(写真:4月7日、大阪・城東区民ホールのリングにUの戦士が集った)

(写真:4月7日、大阪・城東区民ホールのリングにUの戦士が集った)

「今回のサプライズゲストは、あの選手ですからね」

 プロレス団体『ストロングスタイルヒストリー』の大会前日(4月6日)、主催者の上井文彦さんが興奮気味に話してくれた。

 

「それはきっとファンも喜ぶと思います」

 その人物の顔がすぐに頭に浮かんだのだが、果たしてどのような演出をするのか僕自身も楽しみであった。

 

 4月7日の試合当日、会場に到着すると一番乗りで練習していたのは、金本浩二選手だ。

「やっぱ金本さんは違う! 向上心の塊だ」

 

 しばらく単独でトレーニングした後、リング上で総合格闘家の勝村周一郎選手と立ち技のマススパーリングをはじめた。レジェンドと呼ばれる立場にいながら自分の知らない技術を謙虚に教わっている姿勢に感銘を受ける。これは見習わないといけない。

 

 50歳になった現在でも若い頃と遜色のない動きができるのは、この姿勢を崩さないからに違いない。ファイターは、上昇志向を失ってはダメなのだと心底思う。

 かつて僕の引退試合の相手を務めてくれた好敵手から大きな刺激を受けたのだった。

 

 続いて僕の眼に飛び込んで来たのは、出場選手ではない。

「えっ、保永さん? 新日本のOBは、練習の虫だなぁ」

 

 会場の隅で黙々とトレーニングをしている保永昇男レフェリーを発見した。

 ヒンズースクワットや四股踏み、ライオンプッシュアップ(レスラー式の腕立て伏せ)をこれでもかと繰り返している。

 

「保永さんって、確か還暦を過ぎていたのでは?」

 年齢を考えると現役選手顔負けのその練習量に頭が下がる思いがした。更に驚いたのが、新日本プロレス伝統の昭和式のトレーニングに最新のトレーニング理論を加えているところだ。プランク(うつ伏せから腕を曲げて両肘で上半身を支え、さらに腰を上げた状態をキープする運動)や滞空時間の長い四股はかなりキツイと思う。

 

 体幹トレーニングやバランストレーニングの要素を取り入れている点が興味深かった。回数を闇雲に行なうのではなく、使う筋肉に対してしっかりと意識を向けてやっているところも素晴らしい。ゴールドジムでトレーニングの勉強をかじっていた僕からみても理にかなったメニューをやっている。

 

 選手でもないのに、トレーニングを進化させ、ここまで鍛えている方を僕は知らない。

 鍛錬することの大切さを改めて感じ、身が引き締まる思いがした。

 

「いやいや、そんな大した練習なんかやってないよ」

 このように謙遜する保永さんだが、この日一緒にやっていた若い選手の疲労度合いを見れば、そのハードさは一目瞭然だ。

 

「大先輩と一緒に汗を流したかった」

 この日、トレーニングウェアを持って来なかったことを後悔した。

 

 元新日本勢とは対極で会場入りが一番遅かったのは、冨宅祐輔選手だ。

「(会場へ)早く入り過ぎると本番前にダレてしまうから」

 ベテランならではの、この言葉に納得する点もあるが、場の空気をアウェイではなくホームにする意味では早いほうが良い気がする。でもこの日は2試合を予定しているだけに極力エネルギーを温存する意味では正解かもしれない。

 

 今大会は、主催者の上井さんの意向で、冨宅選手の下の名前がUWF時に使用していた「祐輔」となっていた。主催者の期待の大きさが伺える。

 

 さて、気になる冨宅選手の試合だが、結論から言うとどちらの試合も大きなインパクトを残すまでにはいたらなかった。短時間で勝利し、健在ぶりをアピールしていただけに惜しい気もする。ただ、この日を境に覚醒する予感もあるだけに今後に期待である。

 

 試合後、冨宅選手に激励の花束を渡すためにリングに上がらせていただいたが、僕は刺身のツマに過ぎない。

 

 目玉は、この日のシークレットゲストである田村潔司選手だった。

「もうひとりゲストが来ています」と田中ケロさんがアナウンスすると入場曲と共に客席の上方から、ゆっくり登場した。まさかの来阪にファンも大喜びであった。

 

 リング上で田村さんの入場曲を聴くのはUWFインター以来だったが、不思議な気分であった。並んでみると体格差は歴然としていたが、気持ち的には負けていないと変な競争心が働いた。こんな大病をしても未だライバル心みたいなのが残っていることに自分でも驚いた。

 

「リング上で再会を果たしたのには、きっと意味があるはず」

 すべてのことに偶然などない。数年後、僕は完全復活を遂げた姿で彼の対角線上に立っているような気がする。

 

「これは面白くなってきた」

 僕は宿舎のホテルに戻っても未来予想図を広げ、どんどんイメージを膨らませていた。

「8月に今度こそ復帰を果たし、9月には同期対決で冨宅選手と対戦しよう。これらの闘いで良いものを残せたら、来年は更に高いステージに挑戦したい」

 

 先月、桜庭和志選手との復帰戦は雨天のため、中止となり気持ちが萎えていたが、再び闘魂に火がついた感じだ。

 

 もちろん、焦りは禁物だが、免疫力を活性化するような熱い目標が湧き上がってきたのは良いことだと思う。このような気持ちになったことを主催者の上井さんに感謝する。

 

 じっくりと計画的に練習し、良い形でこのリングに戻ってくる。

 

(このコーナーは毎月第4金曜日に更新します)


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