高校、大学、社会人の女子硬式野球チームが集う「全日本女子硬式野球選手権大会」が8月6日から10日までの5日間行われた。愛媛県松山市のマドンナスタジアム、坊っちゃんスタジアムを舞台に全国から参加した32チームが日本一を争った。優勝は侍ジャパン女子野球日本代表(マドンナジャパン)の大倉孝一監督率いる環太平洋大学(岡山)。創部3年目で初優勝を手にした。昨年準優勝の愛媛・マドンナ松山は2回戦敗退に終わった。

 

 

 第2回から松山で開催されている全日本女子硬式野球選手権。地元企業の伊予銀行が大会をスポンサードし、今では「女子野球の夏は松山」というイメージは根付いてきている。四国初の女子野球チームとして発足したマドンナ松山は、地元開催の第2回大会から毎年出場してきた。就任4年目の上田禎人監督(元西武)が指揮を執り、今年も悲願の日本一を目指した。

 

 だが蒔いた種は夏には花が咲くことはなかった。マドンナ松山は昨夏チーム史上最高の準優勝を収めたということもあって期待は大きかった。一方で1番と3番バッターを務めていた主力が抜けた穴をどう埋めるか。指揮官には大きなテーマを突きつけられていた。上田監督は若手の積極的に起用。1番は5番を務めていた柏崎喜美を据え、クリーンアップは新たに江嶋あかり、笹原瀬奈、松本知佳で組んだ。これまで正捕手だったキャプテンの笹原をライトに、若手の松本にキャッチャーを任せた。攻撃的な新オーダーで全日本女子硬式野球選手権に臨んだ。

 

 初戦となった備長RUSH(愛知)は快勝だった。初回から7得点を叩き出して大量リードを奪った。先発のエース坂本加奈は立ち上がりこそ2点を失うが、2回裏はゼロで抑えた。打線は3回表に笹原のタイムリーや松本の長打などで6点を加える。その裏のマウンドには上田監督が「使っておきたかった」と2番手の北野縁を送った。大会前から調子が良かった北野はベンチの期待に応えて、試合を締めた。マドンナ松山は1回戦をコールド勝ちで突破した。

 

 順調なスタートを切ったマドンナ松山。中1日で迎えた2回戦は日本大学国際関係学部(静岡)と対戦した。1回戦はボールが上ずってコントロールを多少乱した坂本だったが、この日はエースのピッチングを披露した。打線も柏崎のタイムリーで2回表に幸先よく先制。だが後が続かなかった。

 

 すると4回裏に3点を失って逆転を許してしまう。坂本が崩れたというよりも、守備のミスが目についた。スクイズ外しの挟殺プレーでランナーをアウトにできないなど、エラーも絡んでの失点だった。その後は得点圏に走者を進めながら、追いつくことはできなかった。好投するエースを援護できず1-3で敗れ、マドンナ松山の夏は2回戦で終わった。

 

「今回は戦力が昨年と比べると落ちました。その中で新人の底上げが弱かったですね」。マドンナ松山の上田監督はこう大会を総括した。中でもチームの生命線はバッテリー。その点に課題が見えたという。「例えば優勝した環太平洋大が変わったのはバッテリーが落ち着いたこと。無駄な塁を与えなくなった。逆にウチが今年うまくいっていないのはそれに尽きるかなと僕は思います。バッテリーの精度を上げていかないと、競り合った試合では勝ち切れないです」。他にも攻守においてミスが目立った今大会。2回戦敗退はチームの若さがそのまま表れた結果となった。

 

 勝負所でのあと1本やプレーの工夫など、チームの成熟度という面でマドンナ松山の課題が浮き彫りになった。「攻守において、いろいろなパターンは練習してきましたが、ゲームという一連の流れの中ではほとんどできていません。そういった経験を積ませてやらないといけないと思いましたね」と上田監督。とはいえ光明が全くないわけではない。エースの坂本に加えて笹原、柏崎ら中堅選手は確実なプレーで期待に応えた。

 

 さらに2年目のピッチャー北野に対し、上田監督は「坂本と同じぐらいの信頼感。今回は残念ながら機会がありませんでしたが、1試合を1人で任せられる力はある」と成長を認める。サイドスロー気味のスリークォーターから横の変化をつけられる変則右腕である。インステップ気味のフォームのため、右打者はボールが向かってくると感じるはずだ。緩急を覚えればピッチングの幅が生まれ、エースの座も脅かすことができるポテンシャルは秘めている。

 

 上田監督は「全日本クラスのものを持っている」と高く評価するキャッチャー松本の覚醒を期待している。現状ではまだまだリードなどインサイドワーク、捕手としての基本技術は足らない。それでもパンチ力のあるバッティングは魅力。地肩も強いので打てるキャッチャーとして育てていく方針だ。

 

 原石は松本以外にもいる。現役高校生の山本莉加である。「今大会他チームの選手も見ましたが、素材だけだったらズバ抜けている」と上田監督は太鼓判を押す。175センチほどの長身で、指揮官によれば遠投は80メートル近く投げられるという。球速もチーム最速を出せるポテンシャルを持ち、パンチ力もある。“女性版大谷翔平”との大きな夢を抱かせる存在だ。「野球経験は浅いものの、身体の持っている力がすごいです。高校でもバスケットボールをしているので、野球の筋肉ではないのですが、柔らかい身体の使い方をします。背筋などがつけば、さらに伸びていくと思います」

 

 マドンナ松山は10月に千葉・市原市で開催される全日本女子硬式クラブ野球選手権大会に出場する。「チームスローガンは“日本一”。今回の成績ではあまり偉そうなことは言えませんが、常に狙っています」と上田監督。夏の悔しさは秋に晴らすしかない。夏に咲かなかった笑顔の花は、秋に実を結ぶのか。残りの時間は多くないが、それはマドンナたちの成長に懸かっている。

 

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