2大会ぶり3回目の「世界一」を目指した第4回WBC。野球日本代表(侍ジャパン)は米国代表に1対2と競り負け、惜しくもベスト4に終わった。

 

 日本を倒した余勢を駆って、米国は初めて頂点に上りつめた。ドジャースタジアムでのプエルトリコとの決勝は史上2番目となる5万1565人の大観衆が詰めかけた。

 

 これまでWBCには関心が薄いと言われていた米国の野球ファンも、遅まきながら国際大会の魅力に気が付いたようだ。大会の成功に気をよくしたのか、コミッショナーのロブ・マンフレッドは「世界最高の選手による素晴らしい試合、記録的な観客動員。選手が国を代表するという貴重なイベントで、成長を続けている」と継続の意思を示した。

 

 

 名手・菊池をアシスト

 

 今回は侍ジャパンに名を連ねた2人の選手にスポットをあて、今後を占ってみたい。
 まずはショートのレギュラー坂本勇人(巨人)。2大会連続出場となった今大会では、文字どおり"内野の要"の役割を果たした。1次ラウンドのキューバ戦から準決勝の米国戦まで、出場した6試合で失策はゼロ。安定した守備力で米国行きに貢献した。

 

 名手・菊池涼介(広島)とのコンビは、とても急造とは思えなかった。列島中に拍手が鳴り響いたシーンを、ひとつ紹介しよう。

 

 2次ラウンド初戦のオランダ戦、6対5と日本1点リードで迎えた7回裏、1死一塁で打席にはザンダー・ボガーツ。レッドソックスでプレーする強打者だ。

 

 マウンドにはサウスポーの松井裕樹(東北楽天)。快音を発した打球は二遊間へ。これを菊池が横っ飛びで捕球し、倒れながら二塁塁上へトス。送球はやや一塁方向へ流れたが、坂本は左腕を目いっぱい伸ばして、これを捕り、ピンチの芽を摘んでみせた。

 

 菊池の"忍者"のようなフィールディングは、どれだけ褒めても褒めたりないが、阿吽の呼吸でファインプレーを演出した坂本のサポート力にも舌を巻かされたものだ。

 

 「6番・坂本」の威力

 

 また打っても坂本は24打数10安打、4割1分7厘と高打率を残した。本戦では1次ラウンドから決勝トーナメントまで6番を任された。6番に求められる仕事は主にはポイントゲッターである。16年のシーズンで3割4分4厘の高打率をマークし、セ・リーグ史上、ショートとして初の首位打者に輝いた確実性の高いバッティングに小久保裕紀監督は期待したわけである。

 

 その一方で、6番はチャンスメーカーの役割をも担う。単なる「6番目の打者」ではなく、攻撃のキーマンとなる「6番打者」として坂本は機能した。本戦ではホームランこそなかったが、内角にくればスタンドに放り込むだけの力を秘めるのも坂本の魅力だ。

 

 周知のように打者としての坂本のアドバンテージは、通常、右打者が苦手とするインローのボールを苦もなく打ち返すことである。

 

 これは本来、彼が左利きであることに起因しているように思える。それが証拠に、利き腕の左でうまくボールを拾い上げているのだ。この技術は誰かが教えたからと言って覚えられるものではあるまい。

 

 昨年12月で28歳になった。円熟期を迎えるのは、これからである。

 

 ライバルとの関係

 

 慣れないDHでの起用は、山田哲人(東京ヤクルト)にとってはリズムがつくれなかったかもしれない。しかし本職のセカンドには規格外の守備範囲を誇る菊池がいる。チーム事情を考えれば、やむを得ないことでもあった。

 

 それでも14日、2次ラウンドのキューバ戦で披露した打棒は、山田のポテンシャルを余すところなく見せつけた。

 

 1本目は初回、先頭打者ホームランだった。マウンドにはブラディミール・バノス。カウント2ボール1ストライクから放った打球は放物線を描きスタンド中段まで飛んだ。1次ラウンドではフェンスギリギリの打球でビデオ判定の末、エンタイトルツーベースになったが今度は文句なしの一発だった。

 

 2本目は8回裏、5-5から代打・内川聖一(福岡ソフトバンク)の犠牲フライで1点勝ち越してなおも1死一塁の場面。3番手ミゲル・ラエラの初球をフルスイングした。「スライダー1本に絞ってました」と山田。打球は歓喜に沸く左翼席に飛び込んだ。侍ジャパンの決勝ラウンド進出を引き寄せる一打だった。

 

 80年以上の歴史を誇るプロ野球で2年連続トリプルスリー(3割、30本、30盗塁以上)を達成した選手は山田しかいない。

 

 一方、守備の名手におくられるゴールデングラブ賞は、菊池が4年連続で受賞しており、なかなか手が届かない。

 

 過去にも、こうした例がないわけではない。広島カープ黄金期のショート高橋慶彦は3割台を5回マークし、盗塁王にも3回輝いたが、セ・リーグには山下大輔(大洋)という名手がいたため、広い守備範囲を誇りながら一度も、このタイトルにはありつけなかった。

 

 守備力も向上

 

 山田と菊池の関係に話を戻せば、セカンドのゴールデングラブ賞は菊池が独占しているものの、ベストナインは山田が3年連続で選ばれている。広島25年ぶりのリーグ優勝の立役者である菊池はリーグ最多の181安打を放つなどバットでもチームに貢献したが、トリプルスリーの威光を前にしては分が悪かった。

 

 この先、山田はどうするのか。かつては「メジャーリーグには興味がない」と語っていたが、WBCに出場したことで、多少は考え方に変化があったようだ。

 

 WBCの後にこう口にしている。「(メジャーリーグに)興味がないことはないですね。球場やキャンプ地を見て、いいなと思いました。野球発祥の地だし、ああいうところで野球ができるのはいいな、と思いました」

 

 山田には守備の師匠がいる。元東京ヤクルト二軍内野守備走塁コーチの土橋勝征(現東京ヤクルトフロント職)だ。山田は語っていた。「練習量が多く、しかも黙々とやるんです。しんどくて、もうやめたいと何度も思いました。土橋さんからは小さい練習用のグラブを渡された。それまでは打球をグラブの網の部分で捕っていたんです。これだと握り替えが増えるから送球が間に合わない。今にして思えば基本中の基本ですよね。これを徹底してやる。同じことをくり返しやらされました。おかげで集中力も身につきました」

 

 トリプルスリーに隠れている感はあるが、守備力の向上も著しい。14年に13あった失策は昨シーズン、5にまで減った。「もっと守備力をアップしてベストナインとゴールデングラブ賞を同時にとれる選手を目指していきたい」。昨オフ、ベストナイン受賞後の山田の言葉だ。

 

 この先、どこまで伸びるのか。天井知らずの24歳である。


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