サーフォノミクスという言葉がある。直訳すればサーフィン経済。世界におけるサーフィン人口は3000万人~4000万人。市場規模は「米国だけで20億ドル超」(日本経済新聞7月20日付)という。

 

 この国にサーフィンブームが到来したのは1970年代後半から80年代にかけてだ。きっかけのひとつとなったのが映画「ビッグ・ウェンズデー」。舞台は米国西海岸。10数年に一度訪れるという“伝説の波”に挑む若者たちの姿を描いたもので、日本では79年4月に公開された。青春映画の名作のひとつである。

 

 蛇足だが70年代後半といえばピンク・レディーの全盛期である。77年6月に発売された「渚のシンドバッド」はミリオンセラーとなった。♪ビキニがとってもお似合いですと 肩など抱いて~ そう巷には“陸サーファー”があふれていた。肩までのびた茶髪にビーチサンダル、貝がらのネックレスは当時の若者ファッションの最先端だった。

 

 だがブームは長続きしない。やがて陸サーファーは絶滅し、本物の愛好家だけが残った。

 

 ここにきてサーフィンの価値が見直されつつある。絶好のサーフポイントは地方に多い。この競技は環境にやさしいことに加えて、地域振興にも資する。あくまでも主役は波とビーチ。他競技と比べると施設整備面での負担も少ない。

 

 第二次サーフィンブームの呼び水となりそうなのが2020年東京五輪の追加競技に野球・ソフトボールなどとともに選ばれたことだ。ご同慶の至りと言いたいところだが、多くの競技関係者が気をもむのが本会場の選考基準と選考過程の不透明性だ。ある招致関係者は「12月に決定するという話だが、組織委員会からはプレゼンテーションの時期について、まだ何も示されていない。早く準備をしたいので概要を示して欲しい」と不安がる。

 

 現時点では湘南、千葉県の外房、東京都の新島、静岡県下田市、愛知県田原市、宮崎県日向市などが招致に名乗りを上げている。プレゼンテーションの中身がよければ、仮に落選しても観光客の誘致につながる、との期待もある。五輪の波に乗れるのか。疲弊する地方にとっては切実な問題である。

 

<この原稿は16年8月31日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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