3日、JA全農世界卓球団体選手権東京大会6日目が行われ、チャンピオンシップ・ディビジョンの女子準々決勝で日本代表(ITTF世界ランキング3位)とオランダ代表(同8位)が対戦した。日本はトップバッターの平野早矢香(ミキハウス)がストレート勝ちで先勝するが、2番手の石川佳純(全農)が41歳の大ベテランのリー・ジャオに敗れ、今大会初めて1勝を許した。石垣優香(日本生命)がカットマン対決を制し、再びリードを奪う。しかし今度は平野がリー・ジャオに屈し、タイに。最後は石川がフルゲームで取り、勝負を決めた。3位決定戦がないため、日本は2大会ぶりのメダル獲得が確定した。日本は明日4日に香港代表(同4位)との準決勝に臨む。一方、男子は準々決勝2試合が行われ、ドイツ代表(同2位)がシンガポール代表(同13位)を3対0で完勝。これにより4日に日本代表(同3位)と決勝進出をかけて対戦するのはドイツとなった。
(写真:今大会初黒星を喫したが、第5戦では勝利した石川 (c)RG/ITTF)
◇チャンピオンシップ・ディビジョン
・女子準々決勝
日本 3−2 オランダ
(平野3−0エーラント、石川2−3リー・ジャオ、石垣3−1リー・ジエ、平野2−3リー・ジャオ、石川3−2エーラント)

 試合終了直後の石川の涙が全てを物語っていた。4時間以上の熱戦を制し、準決勝へとコマを進めた。グループリーグは全5戦で3対0と最高のスタートを切った。1日の休養日を経て迎えたオランダとの準々決勝は苦しい戦いとなった。

 グループA3位のオランダは決勝トーナメント1回戦で日本と同組だった台湾を破って勝ち上がってきた。日本は平野、石川、石垣の順でオーダーを組んだ。しかし、その陣容は読まれていた。オランダは1番手にここまで今大会6戦全勝と好調のブリット・エーラントを据え、2番手には41歳の大ベテランでエースのリー・ジャオ。そしてリー・ジエを3番手で起用し、石垣にぶつけてきた。日本の村上恭和監督は「リー・ジエは一番強いぐらい。本当の一か八か、まさかこの大会でそれをやられるかなと。オーダーでは完全に負けました」と裏をかかれたかたちとなった。

 先陣を切った平野は「予想が外れたのであまりイメージを持っていなかった。今回も調子が良くて色々な選手に勝っていたので、私にとってはやりにくいと正直思った」とエーラントを迎えた。並の選手であれば、その動揺をコートに持ち出していただろう。だが平野は「自分のプレーをする」と気持ちをすぐに切り替えた。その言葉通りに落ち着いて相手の球に対応し、9歳下のオランダ人を料理した。11−7、11−8で2ゲーム連取。第3ゲームは落としたものの、第4ゲームは11−5で簡単に片を付けた。「ほぼ自分では納得のいくプレーだった」と自賛する内容で、まず先手を取った。

 想定外の相手だった平野と違い「リー・ジャオと当たる予定で準備してきた」という石川。相手は世界ランキング13位の強豪で、2番手は両国のエース対決となった。1ゲームずつ取り合って迎えた第3ゲームは、リー・ジャオのサーブにも苦しめられ9−11で失う。リー・ジャオはロンドン五輪の女子シングルスでベスト8に入った実力をいかんなく発揮してきた。とはいえ石川は同五輪でベスト4。さらに団体では銀メダル獲得に貢献した。年齢は倍近く離れていても実績では上回っている。それを証明するかのように得意のフォアからの強打がリー・ジャオを襲う。11−7で、第4ゲームを奪い返した。これで2−2のタイスコアとなり、勝負は第5ゲームへ。

 石川は10−8と先にマッチポイントを手にしながら勝ちを意識するあまりミスを連発する。最後はリー・ジャオにフォアハンドで叩き込まれ、10−12で終了。これが今大会初めて喫した黒星だった。それがエースの石川であるという事実が、チームに暗い影を落としかねなかった。村上監督も最悪のシナリオが頭をかすめたという。

 その悪いムードを払拭したのがカットマンの石垣だった。世界ランキング50位のリー・ジエは石垣と同じ戦型。カットマン対決はお互い牽制し合うような長いラリーで幕を開けた。1ゲームで10分以上の時間を経過すると、適用される促進ルールというものが存在する。主にカットマン同士の対決で用いられ、サーブの本数やレシーブの数に制限が設けられる。石垣には過去のリー・ジエとの対戦で、促進ルールに持って行って負けた記憶が残っていた。序盤はそれを避けるために速いタイミングで攻撃を仕掛けた。だが石垣の打球は入らず、相手にリードを許した。そこで促進ルール適用に作戦を切り替えた。
(写真:決勝Tに入り、更に存在感が際立っている石垣 (c)RG/ITTF)

 それが功を奏した。ゲームカウント3−7から1点差まで追い上げた。結局、このゲームは8−11でリー・ジエに奪われたが、流れは石垣に傾いていた。相手の打球の変化を見極めて、攻める時は攻め、耐える時は耐え、冷静に返球を判断した。逆にリー・ジエは焦っているように見えた。攻め急ぎ、ネットやアウトを重ねた。11−6、11−8と石垣が連取し、逆転した。「1球1球に魂を込められた」と気持ちの入った試合は第4ゲームを11−9で制し、勝ち取った。その瞬間、両手を握りしめ、喜びに浸った。「あんなガッツポーズをしたのは初めて」と石垣。「石垣が本当頑張った」と指揮官が頭を下げる活躍ぶりで、日本に再びリードをもたらした。

 続いて平野がリー・ジャオに挑んだが、フルゲームの末敗れた。平野も初黒星を献上。メダルの行方はエースの石川に託された。対するエーラントは20歳の新鋭。世界ランキングは100位に過ぎないが、「5番の選手は相手が強い弱いは関係なくプレッシャーがかかる」と平野が語るように全てが決まる最後の選手の重圧は計り知れない。ましてや石川は2年前のドルトムント大会の準々決勝では、5番で韓国に敗れている。

 エースの真価が問われる場面だった。ひりつく様なプレッシャーの中、「気合いを入れようと思った」とチームメイトのヘアピンを付け、前髪を上げた。第1ゲーム、第2ゲームともに11−7で連取した。しかしリードを奪ったことで勝利を意識したのか、「守りに入ってしまった」と相手の攻撃を受けてしまう。8−11、9−11と連取される。ジリジリと迫られ、追い込まれていく。第5ゲームも0−3と悪い流れに。ここでタイムアウトを取り一呼吸置いた。「作戦なんか言っていない」という村上監督は“開き直って、自分のプレーをしよう”と石川を送り出した。

「“負けたらどうしよう”という思いが頭の中にあったのですが、それを全部捨てて自分のやれることをやろうと。チームのみんながくれた5番目なので」。エースは全てを背負う覚悟でコートへと戻った。徐々に点差をつめ、追いついた。その後ゲームカウント6−6となってから、一気に5連続得点で試合を決めた。それは2大会ぶりのメダルが確定した瞬間でもあった。石川は2年前のリベンジを果たしたかたちとなった。勝利が決まった瞬間は、安堵の思いから瞳からは涙がこぼれた。
(写真:盛り上がる日本ベンチ。団結力も強みのひとつ (c)RG/ITTF)

 次は世界ランキング4位の香港との準決勝。昨年の東アジア競技大会では石川が2勝し、勝利を収めている。容易い相手では当然ないが、村上監督は「決勝まで行かないと恥ずかしいと思っています」と言い切った。厳しい戦いを制したことで、またひとつチームがまとまったように映る。メダル獲得を決め、最低限のノルマは果たしたと言えよう。あとはその輝きを何色で彩るか。明日4日、まずは同じく勝ち進んでいる男子とともに決勝進出を狙う。

(文/杉浦泰介)