橘香織&上村知佳(車いすバスケ)第2回「若手の勢いとベテランの重み」
二宮: 車椅子バスケットボール女子がパラリンピックの正式競技として初めて採用されたのは、1984年のアイリスベリー大会(英国)でした。日本は同大会から2008年北京大会まで7大会連続で出場し、アイリスベリー、2000年シドニーと2大会で銅メダルを獲得した実績があります。その後は2004年アテネ大会で5位でしたが、北京大会では4位と表彰台まであと一歩でした。「次こそは」という期待も高まる中、2012年ロンドン大会では初めて出場を逃すという残念な結果に終わりました。それだけ世界の強化が進んでいるということなのでしょうか?
橘: 世界情勢は変わってきたと思います。例えば、これまで強いとは言えなかったオランダや英国、そして中国が台頭してきています。オランダは1988年ソウル大会から3大会連続でメダルを獲得していましたが、世代交代がうまくいかず、シドニー以降は低迷が続いていたんです。しかし、ようやくチームがかみ合い始めたのでしょう。ロンドンでは銅メダルを獲得し、4大会ぶりの表彰台に上がりました。
伊藤: 日本の現在のチーム状況はどうでしょうか? 来年のリオデジャネイロパラリンピックはもちろん、2020年東京パラリンピックで中心となる選手というと……。
橘: まずはやはり、網本麻里ですね。彼女も代表に入って10年近くになり、ベテランの域に達しつつありますが、リオ、東京でも間違いなくエースとしてチームを牽引してくれる存在です。今回の大阪カップでも地元出身ですから、大きな声援を背に、網本らしい好プレーを見せてくれるはずです。網本と同い年(26歳)の北田千尋も、現在売出し中の選手です。彼女は日本人には珍しくリーチがあるので、リバウンドにも強いですし、インサイドに入って得点を取ることができる選手です。もうひとりは20歳の北間優衣です。非常に賢い選手で、攻守ともにチームプレーが巧くなってきています。
結束力を生む大黒柱”お父さん”の存在
二宮: 強いチームには、勢いのある若手がいる一方、必ずチームをまとめるベテランの存在がいます。
伊藤: 日本代表の大黒柱は、やはりキャリア28年の上村さんですね。上村さんの存在がチームのムードを明るくしているように感じられて、それも今のチームの魅力のひとつだと思っています。
上村: 私はチームメイトから「お父さん」と呼ばれているんです(笑)。
二宮: まさに大黒柱の象徴ですね。力強くて、頼もしいイメージがあります。
上村: 今、橘香織ヘッドコーチ(HC)はユニットを組ませて戦うという戦術をしているのですが、私がいるユニットは本当のファミリーみたいな感じなんです。お父さんとお母さんと、3人の子どもたちがいるみたいな。他の選手からも”ファミリーセット”と呼ばれているんです(笑)。
橘: ゲーム本番中も、誰も「知佳さん」と呼ばずに「お父さん、パス行った!」と言うんです。上村選手のおかげで、”ファミリーセット”はすごくムードがいいですね。
伊藤: 若い選手も「お父さん」と呼べるというところが、上村選手の包容力の大きさを感じます。
橘: そうなんです。上村選手はこれまで5度もパラリンピックに出場した日本を代表する選手ですから、誰よりも経験が豊富ですし、もちろんプライドだってある。でも、それを表には出さずに、若手が近づきやすい雰囲気を出してくれているんです。もちろん、締めるところはビシッと締めるし、火をつけるところは火をつけるといったメリハリもつけてくれますから、チームのムードはとてもいいんです。上村選手の存在は本当に大きいですね。
(第3回につづく)
<橘香織(たちばな・かおり)プロフィール>
1972年7月4日、兵庫県神戸市生まれ。茨城県立医療大学理学療法学科准教授。20¬05年から車椅子バスケットボール女子日本代表のマネージャーを務め、08年には北京¬パラリンピックに帯同した。11年にはU-25女子ジュニア世界選手権ヘッドコーチ、¬12年には豪州遠征のアシスタントコーチを務めた。13年5月、女子日本代表のヘッド¬コーチに就任し、16年リオデジャネイロパラリンピックでは2大会ぶりの出場を狙う。
<上村知佳(うえむら・ちか)プロフィール>
1966年2月27日、石川県生まれ。中学では陸上部、高校ではハンドボール部に所属。18歳の時に階段からの転落事故で脊髄を損傷。リハビリで車椅子バスケットボールに出合い、日本を代表するセンタープレーヤーとして活躍。88年ソウル、92年バルセロ¬ナ、96年アトランタ、2000年シドニー、04年アテネと5大会連続でパラリンピックに出場し、シドニーでは銅メダル獲得に貢献した。