小国とは言っても面積は10万3千平方キロメートルある。これは韓国とほぼ同規模だ。アイスランドの小国たる所以は35万人程度の人口だ。東京都北区の人口が、ほぼそれに相当する。

 

 北極圏に近い北大西洋に浮かぶ火山島に住む人々の暮らしぶりを昔、ドキュメンタリー番組で見たことがある。6月から7月にかけては、2、3時間しか日が沈まない。まさに今の季節だ。そう、このチームは、“沈まぬ太陽”なのだ。

 

 74回目の独立記念日を翌日に控えた16日、リオネル・メッシ擁するアルゼンチンに気後れすることなく立ち向かい、勝ち点1をもぎ取った。

 

 まるで“滅私奉公”よろしく、全てのボールをせっせと10番に貢ぎ、手詰まりになってもギリシャ神話に出てくるシシュフォスのように、ひたすらその作業を繰り返すアルゼンチンの選手たちに対し、アイスランドの選手たちひとりひとりには強固な意志と独立した自我が感じられた。

 

 余計なお世話かもしれないが、アルゼンチンは守備を免除された“不動の10番”を囮に使ったらどうか。この先、そうした局面もあっていいはずだ。

 

 ボールポゼッションはアルゼンチン72%に対し、アイスランド28%。ボクサーにたとえるなら、ロープを背負い、どれだけ連打を浴びても、ひるみも屈しもしない。そしてガードは固く、決定打を許さない。

 

 もちろん、ただ一方的に殴られていたわけではない。各自、懐の奥深くには磨き抜いたアイスピックを一本忍ばせている。すきあらば、それでひと刺しだ。

 

 先制された4分後の同点ゴールには戦慄を覚えた。あれはバイキングの末裔たちによる狩りである。周到な仕掛けと怜悧な仕留め。さながら、そのゴールは謝肉祭に捧げる獲物のようにも感じられた。

 

 この日出場したアイスランドの選手たちは、値千金の同点ゴールを決めたFWアルフレッド・フィンボガソン、メッシのPKを止めた映像ディレクターのGKハネス・ハルドルソンはじめ、全員の名前に「ソン」がついていた。つまりフィンボガソンの父親の名前はフィンボガ、ハルドルソンはハルドルというわけだ。

 

 こうなると遺伝子レベルで戦いを挑んでいるふうにも見える。チームというよりも一族。愛称は「ストラッカニ・オッカル」。誇り高き“オレたちの息子たち”である。

 

<この原稿は18年6月20日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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