(写真:アスリートの第二の皮膚でもあるベースレイヤー「アルファスキン」。筋連動がパフォーマンスをさらに向上させる)

 試合やトレーニング時に着用するウエアの中で、アスリートの肌にもっとも近いのがベースレイヤー、いわゆるインナーである。以前のインナーは綿製品が多く吸汗が主な目的だった。シルエットもゆったりとしたものだったが、現在は体に密着するコンプレッションウエアが主流だ。機能面でも速乾性能、冷却性能、保温性能など多方面に進化を遂げる中、この1月、アディダスはハイパーフォマンスベースレイヤー「アルファスキン(ALPHASKIN)」を発売した。

 

 

 連動してパワーアップ

(写真:アディダスマーケティング事業本部の篠崎隆宏氏と二宮。伸縮性の高い素材にまずは驚かされた)

 アルファスキン最大のセールスポイントは「筋連動」だ。複数の筋肉の動きを連動させることでアスリートの能力を最大限に引き出すことを目的にしている。この新商品についてアディダスマーケティング事業本部の篠崎隆宏氏(トレーニングビジネスユニット メンズマーチャンダイジング マネージャー)に話を聞いた。

 

「コンプレッションウエアが当たり前になった今、アルファスキンの開発にあたってはベースレイヤーの基本に立ち返り、ファッション性ではなく機能で差別化を図りました。その答えが"筋連動"です。これは筋肉の流れや体の動きに合わせたキネティックラインを採用することで、筋肉の連動を意識させるものです。ボールを蹴る、ボールを投げるなどの動作は決して足や手だけの筋肉を使っているのではありません。それこそ上半身、下半身、そして全身のすべての筋肉が連動して、初めて強いボールを蹴ることができたり、キレのあるボールが投げられる。筋肉ひとつひとつの動きを合体させることで出力されるパワーを大きくする。筋連動とはそういうコンセプトです」

 

(写真:黒い部分がキネティックライン。体の動きを妨げることなくアスリートに筋連動を意識させる)

 アルファスキンの筋連動を実現したキネティックラインは、動作時の基準となるアンカーポイントと動く部位であるブレイクポイントの2箇所を軸として、アンカーポイントからブレイクポイントへ捻転するように入っている。これによりアスリートの動きを妨げることなく、筋肉の連動を意識した動きをサポートするのだ。

 

 アルファスキンは試合中のパフォーマンスアップに貢献するのはもちろんだが、ケガの防止にも役立つと篠崎氏は続けた。

 

「アスリートはパフォーマンス向上のため、例えばパワーアップを目的にした場合、筋力トレーニングに取り組みます。このときに"もっとパワーを、もっと力を"と求めるあまりオーバーワークになり、それがケガにつながることもあります。アルファスキンを着用すれば適切に鍛えられた筋肉を連動させ、無駄のないパフォーマンスが期待できます」

 

 筋肉の連動を意識することでプラスαのパワーが期待できるのならば、結果、オーバーワークからアスリートを守り、負傷のリスクを減らすことにもつながりそうである。

 

 包み込むような360度フィット

 アルファスキンはコンプレッションウエアの最先端モデルとして、着用感にも優れている。アスリートの体を360度包み込むボディラッピングと呼ばれるコンセプトによって生まれたもので、特にトップモデルの「エリート」は立体裁断された生地と縫い目のないシームレスデザインで、フィット感と快適性を高い次元で両立させた。

 

(写真:立体裁断によって包み込むような360度ボディーラッピングが実現した)

「ベースレイヤーはアスリートが動くときに着用する物なので、前身頃と後ろ身頃を単純に合わせただけという作りでは無理があります。立体裁断を採用したアルファスキンはこれまでにない包み込まれるような着用感を実現しました。コンプレッショウエアのネガ要素である"キツイ""苦しい"という面もなく、体が自然とゼロポジションにセットされるので、"着用した方が動きやすい"という感想を多くのアスリートからいただいています」

 

 このアルファスキンはサッカー日本代表にも提供されている。代表戦のロッカールームに持ち込まれるアルファスキンは市販品と同じもので、サンデーフットボールプレーヤーも香川真司と同じものを着用し、プレーできるというわけだ。

 

「その上でさらにこだわっていただきたいポイントがあります」と語り、篠崎氏はこう続けた。

 

(写真:「スパイク同様にベースレイヤーもこだわりを持って選んでもらいたい」と篠崎氏)

「ベースレイヤーはスポーツギアやウエアの中では目立たない、縁の下の力持ちともいうべき存在です。でもアディダスとしては"スパイク選びと同じくらいこだわってほしい"という思いがあります。アルファスキンはエリート、アスリート、チームと3タイプがあり、それぞれに特徴があります。キネティックラインは3タイプ共通ですが、着圧が高いのはエリート。アスリートはアディダスの最上位冷却テクノロジーCLIMACHILL(クライマチル)を採用し、体をクールに保つことができます。チームは吸汗速乾性に優れるCLIMACOOL(クライマクール)を採用し汗をかいても快適性を維持します」

 

--エリート、アスリート、チームは上中下、といった製品のランク付けではない?
「そうです。どちらが上でどちらが下ということではなく目的別に3タイプがあるということです。先程のこだわりという意味では、高い着圧を求めるのか、冷却性能なのか、軽い着心地なのか、など3タイプの中から目的に合わせて選べるというわけです。実際にサッカー日本代表の選手たちも自分に合ったタイプのアルファスキンを選んでいますね」

 

 ウィメンズも充実

 アルファスキンにはメンズだけでなくウィメンズもラインアップされている。ウイメンズはランニングブームの高まりによってレギンスを中心にセールスが活発だが、アルファスキンではスポーツブラでも女性アスリートをサポートする。

 

(写真:アルファスキン・アスリートDRSTブラ。通気性のあるパッドを使用したトレーニング用ブラ。バンドによってアンダーバストのズレもサポート)

「ウイメンズのシャツやロングスリーブ、そしてレギンスに関してはメンズと同じく高い機能性を備えると同時に女性らしく美しく見せるラインやデザインにも配慮しています。たとえばベルトラインをV字カットしてあるのも動きやすさと美しさを両立するためです。そしてぜひ女性アスリートに注目していただきたいのがスポーツブラです。スポーツブラは胸部のクーパー靭帯を保護することで、その伸びを防ぎます。激しい運動によりクーパー靭帯が伸びたりするとバストラインが崩れてしまいます。プロアスリートはもちろんですが、積極的にスポーツを楽しむ一般の女性アスリートもスポーツブラを着用して、いつまでも美しいスタイルを保っていてほしいという思いがあります」

 

 スポーツブラに限らず、アスリートの体の保護という面ではアルファスキン全般にも同じことがいえる。

 

「スポーツによる疲労には様々な要因がありますが、筋肉が揺れたりブレることもそのひとつです。アルファスキンは全身をラップするように包むことで筋肉の揺れやブレを防いでいます。結果、疲れにくくすることができる。疲れにくければパフォーマンスを維持できるので、その点でもアルファスキンはアスリートをサポートしていると言っていいんじゃないでしょうか」

 

 コンプレッションウエアが主流になった昨今だが、アルファスキンは決して過剰に鍛え上げた筋肉を誇示するファッションアイテムではない。アスリートの体をゼロポジション(正しい姿勢)にセットし、筋肉を連動させて効率よく最大限のパワーを発揮するためのリアルスポーツウエアだ。今回のインタビューを篠崎氏はこう結んだ。

 

「正しい姿勢、ゼロポジションにセットすると人間の体はとても動きやすい。先にお伝えしたようにアルファスキンを着用すると体は自然とゼロポジション、正しい姿勢になります。これはアスリートだけでなく一般論として姿勢が悪くなると、動きにもぎこちなさが出る。姿勢をよくすることができれば、動きやすさにもつながるのではないかと思っています」

 

(写真:体の動きをサポートするという意味でアルファスキンはアスリートだけでなく一般にも薦めたいアイテムである)

 そう考えればアルファスキンはトップアスリートだけのものではなく、体を動かすことが好きな一般層にもその効果が期待できそうだ。これもフィールドからストリートまで幅広く支持されるアディダスらしさの現れである。余談になるが筆者も後日、アルファスキンに興味を持ち、スーツの下に着用して外出してみた。締め付けのない快適な着心地はもちろんのこと、ショーウィンドーに映った姿はいつもよりも颯爽として見えた。"第2の皮膚"をアスリートだけに独占させておくのはもったいない。


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