南北融和の象徴と言えば聞こえはいいが、政治利用の産物として誕生した平昌冬季五輪アイスホッケー女子の南北合同チームは予想通り全敗で全日程を終えた。


 予選ラウンドではスイスとスウェーデンにいずれも0対8と大敗。日本にも1対4と完敗を喫したが、「五輪史上初めてのゴール」(中央日報)を記録し、かろうじて合同チームの面目を保った。


 歴史的なゴールをあげたのは米国人の父親と韓国人の母親を持つランディ・ヒス・グリフィンという29歳のFWだった。朝鮮日報日本語版(2月14日付)によると<15年に大韓アイスホッケー協会のオファーを受けて招待選手として同年8月に韓国チームに合流>し、以来、主力選手として活躍していたようだ。


 南北合同チームについて、北朝鮮の張雄IOC委員は記者団に「満足している」と語っていた。米国人を父親に持つ選手の歴史的ゴールを、北朝鮮のメディアはどう報じたのだろう。それとも無視を決め込んだのか。パラリンピック後には、それまで延期していた米韓合同軍事演習が再開される見通し。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、ではないが米国憎しのあまり、米国人の血を引く選手までをも袈裟扱いしかねないのが、これまでの北朝鮮の態度である。


 彼の国が描く最良のシナリオは日本相手に北朝鮮の選手がゴールを決め、可能性としては低いものの、合同チームの勝利に貢献することだったはずだ。それが、よもやグリフィンなどという名前からして「敵性外国人」的な選手がゴールを決め、注目を浴びるとは…。ことほどさようにスポーツは為政者の意のままにはならないものである。独裁者の歯ぎしりが聞こえてきそうなゴールだった。


 合同チームの応援には案の定、美女軍団が現れた。そこに登場したのが金正恩委員長のそっくりさんである。ハワードXという芸名のミュージシャンらしいが、警備の厳しい会場に、あの格好ですんなり入れるものなのか。仮に入れたとしても賓客の彼女たちに簡単に近付けるものなのか。穿った見方をすれば韓国政府は彼女たちの反応を見たかったのではないか。


 美女の中にクスッと笑った者がいた。あれは最高権力者への「不敬罪」にあたらないか。北朝鮮は監視国家だ。縁もゆかりもない人たちだが、帰国後が少々、心配である。

 

<この原稿は18年2月21日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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