5日、JA全農世界卓球団体選手権東京大会最終日が行われ、チャンピオンシップ・ディビジョンの女子決勝で日本代表(ITTF世界ランキング3位)と中国代表(同1位)が対戦した。日本は前回女王の中国に対し、準決勝と同じ石垣優香(日本生命)、石川佳純(全農)、平野早矢香(ミキハウス)の布陣で臨み、0対3で敗れた。中国は連覇を達成。日本は31年ぶりに銀メダルを獲得した。一方の男子決勝はマ・ロン、チャン・ジカ、シュ・シンと世界ランキング1位経験者をズラリと並べた中国代表(ITTF世界ランキング1位)が、ドイツ代表(同2位)を3対1で下した。これで中国は2001年大阪大会から続く、連覇を7に伸ばした。大会MVPには8戦無敗のマ・ロンが選ばれた。次回の世界選手権は、来年開催。中国・蘇州で個人戦が行われる。
(写真:完全優勝した中国女子代表メンバー (c)RG/ITTF)
◇チャンピオンシップ・ディビジョン
・女子決勝
日本 0−3 中国
(石垣1−3ディン・ニン、石川0−3リ・シャオシア、平野0−3リウ・シウェン)

 力の差は歴然だった。43年ぶりの世界一を目指した日本。カットマンの石垣も、エースの石川も、経験豊富な平野も歯が立たなかった。それだけ中国に圧倒的な強さを見せつけられた。中国は今大会1試合も落とさないオール3対0での完全優勝。2大会連続19度目の覇権を手にした。

 この日もトップバッターを飾ったのは石垣だ。準決勝で初黒星を喫したものの、今大会は活躍が目立つ。対戦相手のディン・ニンは11年世界卓球ロッテルダム大会の金メダリスト。翌年のロンドン五輪ではシングルスで銀メダルを獲得している。現在は世界ランキング2位で、まさにトップ中のトップの選手だ。

 序盤はディン・ニンのパワフルなショットに押された。石垣はカットで必死に打球を拾うも、5−11で取られた。続く第2ゲームはホームの大歓声を背に押し返す。カットで拾いミスを誘う。機を見て、自らも前に出て攻撃を仕掛けた。このゲームはそれがうまくはまり、11−8で奪い返した。だが第3ゲーム以降はディン・ニンのペースに逆戻り。2−11、5−11と連続してゲームを失うと1−3で敗れた。快進撃の立役者は、勝負がついた直後、肩を落とし地面をしばらく見つめていた。石垣はディン・ニン相手にアップセットを演じることはできなかった。

 続く2番手・石川の相手はリ・シャオシア。2年前のロンドン五輪&昨年の世界卓球パリ大会の金メダリストである。2人はロンドン五輪の準決勝で対戦しており、石川が1−4で敗れている。世界ランキング9位の石川に対し、リ・シャオシアは3位。石川は今大会初めて自らよりもランキング上位の選手が相手となった。挑戦者の姿勢で世界女王に立ち向かっていった。

 石川は大会前、海外ツアーに転戦せず、国内で己を磨いた。男子代表の合宿に参加し、パワーアップを図った。中国選手の強打に慣れるため、男子選手を相手に胸を突き合わせたりもした。その効果が表れていたと言っていいだろう。リ・シャオシアとのテンポの速いラリーにもしっかりと反応できていた。第1ゲームは3点許した後、一気に7連続得点を叩き出した。この勢いに乗り、勝機を見出したかったが、リ・シャオシアの反撃に遭う。今度はリ・シャオシアが7連続得点。ゲームポイント先に取られると、結局8−11で落とした。

 第2ゲームでは石川が2点を先制したが、主導権を握ったのはリ・シャオシアだ。174センチの長身から繰り出される両サイドの強打に徐々に追い詰められる。石川も得意のフォアに限らずバックでも返すが、その圧力に屈し、7−11で再びゲームを奪われる。第3ゲームもホームの声援を背に受け、挑んでいった。だが同じく7−11でストレート負け。結局、1ゲームも奪えなかったが、世界女王相手に一歩も引かなかった。敗れはしたものの「自分の持っている力は出せた。ロンドン五輪よりはいい試合はできたと思う」と成長も実感している。
(写真:肩を落とす石川。世界女王の壁は厚かった (c)RG/ITTF)

 エースで星を落とし、絶体絶命となった日本。3番手は準決勝で劇的な大逆転勝ちを収めた平野の出番だ。しかし、現世界ランキング1位のリウ・シウェンは奇跡の再現の期待を微塵にも抱かせなかった。4−11、2−11、5−11と、リウ・シウェンの3分の1しか得点を奪えなかった。「やはりレベルが高かった」と、ほぼノーチャンスに近かった。日本は中国相手に0対3と、誰一人として土をつけることはかなわなかった。

 日本が弱かったというよりは中国が強過ぎた感がある。今大会の5人は世界ランキング上位5人がそのまま入った。ディン・ニンは「5人全員が個々の力をいかし、団結して勝った」と勝因を挙げたように個々の能力はずば抜けて高かった。リ・シャオシアは「プレッシャーであまり眠れなかった」と頂点に立つ者の苦悩を打ち明けたが、勝たなければならないという重圧を背負っても、スキはほとんど見当たらなかった。

 中国に完敗したとはいえ、31年ぶりの銀メダル。その輝きが色褪せることはない。今大会はケガで福原愛(ANA)を欠いていた。近年の日本代表の屋台骨を支えた選手。福原がいないとれば、将棋で例えるならば飛車角のどちらかを抜いた状態で差しているようなものだ。世界ランキングは3位でも村上恭和監督の「実質6、7位」という見立てで考えれば、準優勝は十分に健闘したと言えるだろう。ホームという地の利もあったが、何よりもチームの雰囲気が良かった。石川が「チームワークがあって乗り越えることができた」と語れば、平野はスタッフや裏方を含めたチームのおかげだと言い、「1人でも欠けたらメダルはなかった」と強調した。石垣も「1人1人の思いが詰まった銀メダル」と、その結晶を喜んだ。

 今大会は田代早紀(日本生命)、森さくら(昇陽高)の初出場コンビは大舞台を経験し2勝をあげた。カットマン石垣の活躍、エース石川の成長、ベテラン平野の復調の兆しなど、明るい話題が多かった。まだまだ中国の背中は遠いが、その差を肌で感じることができたのも大きいはずだ。まず個々のレベルアップが絶対条件である。中国・蘇州で開催される来年の世界卓球個人戦。どこまで世界との差を縮められるか。五輪を前に真価が問われる大会となる。

・男子決勝
中国 3−1 ドイツ
(マ・ロン3−0ボル、チャン・ジィカ0−3オフチャロフ、シュ・シン3−0フランツィスカ、マ・ロン3−0オフチャロフ)

 3大会連続同カードとなった男子決勝は、優勝国も同じだった。頂上決戦は中国がドイツを1対3で退けてV7を達成した。マ・ロン、チャン・ジィカ、シュ・シンで固めた布陣は最強と言っていいだろう。ベンチに入ったワン・ハオ、ファン・ジェンドンも他国なら十分にエースを張れる選手である。第1戦はマ・ロンがティモ・ボルをストレートで下し、幸先良いスタートを切った。第2戦こそ世界チャンピオンのチャン・ジィカがディミトリー・オフチャロフに敗れたものの、現世界ランキング1位のシュ・シンがストレート勝ちし王手をかける。最後はマ・ロンがオフチャロフもストレートで片をつけた。チームランキングの1位中国と2位ドイツの対決は、中国が2位ですら圧倒したかたちとなった。
(写真:MVPに輝いたマ・ロンは7戦全勝1ゲームも相手に許さなかった (c)RG/ITTF)

(文/杉浦泰介)