谷口諒の売りは「遠くへ飛ばす力」だ。これは練習で身に付けた技術ではなく、生まれ持った才能である。その長打力を生かし、神奈川大学野球連盟１部で通算８本塁打を記録した。
谷口を中学時代に１年間指導した長谷川直仁（現・愛知県立春日井高野球部監督）はこう振り返る。
「中学１年の時に、試合で弾丸ライナーを放ち、そのまま球場のスタンドに放り込んだんですよ。普通の中学１年はあんな打球を打つことはできない。肩も強かったし、パワーがありました」
幼少期から群を抜いて力が強かった。一番近くで応援していた父・忍は「野球のコーチや監督さんに“飛ばす力は努力でできるものではない。彼の生まれつき持った才能です”とよく言われました」と証言する。谷口のパワーは、監督やコーチからもお墨付きのものだった。
ただ力があってもバットにボールを当てなければ意味がない。現在、谷口は左足を高く上げるフォームを採用している。「（大学）１、２年の頃も上げてはいましたが、足を上げている時間はかなり短かったと思います。その時間を長くしようと思ったら、自然と足が高く上がるようになりました」。右バッターの谷口は左足をグッと引き上げた後に、伸ばして踏み込みにいく。
プロ野球選手で例えると、昨季から２年連続でトリプルスリーを達成した山田哲人（東京ヤクルト）の打法に似ている。片足で立つ時間が長いため、バランスを取りにくい難しさはあるが、本人は「しっくりときている」と言う。「足を（高く）上げた方がタイミングを取りやすいです」と、大きなフォームは合っているようだ。
そして重要なのは左足ではなく、「軸足」の右足だと説明する。
「体重を乗せるポイントになるので、軸足の股関節に力を入れることを意識しています」
トレーニングに加え、参考となる山田のバッティング映像を繰り返し動画で見て、ようやく現在の打撃フォームに辿り着いた。
最初で最後の済美生
高校時代は、プロ野球選手になりたいと夢描いていても、“なれる”とまでは思っていなかった。だが、今は違う。それも全て、済美高で教わった上甲正典監督にプロ入りを後押しされたからだった。谷口にとって、上甲監督はどんなに感謝してもしきれない存在である。
横浜商科大に進む道を築いてくれたのも、上甲監督だった。「オレが信頼できる選手を横浜商科大に送りたい」。上甲監督の教え子が横浜商科大に進学するのは、谷口が初めてだった。そして、同時に最後の選手にもなった。
２年前、上甲監督は胆管がんで急逝した。谷口は野球人生の道筋を作ってくれた恩師に感謝の気持ちを伝えたくても、もうこの世にはいない。谷口にとってプロのユニホームを着て活躍することが、亡き恩師への一番の恩返しになるだろう。
来春から、社会人野球の新日鐵住金鹿島でプレーする。住金鹿島といえば、都市対抗野球大会常連の古豪チームだ。過去にプロ野球選手を多く輩出している。谷口は「もっと遠くに飛ばせるバッターになりたい。１年目からレギュラーを取るつもりで頑張りたいと思います」と、意気込む。
２年後のドラフト会議で「谷口諒」の名を呼ばれる日を心待ちにして、新天地での活躍を誓った。
（おわり）
＜谷口諒（たにぐち・まこと）プロフィール＞
1994年１月10日、愛知県出身。小学４年で野球を始める。中学３年時には春日井ボーイズで第39回日本少年野球春季全国大会優勝を経験。済美高では３年時に主将を務める。甲子園出場には至らなかったが、３年夏は愛媛県ベスト４まで進んだ。13年に横浜商科大に入学すると、１年時からスタメンで試合に出場した。３年秋は打率.293、３本塁打、９打点でベストプレイヤー賞と打点王を獲得。今年から主将としてチームを牽引する。身長178センチ、体重80キロ。右投右打。
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（文・写真／安部晴奈）
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