(写真:8月に発表されたZ.N.E.パルスニットフーディーを筆頭にしたアスレチクスラインについて話を聞いた)

 アディダスはサッカー日本代表やバスケットボールのBリーグ・アルバルク東京のスポンサーを務め、そのユニフォームには「バッジオブスポーツ」と呼ばれる三角形のロゴが飾り付けられている。またストリートカジュアルでもアディダスのアパレルラインを巧みに取り入れたコーディネイトを多く目にする。さらに最近では伊勢丹やレディスブランドのMOUSSY(マウジー)とのコラボレーションも活発だ。

 

 スポーツフィールドからストリートまでを広範囲にカバーし、熱い視線を集めるアディダスのアパレルラインアップはどのようなカテゴリーで構成されているのだろうか。発表されたばかりのアディダス・アスレチクス・フォール/ウィンターコレクションの取材を兼ねて、アディダス・ジャパンを訪ね、マーケティング事業本部 アスレチクス ディレクター磯部剛氏と同ブランドコミュニケーションマネージャー鈴木大祐氏から話を聞いた。

 

 

 コンセプトはゼロ・ネガティブ・エナジー

 

(写真:Z.N.E.のファーストモデルを前に。磯部氏「アスリートの試合前後をサポートするアイテムです」)

--今回、発表されたアディダス・アスレチクスのフォール/ウィンターコレクションについて伺う前に、アディダス全体のウエア、アパレル群の構成を教えてください。

「ご存知のとおりアディダスのカテゴリーは多岐に渡っております。まず大きく分けて二つのレーベルがあります。三角形のバッジオブスポーツのロゴをつけたパフォーマンスカテゴリーと、ライフスタイルに寄り添ったストリートウエアブランドの二つです。ストリートウエアブランドには、みなさんに"葉っぱのマーク"と呼ばれているトレフォイルマークが入っています。
 そこからさらにカテゴリー分けがあり、パフォーマンスは以下で構成されています。フットボール、ランニング、ハートビートスポーツ(ラグビー、スイミング、バスケットボール、テニスなど)、コアフットウエア(スニーカー)、そしてトレーニング。アスレチクスはこのトレーニングの中に分類されています」(磯部氏)

 

 磯部氏の説明によると、トレーニングカテゴリーには3カテゴリーがあり、テックフィットと呼ばれるコンプレッションウエアやブラ&タイツなどをラインアップする「トレーニング」、キッズなどヤングアスリート向けアイテムとバッグなどのアクセサリーで構成される「ヤングアスリート&アクセサリー」、そして昨年秋冬にスタートしたのが今回、フィーチャーする「アスレチクス」--。

 

--アスレチクスのコンセプトは?
「アスレチクスがカバーするのは、アスリートの試合の前後やトレーニングの前後です。試合に向かう前まで、そして試合中でもピッチサイドで出番を控えているときなどです。それに加えて試合後に選手が記者会見に出たり、そこから宿舎に帰るまでにいかにリラックスできるか。そういった試合中以外のシーンに着目して作られたのがアスレチクスです。こちらが昨年秋に発売したフーディー(パーカー)ですが、従来よりも厚手の生地を使いながら動きやすく、そしてフードによって周囲の雑音もシャットアウト。アスリートを"守る"ことをひとつのコンセプトにしています。我々はゼロ・ネガティブ・エナジー(Z.N.E.)と呼んでいますが、アスリートのパフォーマンスに影響するネガ要素をゼロにして、最高のパフォーマンスを発揮できるようにサポートします」(磯部氏)

 

 秋冬最新アイテムは軽量ニットを採用

 

(写真:フードのジッパーはこのように顔の半分まで上げることができる。まさに包み込まれるような感覚だ)

 実際にその「フーディー」を手にとってみた。厚手の生地を採用しながらも動きやすく、そして深めのフードをかぶるとすっぽりと包み込まれるような心地よさがある。商品開発にあたっては世界中のプロアスリートからヒアリングを実施し、彼らの声が反映されているという。鈴木氏の説明はこうだ。

 

「ヒアリングの結果、トップアスリートというものは試合のときにコンディションは完全に仕上がっている状態にある、と。それで勝つか負けるかは90%がマインド、メンタルの差だというデータが得られました。アスレチクスのコンセプトが試合前後、アスリートの周囲をサポートするものなので、そこに注力して開発したのがこのZ.N.E.フーディーです。集中力を高め試合で最大限の力を発揮するためのアイテムで、他ブランドでも類を見ない商品だと思っています」

 

 アスリートの試合以外の部分をサポートするという意味では、昨年リリースされたZ.N.E.トラベルフーディーもユニークな商品だ。トラベルという名前のとおり、アスリートの「移動」をサポートするアイディアが各所に盛り込まれている。

 

「実際に商品を見ていただくとわかりますが、トラベルには大きめの内ポケットや袖口にはファスナー付のポケットもあり、飛行機や電車のチケット、スマートフォン、カードなどを収納できます。例えば試合の移動日に飛行機を利用する際、ゲートの前で"チケットはどこに入れたかな"となることがある。そうしたネガティブなエナジー、ストレスもポケットが豊富なこのアイテムなら解決できるというわけです。また厚手のフードは発熱素材になっているので頭や首回りが温く、かぶれば飛行機や新幹線で快適に寝られます」(磯部氏)

 

 先に紹介したZ.N.E.フーディーがロッカールームやピッチサイドでの着用をイメージしたものなら、このZ.N.E.トラベルフーディーは競技場の外のアスリートをサポートするアイテムだ。"試合以外の部分をサポートする"というアスレチクスのコンセプトを象徴する商品といえるだろう。

 

 この8月にリリースされたフォール/ウィンターの新商品が「Z.N.E.パルスニットフーディー」で、スポーツウエアとしては珍しいニット素材を使用している。

 

「今まで紹介したZ.N.E.は普通のスウェットなのでコットンやポリエステルで作っていましたが、これはニットなんです。ニットはアディダスではランニングシューズのアッパーに使用されて非常に受け入れられている。ニットというのは元々、着心地が良いのでスポーツアイテムとの相性もいい。さらにウールとポリエステルの混合で軽くしたのでさらに着心地がよくなっています。さらにこのパルスはデザインが特徴で、パルス=心拍数ということで実際にアスリート何人かの心拍をとって、それをデザインにしたものです。

 

 そして新たに発売されるZ.N.E.プライムニットフーディーは、さらにパルスから進化した素材を使っています。ウールとの混合ではなく全ポリエステルのニットにしたことで、さらに軽くなりました。我々はサーティシックスアワーズ(36時間)というコンセプトで呼んでいますが、選手が自宅や宿舎から試合会場に向かってから帰ってくるまでの時間が大体36時間くらい。その36時間をできるだけ快適にサポートするというのが、このプライムニットです。着心地が軽いのはもちろん、ポリエステルニットなのでシワになりにくく、それこそ車のトランクやスーツケースに放り込んでも大丈夫。取り扱いが楽というのも狙いのひとつでした」(磯部氏)

 

 

 伊勢丹やMOUSSYとのコラボレーション

 

 さて競技場内外のアスリートをサポートするアスレチクスだが、伊勢丹とのコラボレーションで生まれたユニークな商品がある。それはジャージ素材でできた「スーツ」である。アスリートにとって勝負の場が試合ならば、ビジネスマンにとってはプレゼンや商談が試合にあたる。スポーツブランドのアディダスとして、ビジネスマンの「勝負」をサポートするためのものだ。

 

「伊勢丹さんとのジョイントは昨年から始まりました。上下セットアップのジャケットとパンツですが、素材はジャージです。だから機能性も高く、着心地はジャージそのものだから動きやすい。あと吸汗速乾性に優れた糸を使っているので、夏に着ていて汗をかいても快適なんです。さらに背中の縫い目はメッシュラインになっているので通気性もあります」(磯部氏)

 

 このジャケットは袖を折り返すとアディダスのロゴが入っていたりと、さりげなさがビジネスシーンにぴったりとマッチする。昨年、あるアディダス契約アスリートを取材したときのことを思い出した。そのアスリートがまさにこの伊勢丹とのコラボレーションスーツを着用しており、フォーマルな席での取材だったが、周囲に溶け込み、まったく浮いた感じがなかった。

 

 さて最後に女性用のアイテムを紹介してこの項を締めよう。女性ブランドのMOUSSY(マウジー)とアディダスのコラボレーションが今年から始まっている。マウジーは20代女性をメインターゲットにしたブランドだが、アディダスはこのコラボにどんな狙いを持っているのだろうか。

 

(写真:マウジーとのコラボレーションアイテムはアディダスの機能性と、女性にも受けるガーリーなデザインの融合によって生まれる)

「スポーツウエアの業界はやはり女性へのアプローチがあまりうまくないという伝統がありました。国内だけでなくグローバルを含めて女性アスリート、スポーツ愛好家が増えているので、そこへの訴求もポイントになっていました。反対にマウジーさんは今までにはない新しいお客様を得られるということで、ジョイントが始まりました。ロングTシャツひとつにしてもスポーツブランドのアディダスが絡むことで、後ろにスリットが入っていて、肩甲骨まわりが動かしやすかったりする。また女性向けファッションブランドであるマウジーの発想からアディダスでは思いつかない、オフショルダー、肩がストンと落ちた、実に女性らしいデザインのアイディアが生まれたりしています。コーポレートカラーが黒いアディダスはなかなか女性としてはショップに入りにくいイメージもあったと思うのですが、マウジーさんとのコラボでそうした敷居も下がってきていると思います」(磯部氏)

 

(写真:磯部氏(左)、鈴木氏とともに。アディダスのスーツ、ビジネスシーンにもぴたりと合うことが分かる)

 スポーツは老若男女を問わず楽しめるものである。アディダス・アスレチクスはアスリートからアマチュアまで多くのスポーツ愛好家をサポートする。オンピッチ以外の部分でアスリートを支えるアスレチクスラインが、我々にとって一番身近なウエアカテゴリーになる日は、そう遠くなさそうだ。


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