2日、JA全農世界卓球団体選手権東京大会5日目が行われ、チャンピオンシップ・ディビジョンの決勝トーナメントが開幕した。グループリーグを1位突破した男子日本代表(ITTF世界ランキング3位)は、1回戦を勝ち上がったポルトガル(同6位)と対戦。1番手の丹羽孝希(明治大)がストレートで先勝すると、続く水谷隼(DIOジャパン)もストレート勝ちを収める。最後は松平健太(ホリプロ)が3−1で締めて、3対0で勝利した。3位決定戦がないため日本の表彰台が確定。4大会連続でメダル獲得となった。日本は4日にドイツ代表(同2位)とシンガポール代表(同13位)の勝者と決勝進出をかけて戦う。一方の女子は決勝トーナメント1回戦4試合が行われ、オランダ代表(同8位)が台湾代表(同7位)を下し、明日3日の準々決勝で日本代表(同3位)と対戦することが決まった。
(写真:勝利が決まり雄叫びを上げる丹羽 (c)RG/ITTF)
◇チャンピオンシップ・ディビジョン
・男子準々決勝
日本 3−0 ポルトガル
(丹羽3−0フレイタス、水谷3−0アポロ―ニャ、松平3−1モンテイロ)

 苦しんだグループリーグとは打って変わって、快勝でメダルを確定させた。
 大方の予想通り、この日の朝行われた決勝トーナメント1回戦を勝ち上がってきたのはポルトガル。準々決勝はグループリーグのリマッチとなった。3対1で勝ったグループリーグと同じ丹羽、水谷、松平の3人でマルコス・フレイタス、ティアゴ・アポローニャ、ジョアン・モンテイロというポルトガルの三銃士を迎え討った。

 トップバッターを任されたのはチーム最年少19歳の丹羽だ。プレッシャーは「全然感じなかった」という。むしろ「1番でやれる喜びがありました」と、起用を意気に感じていた。ポルトガルの1番手フレイタスは世界ランキングは12位と、16位の丹羽にとっては格上だが、グループリーグの対戦ではフルゲームの接戦で勝っている。丹羽は自らの役割の大きさを理解していた。「僕が勝ったらチームが絶対勝てると思った」。斬り込み隊長として、流れを持ってくることだ。

 丹羽は前回は苦戦した相手の横回転サーブをマークしていた。しかしフレイタスは丹羽の宝刀“チキータ”(バックハンドの横回転系のレシーブ)を警戒しサーブを変えてきた。「やりづらかった」とその対応にも少し苦められた。それでも得意のカウンターや前陣速攻が決まり試合をリードする。第1ゲームは11−7、第2ゲームは11−5で連取した。「出だしの1、2ゲームで離せたのがすごく大きかった」と勢いに乗った。

 ただ第3ゲームの序盤、簡単に4−0とリードを奪うと「プレーが雑になった」と丹羽。連続得点を許し、競った展開になった。そこから消極的にならず、テンポの速い攻撃を仕掛けた。フレイタスの2度のゲームポイントを凌いで、最後は3連続得点で16−14。最後は相手のボールがアウトになった瞬間、丹羽は吠えた。普段はクールな彼だが珍しく大きくガッツポーズ。「メダルを決めたような気持ちだった」と、感情が高ぶった。格上相手に快勝。3−0のストレート勝ちで願ってもないスタートを切り、エースの水谷へとつないだ。トップバッターで起用した倉嶋洋介監督も「この大一番のトップでああいう仕事するのは流石だな」と舌を巻いた。
(写真:ここまで無敗をキープしている丹羽 (c)RG/ITTF)

 2番手は、ここまで全戦無敗の水谷。青森山田中学・高校、そして明治大学と自らと同じ経歴を辿っている後輩から最高のバトンを受け取った。「前回は勝っているとはいえほぼ負け試合。今日は素晴らしいプレーをしてくれて、流れと勢いを引き寄せてくれた」と丹羽を称えた。もちろん5歳下の後輩の活躍をエースが意気に感じないわけがない。そして何よりも自らの使命を熟知している。

「地元日本でメダルを逃すわけにはいかない」と水谷は重圧を力に変えた。ケガの影響を感じさせない躍動感溢れるプレー。ほぼ何もできないアポロ―ニャは明らかに苛立っていた。相手をあざ笑うかのように水谷のショットは冴え、11−4、11−6と連取した。

 第3ゲームは1−1から8連続ポイントを奪われ、このゲームは失うかと思われた。だが、強打で相手のラケットを弾いて、まず1点を返す。アポロ―ニャに連打され、劣勢となるが何度も打球を拾った。耐え続ける水谷にしびれを切らすように最後はアポロ―ニャが台にヒジをぶつけ、打ち切れなかった。アポロ―ニャの治療を挟むと完全に流れは水谷のモノになっていた。以降も得点を続け、結局10連続得点で逆転し、このゲームを11−9で取った。悔しさのあまりアポロ―ニャが試合後にボールを蹴り上げた。水谷もストレート勝ち。2対0とリードして次へと託した。

 そして3番手は松平だ。対するモンテイロにはグループリーグで負けていた。全5ゲームすべてが競った展開で、どちらに転んでもおかしくないものだった。そういったこともあって、前日のミーティングで倉嶋監督は松平を呼び出し、戦う意思を確認。当然、松平は「僕自身はリベンジの気持ちがすごく強かった」と燃えていた。ここまで調子のなかなか上がらない松平に代えて、塩野真人(東京アート)という選択肢もないわけではなかった。それでも監督は自らを指名した。松平がキーマンであることを証明するものでもあり、松平もそれを意気に感じないわけがない。

 試合はモンテイロの打球をブロックしながら流れを作った。台から離れず、相手の打球に反応するブロック。この松平の戦術は守備的なものだが、自身は攻撃の意識で用いている。鋭い返球を両サイドに散らしながら相手を揺さぶった。10−7でゲームポイントを奪うと、最後はモンテイロがサーブミス。幸先よく先制した。

 第2ゲームは失ったものの、9−11と決して悪い内容ではなかった。ただ、ここでズルズルいってしまうと前回のように試合がもつれる可能性がある。ランキングで言えば17位の松平に対し、モンテイロは56位だが楽な相手ではない。前回は競り負けたモンテイロ。同じ失敗は繰り返さない。レフティーの強打にも苦しめられ、9−10と先にゲームポイントを奪われた。このままゲームを失うと流れは完全に相手のモノになる。松平は踏ん張った。カウンターのバックハンドで台の隅を突くショットを見せるなど、4連続得点。12−10と逆転で第3ゲームを取った。
(写真:倉嶋監督<左奥>の期待に応えた松平<左手前> (c)RG/ITTF)

 そして迎えた第4ゲームは「向こうが焦っていると感じた。気持ちは楽になりました」と得意のサーブもうまく生かせた。序盤は5−1とリードし優位な展開で運んだ。その後もフォア、バックと安定したショットで相手を翻弄し、11−7で制した。3−1で見事グループリーグのリベンジを果たした。勝利が決まると真っ先に倉嶋監督と抱き合った。グループリーグで4度、3番手を任され2勝2敗。「今まで迷惑をかけていた」と責任を感じていたのも事実だった。「この1勝は僕の中で大きい」。日本にとっては4大会連続のメダル確定とともに、松平の復調の兆しが見える価値のある勝利だった。

 1日空けて行われる4日の準決勝、その相手はシンガポールの可能性もあるが、世界ランキング2位のドイツが有力と見られている。前回のドルトムント大会では準決勝で敗れているだけに敵地でのリベンジを今度はホームで果たしたいところだ。ティモ・ボル、ディミトリー・オフチャロフのダブルエースは強力だが、日本の三本柱が確立されれば太刀打ちは十分に可能である。「日本の新しい扉を開ける」と倉嶋監督は力強く語った。37年ぶりのファイナルへあとひとつ。ここで立ち止まるつもりは毛頭ない。

(文/杉浦泰介)