歴代最多となる公式戦での29連勝を達成した最年少プロ棋士・藤井聡太四段に関するニュースが増えるにつれ、「最善手」「悪手」といった将棋用語が世間の口の端に上るようになってきた。

 

 普段、我々がよく口にする将棋用語の中には「禁じ手」というものもある。同じ縦の筋に歩を2枚並べる「二歩」は素人が犯しやすいミスだが、時に高段者の対局においても発生する。他に「行き所のない駒の打ち込み」というものもある。最上段に桂馬や香車などを打つのがそれだ。駒は身動きがとれず、指した時点で反則負けとなる。

 

 韓国の文在寅大統領が世界テコンドー選手権の開会式で、来年の2月に開幕する平昌五輪での“南北合同チーム結成”について言及した。韓国の中央日報日本語版(6月21日付)によれば、雪上種目の一部を北朝鮮の馬息嶺(マシクリョン)スキー場で行う案が検討されている。

 

 韓国メディアの反応はどうか。たとえば東亜日報。

<金正恩労働党委員長が核とミサイルを決して放棄しないと言っているにもかかわらず、文大統領が対話にしがみつくなら、北朝鮮に対する交渉力だけが弱まる恐れがある>(6月26日付)。妥当な見解だろう。

 

 既視感がある。日本と韓国が激しく争った2002年サッカーW杯開催国の座は、FIFAのルールにない「共同開催」(Co-hosting)というかたちで決着した。誰が最初に「共催」という言葉を用いたのか。当時のFIFA副会長にして大韓サッカー協会会長・鄭夢準である。94年10月のことだから、02年の開催国が決まる1年半も前である。

 

 驚くことに鄭夢準が「共催」のパートナーとして考えていたのは日本だけではない。開催国決定の1カ月前には「今後、議論を経て韓日共同開催を、北韓(北朝鮮)がともに同等な水準で参加する『三者共同主催』へ発展させなければならない」と明言していたのである。「同等な水準」での「三者共同主催」など絵空事にも程がある。スポーツの政治利用、ここに極まれりとの印象を私は抱いた。

 

 韓国がサッカーW杯にしろ五輪にしろ、「スポーツ交流」という美名の元に北朝鮮カードを持ち出すのは「禁じ手」である。五輪憲章の根本原則には「人間の尊厳を保つことに重きを置く」との文言がある。北朝鮮という国が、この対極に位置しているのは明白である。

 

<この原稿は2017年6月28日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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