「石橋、ちょっと投げてみろ」
 高校2年の夏、高知県予選を前にしたある日のことだ。その日は雨が降っていたため、雨天練習場で練習をしていた。すると、馬淵史郎監督が石橋良太を呼び寄せた。石橋にはなぜ呼ばれたのか、監督が何を考えているのか、わかっていた。当時、チームは投手のコマ不足という事情を抱えていた。そこで投手経験のある石橋をテストしようとしていたのだ。
「できてもうたら、どないしよう……」
 石橋としては野手に専念したいという気持ちが強かった。だが、結果は「合格」。石橋はそのままの流れで、新チームではエースとなった。これをきっかけに、石橋はその後、“野手”から“投手”への道を進むことになるのであった。
 その年の秋、県大会準優勝、四国大会ベスト8に終わった明徳義塾は、オフの間、選手たちには厳しいトレーニングが課された。その成果は翌春に表れ、県、四国を制覇。無論、夏の県予選優勝候補の筆頭に挙げられた。果たして、明徳義塾は順当に勝ち上がり、決勝に進出した。相手は高知高校。春の大会では決勝で7−1で快勝していた。

 3回表、明徳義塾は石橋のタイムリーで先制した。ところがその裏、石橋は1死一、三塁で痛恨の暴投。勝負にいったスライダーがワンバウンドとなり、捕手が後逸したところを三塁ランナーが同点のホームを踏んだ。試合は振り出しに戻った。

 勝負の行方を左右するプレーが出たのは5回表だった。明徳義塾は2死二塁の場面、四球を選んだ石橋が、一塁へと走ろうとしたその瞬間だった。
「アウト!」
 石橋が驚いて二塁方向へ視線を向けると、審判が右手を上げていた。二塁ランナーがボールから目を離し、ゆっくりと歩いて帰塁しているのを見た捕手が牽制球を送ったのだ。ランナーはタッチアウトとなり、そのイニングの明徳義塾の攻撃は終わった。その裏、石橋は連打を浴び、2失点。8回表に自らのタイムリーで1点を返したものの、結局明徳義塾はわずか1点差に泣いた。

 最後の打者が見逃し三振に終わり、石橋の高校野球に幕が引かれた。
「もちろん、甲子園には行きたかったですよ。でも、仕方ないかなと。とにかくキャプテンとして、チームをまとめるのは本当に難しかった。辛かったこともありました。だから、試合終了後は悔しさというよりは、やり切ったという達成感の方が強かったですね」

 有終の美、そしてプロへ――

 高校卒業後の進路は既に決定していた。東都大学リーグ2部に所属する拓殖大学。馬淵監督の母校であり、明徳義塾OBも多い。当時、本人は野手に戻っての再出発を考えていた。だが、チーム事情もあり、1年時は投手と内野手を兼務していたという。今話題の“二刀流”である。

 だが、本職として考えていたはずの野手としては打率1割台という成績に終わった。一方、投手としてはロングリリーバーとしてチームの戦力となり、秋には4勝(3敗)を挙げ、リーグトップの防御率1.57という好成績を残した。監督との話し合いの結果、石橋は翌年から投手に専念する道を選択した。

 3年間の通算成績は44試合に投げて12勝14敗、防御率2.22。3年連続で秋は最優秀防御率をマークしている。安定したピッチングにプロのスカウトも注目し、今秋のドラフト指名候補にも名を連ねている。だが、石橋本人は「まだ一度も納得したシーズンを送ることができていない」と語る。

 今春、拓殖大学は3週を残して早々と優勝を決めた。6月には専修大学との1部入れ替え戦に臨む。だが、ベンチ入りのメンバーに石橋の名前はない。実は現在、石橋はリハビリ中。リーグ戦開幕直前の練習で、右肩を痛めたのだ。順調に回復してきているものの、焦りは禁物。春は投げたい気持ちを抑え、最後の秋に全てをかけるつもりだ。

 来月の入れ替え戦でチームが勝てば、秋には同校初の1部での戦いが待っている。有終の美を飾るには、これ以上ない最高の舞台だ。
「秋には絶対にチームに貢献したいと思っています」
 4カ月後の9月、神宮球場マウンドで躍動する石橋の姿が見られることを心待ちにしたい。

(おわり)

石橋良太(いしばし・りょうた)
1991年6月6日、大阪府生まれ。小学1年から野球を始め、長曽根ストロングスでは小学5、6年時に全国大会で優勝。中学時代は浜寺ボーイズで2、3年時に全国大会に出場した。明徳義塾高校では1年秋からレギュラーを獲得し、「1番・セカンド」で県、四国大会で優勝および明治神宮大会ベスト4進出に貢献した。翌春には選抜高校野球大会に出場し、2回戦の中京大中京戦では先制打およびサヨナラ打を放つ活躍をした。2年秋からは主将およびエースとなり、チームを牽引。翌春は四国大会で優勝するも、夏は県大会決勝で高知高に1点差で敗れた。10年、東都リーグ2部の拓殖大学に進学し、1年秋からは投手に専念する。2年秋に優勝するも、入れ替え戦で中央大に敗れた。主にロングリリーバーとして活躍し、1年秋(1.57)、2年秋(0.74)、3年秋(0.70)と3度、最優秀防御率をマークしている。通算成績は44試合に登板し、12勝14敗、防御率2.22。身長172センチ、68キロ。右投左打。

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(斎藤寿子)
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