ビッグクラブとは何か。結果を残すのは当然として、その上で内容まで問われる存在――というのがわたしの考える定義の一部である。

 

 残念ながら現在のところ、この定義に当てはまるJのクラブは存在しない。可能性を感じさせてくれるチームはいくつかあるが、レアル・マドリードやバイエルンのような存在になるまでには、まだ相当な時間が必要だろう。

 

 だが、逆は早い。つまり、可能性を積み上げていくのは大変だが、崩れるのは悲しくなるほど早い。それを証明してしまったのが、今季のグランパスだった。親会社のトヨタが本腰を入れ始めたと思ったら、いきなり日本に3チームしかなかった「J2降格を経験していないオリジナル10」という称号を手放すことになってしまった。ビッグクラブへの道は、ひとまず、大きく遠のいた。

 

 グランパスが降格したことで、J2に降格したことのない、自動車を母体として誕生したチームはマリノスだけになった。ただ、このチームの未来も楽観はできない。というより、わたしの目には、グランパス以上に可能性を崩し始めてしまっているように見える。

 

 わたしが愕然としたのは、リーグ最終節のレッズ戦だった。相手は首位を走るチームで、場所は敵地。守りを固めてのカウンター狙いが定石だというのはわかる。だが、わかっていてもなお、あの日のマリノスの消極的な戦いぶりには驚かされた。

 

 その1節前にレッズと戦ったジュビロも、かなり守備的な戦い方をしていたが、彼らには勝ち点1で残留が決まるかも、という事情もあった。だが、マリノスに降格の心配はなく、言ってみればノープレッシャーで自分たちのいいところを存分に出せる状況にあった。にもかからず、彼らは最初から勝利ではなく引き分けを狙ったとしか思えない戦い方をしたのである。

 

 それが監督の指示によるものだったのか、それとも選手たちの自主的な判断によるものだったのかは知らない。ただ、どんな理由があったにせよ、曲がりなりにも名門と呼ばれ、栄光に包まれた過去を持つチームであればまずやらない戦い方を、あの日のマリノスはやった。やってしまっていた。

 

 さらに驚かされたのは、レッズ戦におけるMVPとも言える守備の要・中沢に、戦力外通告とも取れる年俸の大幅ダウンを通告したというニュースである。中沢がいなければ絶対にできない戦い方をやったチームが、あっさりと要を放す? チームには内部の人間にしかわからない事情が多々あることは承知しているが、それでもなお、理解に苦しむと言わざるをえない。

 

 新聞紙上では、中沢だけでなく、中村や斎藤らの移籍も取り沙汰されている。タレントの草刈り場となる弱小チームではよく聞く話だが――。マリノスは、ビッグクラブへの道を諦めたということなのだろうか。

 

<この原稿は16年11月10日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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