<社長のつぶやき>第3打「パインハーストのクラシックBARで熱狂」
日本カバヤ・オハヨーグループ代表の野津基弘です。「世界へ発進! 脱日本式ゴルフのすすめ」では「社長のつぶやき」と題して、私の個人的なゴルフにまつわるよもやま話を連載しています。今回はその3回目。話の舞台は今年のマスターズを観戦した際に立ち寄ったパインハーストです。
パインハーストはノースカロライナ州にあり、オーガスタ(ジョージア州)から北東に直線距離にして約400キロです。ここはNo.1からNo.9まで9つのコースからなるゴルフリゾートで、我々はカロリーナホテルに泊まり、No.2とNo.9に訪れました。No.9はジャック・ニクラウス設計のメンバーコースでしたが、自主運営ができないのでパインハーストに入ったコースです。
No.2はアメリカのコースで一番古く、6~8年周期で全米オープンが開催されます。以前はヨーロッパとアメリカの対抗戦ライダーカップもここで行われていました。場内には「RYDER CUP」というバーがあります。
No.2は1日で220人の予約をさばいているそうですが、ゴルフをプレーするためだけにこんな田舎にこれだけの人が集まるのか……と、驚きました。
No.2、各ホールのフェアウェイは荒れ放題ですが、グリーンとグリーン周辺のメンテナンスだけは完璧でした。ここはとにかくフラットなコースでフェアウェイ以外はウエストエリアで、余計にフェアウェイのラインがきれいに出ることで、より戦略的なコースとなっているのがよく分かりました。
あと、本当にホールごとにラインを邪魔するところに木は1本もありませんでした。とにかくラインをきれいに出すことにここまでこだわるのか、というくらいの思いが伝わってきました。我々、ザ・ロイヤル ゴルフクラブも余分なメンテナンスエリアを省いて、よりきれいなフェアウェイのラインを出すべきだな、と感じた次第です。
さてパインハーストのコースを視察した後、いよいよマスターズの決勝です。当地から約400キロ離れた場所で行われている熱戦は、先にあげたバー「RYDER CUP」でモニター観戦しました。ちなみにここはとてもクラシカルで素敵な雰囲気のバーです。機会があればぜひ一度、訪れてみてください。
今年のマスターズはお気に入りのゴルファーの一人、ローリー・マキロイが優勝争いから離れた時点で、セルヒオ・ガルシアに優勝してほしいと願い、応援していました。その願いが通じたかのように見事に優勝。いやあ、嬉しかったですね。
ガルシアは37歳のスペイン人。18歳のころから天才と呼ばれて、メジャー出場73回ながらも未勝利。それが初のメジャー優勝がマスターズというだけでドラマですし、またひとつガルシア伝説が増えたというところです。
自分流を貫いた初優勝
最終日、ガルシアは同組のジャスティン・ローズと9アンダーで並びました。途中、イーグルを逃して「えぇ……」と見ているこちらを落胆させたかと思えば、「おお!」とうなるようなパーをとる。まさにハラハラ、そしてドキドキの名勝負は18ホールを終えてイーブン、プレーオフに突入しました。
1ホール目、ローズはティーショットを曲げて木の下へ。一方のガルシアはベストポジションにつけました。ローズのセカンドは出すのがようやくという形になって、その後、8番アイアンでピンそばに寄せるスーパーショットを見せたものの結局、ボギー。ガルシアはグリーンに乗せたものの、ピン上からと位置も難しく不安の残る距離。初のメジャータイトルがかかったプレッシャーはいかばかりのものか。見ているこちらも緊張するパットでしたが、彼の手元はまったく震えることなくボールはカップインしました。
ガルシアは勝利を噛みしめるかのように屈み込み、そして雄叫び。観客ももちろん大歓声。ガルシアとオーガスタが一体になったように見えました。グリーンジャケットに袖を通した姿は本物の勝負に勝ったゴルファーという威厳に満ちていました。
勝ったガルシア、そしてプレーオフで敗れたローズ。ふたりともショットの一つ一つに強さがありました。お互いをリスペクトする中での戦いは、相手というよりも自分のベストプレーに集中すること、目の前のショットに渾身の力を込めること、それに全身全霊を尽くしているように見えました。そこから生まれた2人の歴史に残る戦いはゴルファーというよりも、人間の真の欲求を求めて、それを手にするための本能むきだしのものだった気がします。
彼らの戦いには「たまたま」とか「あわよくば」というものは一切、入る余地はなかったでしょう。最高のゴルファーが最高のゴルフでぶつかりあった、真の勝負だったんじゃないでしょうか。
私がガルシアを応援したのは、彼がメジャーに勝てずにいる間も自分のプレースタイルにこだわり通していたからです。ガルシアは「自分のプレースタイルで勝たないと意味がない」とばかり、小手先のショットを打つことはただの一度もありませんでした。
彼のビジネスはメジャーで優勝することではなく、本物のゴルフをすることなんですね。そのプレースタイルを貫いた結果、メジャー初タイトルがマスターズだった。だからこそ価値があると思います。
ガルシアのこのスタイルはゴルフに対する愛情と覚悟の表れで、だからこそツアーに参加する他の選手たちから尊敬されるのでしょう。さらにまったくの赤の他人である私にもその思いが伝わってくる。つくづくゴルフというスポーツのすごさ、一流選手のすごさ、そして一流の世界でもまだまだ突き詰めるものはあるのだなと感じました。自分自身も日々、悔いのない仕事をやり抜きたい。そう思えた全米ツアーだったと締め括って、まずはこのコラム、マスターズ編・完にて。
まだまだ続く「社長のつぶやき」、次回以降は全英のこと、自分の初ゴルフの思い出などもお話できたらと考えています。お楽しみに。
<野津基弘(のづ・もとひろ)プロフィール>
日本カバヤ・オハヨーホールディングス株式会社代表。1971年、岡山県出身。97年、オハヨー乳業に入社。現在、カバヤ食品、オハヨー乳業、ザ・ロイヤル ゴルフクラブなど複数のゴルフ場を経営する東京レジャー開発などグループ企業の社長を務める。「牛乳屋の倅」にして無類のゴルフ好き。クラブを握ったのは幼少期、地面に置いたボールをひっぱたくのが大好きだった。好きなゴルファーはローリー・マキロイ、フィル・ミケルソン、ジャスティン・ローズ、ルーク・ドナルド。ゴルフにおける座右の銘は「飛距離と正確性は比例する」。ゴルフの他、映画鑑賞、読書、ウィスキーも嗜む。得意なクラブはサンドウェッジ。