、介護の現場では、単に寿命を延ばすだけでなく、健康的に日常を過ごす期間を増やすことが目標だ。それが年々、増大し、国家財政を圧迫している医療費の抑制にもなる。

 

 「日常生活のクオリティを上げる取り組みは、これから一層、重要になってくるでしょう。その意味では、我々の考え方や製品を、いかにこれから浸透させていくかが課題になります」

 山本社長は先を見据える。前回、紹介したようにバイオラバーゼロベスト、バイオラバーゼロベルトは装着して簡単な運動を毎日、繰り返すだけで低体温から脱却し、骨格も整ってくる。他人の手を煩わせたり、機械の力に頼らず、セルフケアできるところも強みだ。

 

 加えてバイオラバーは独立気泡によるハニカム(蜂の巣)構造でできており、3次元に伸縮する。そのため、皮膚や筋肉にストレスを感じさせない。昨今、選手が動作チェックをしたり、体温や血圧、心拍数など健康状態を把握するためにウェアラブル端末が広がりを見せつつある。山本社長は「バイオラバーはウェアラブル端末に最適な素材」とアピールし、市場に売り込んでいく構えだ。

 

 「これから寒い日が続き、体が冷えてケガや調子を崩す人が増える時期です。アスリートにも高齢者にも我々の発想を理解し、製品を活用して元気に過ごしてもらいたいですね」

 2016年も山本化学工業は、より高みを目指す選手たち、健やかな日々を送りたい人たちの伴走者であり続ける。

 

 山本化学工業株式会社

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