シーズンを振り返ったとき、あの試合を勝っておけば……ということになるのだろうか。

 9月9日の横浜DeNA戦は、カープ先発の野村祐輔が8回2失点。この日は、夏場の不調を払拭する好投であった。

 1-2と1点リードを許して迎えた8回裏、1死から天谷宗一郎が内野安打で出塁し、続く菊池涼介はセーフティ気味の送りバント。2死二塁から、梵英心、ブラッド・エルドレッドの連続タイムリー二塁打で3-2と逆転。

 さらに代打前田智徳で球場は思いきり盛り上がったが(敬遠)、続く堂林翔太は三振。しかし、8回裏で3-2と逆転して、マツダスタジアムは完全に勝ちムード。2ケタ10勝目が見えた野村も、つい表情がほころぶ。

 9回表、カープの投手はキャム・ミコライオ。先頭・荒波翔がセンター前ヒット。内村賢介が送って1死二塁で打席に中村紀洋。ミコライオは中村を簡単に追い込んでカウント0-2。3球目は、ややはずし気味だったのか、外角高めにボールとなるストレート。

 ところが――。ここで二塁走者・荒波がスタート。ゆうゆうセーフで三盗成功!

 横浜もド派手なギャンブルに出たものだ。もし盗塁失敗なら、あっという間に2死無走者になる。下手すりゃ三振ゲッツーでゲームセット。このプレーが、ほぼカープの勝ちを、そして野村の10勝目を消したといっていい。

 続く4球目、ミコライオは外角に沈むストレート系(チェンジアップ)。中村、これを思いきり叩くと、ボテボテのセカンドゴロ。

 セカンド菊池、勢いよくチャージし、ショートバウンドを処理して、バックホームかと思いきや、バウンドを合わせられずにエラー。ゴロゴーで、スタートを切っていた荒波が生還して、悪夢の同点劇となったのでした(試合は、3-3の引き分け)。

 このシーン、たしかに荒波は再度、すばらしいスタートを切っている。中村のゴロが詰まってボテボテになったところで、仮に菊池がグラブに収めて送球しても、セーフに変わりはなかったのかもしれない。むしろその前の時点、意表をつく三盗を許したバッテリーの問題かもしれない。

 しかし、菊池には、少なくともあの打球をグラブに収めて、バックホームまではしてほしかった。たしかに彼は自らのスピードを利して猛然とダッシュしてきたから、ハーフバウンド捕球は難しいだろう。それでも、あー残念、つっこんだけど捕れませんでした、というのは、あまりにも淡泊ではないだろうか。

 個人的には、今季、堂林と菊池を思いきり応援してきた。今でもそれに変わりはない。堂林のバッティング、菊池のスピードこそが、今後のカープの希望である。

 しかし、堂林は前回論じたように、8月19日の巨人戦で、直接敗因となるエラーを2つ連続でおかした。そして、今回の菊池。いずれも、たしかに難しいバウンドだったかもしれないが、球際に弱いというか、あと一歩でグラブに入れきれない。同じようなプレーがこう続くと、頑張ったけど、まあ仕方ないかというような、どこか、あっさりしたものをカープのゲーム全体から感じてしまう。

 初のCS進出をかけた戦いというプレッシャーはあるだろう。だけど、追い込まれた状況で、まぐれでも何でもいいから、すごいプレーをしてはじめて、若手は成長できるのではないだろうか。貧打でなかなか勝てない現状を打破するには、そういうプレーこそ必要なのだ。(8回裏の堂林の打席も、3-2とよく粘ったのだが、あそこで打って結果を出してこそ、これからの彼の成長につながる。少なくとも、最後の三振の球は、高めのボールではなかったか)。

 ともあれ、現時点でカープの目標は、3位となること以外にはない。いまの貧打の状況は、選手自らの力で打開するしかない。8.19も9.9も、あれが痛かった、というのではなく、そういうこともあったが、めでたく目標達成、と笑って思い出せるようになること祈る。

(このコーナーは二宮清純と交代で毎週木曜に更新します)


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