どの競技であれ、キャプテンに指名される選手は日本においてはベテランか実績のある者と相場は決まっている。新人のキャプテンは珍しい。

 

 

 ラグビー・トップリーグに所属するトヨタ自動車のキャプテン姫野和樹は今年4月、帝京大から入団するなり大役を命じられた。

 

「よく日本ではヒメノというルーキーが“なぜいきなりキャプテンになるのか?”と聞かれます」

 

 こう前置きして監督のジェイク・ホワイトは語った。

「ヒメノは大学の4年間全てで優勝した経験がある。しかも彼は日本代表になる資質を備えており、いずれ突出したプレーヤーになるでしょう。体を張ることで勝ちたい気持ちを態度で示すことのできる人間です」

 

 ホワイトは2007年W杯フランス大会で南アフリカ代表を優勝に導いた名将で、04年と07年にはIRB(現ワールドラグビー)の年間最優秀コーチ賞を受賞している。世界的に名の知られた指導者にここまで褒められれば姫野も悪い気はしないだろう。

 

 キャプテン就任当初、こう語っていた。

「キャプテンという立場で成長してほしいとの期待を込めて任命していただきました」

 

 アジアで初めてとなるラグビーW杯日本大会開幕まで、あと2年を切った。日本代表ヘッドコーチのジェイミー・ジョセフは日本大会での目標を「8強以上」に置いている。

 

 強豪との対決は、レベルアップを図る上で欠かせない。11月にジャパンはW杯で2度の優勝を誇るオーストラリア代表とテストマッチを行った。

 

 結果は30対63。ダブルスコアの完敗だったが収穫もあった。そのひとつがLO姫野の奮闘だ。

 

 ボールを持てば積極的に突進を繰り返した。試合終了間際には、ゴール前で一度相手に体を当て、ターンしてマークを振り切ってからインゴールへ飛び込んだ。初キャップで初トライを記録した。

 

「本当にがむしゃらに自分のやれることをやり続けようと思っていました。ボールキャリー(ボールを持って前進すること)を80分間継続できた。その積み重ねがトライのシーンに繋がったのかなと思います」

 

 ジョセフの評価も上々だ。

「彼は非常にハードワークしてくれた。生粋のLOではないんですが、強いボールキャリーであり、ワークレート(仕事量)も高い。我々がLOに求める仕事をカバーできていた」

 

 トヨタでは主にFLでプレーしている。大学時代はLO、高校時代はナンバー8だった。

 

 どんな選手なのか。帝京大の1年先輩で、現在はパナソニックでプレーする日本代表HOの坂手淳史は言う。

 

「FLもLOもできるのですが、機動力があって体も大きく、パワフルです。日本にはなかなかいないタイプ。オーストラリア相手にも物怖じせずにどんどんボールキャリーをしていました。すごく良かったと思います」

 

 伸び盛りの23歳。競輪選手だった父親譲りのタフネスと突進力で世界と切り結ぶ。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2017年12月12日号に掲載されたものです>

 


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