記者会見場に張りのある声が響いた。

 

「前半に関しては、相手のプレッシャー、強度、スピード、そういったものに対応しきれていない部分、ちょっと怖がっていた部分があったかもしれないし、リスペクトしすぎていた部分もあったかもしれないっていうところは感じていました。ただ後半、自分たちのスタイルを取り戻し、しっかりとクラウンド上で表現できたんじゃないかなと思います。しっかりと立ち直って後半に勝負できたっていうのは、また一つ強くなれる要素が増えたんじゃないのかなと思っています」

 

 声の主は、J3アスルクラロ沼津の中山雅史監督。無敗でトップに立つ大宮アルディージャのホーム、NACK5スタジアム大宮に乗り込んだ1、2位対決を1対1で終えた結果を前向きに捉えていた。

 

 指揮官の言葉どおり、前半と後半ではまるで違った。

 

 優勝候補筆頭と言っていい大宮相手に前半は消極的なプレーが目立ってリードを許したものの、後半は中山監督から“喝”が入ったのか受け身に回ることなくボールをつなぎつつチャンスとみるや一気にゴールを目指していく。後半9分の同点シーンは見事であった。相手のクリアをヘディングで回収してから10本のパスをつないで、オウンゴールを引き出している。この直前にも8本のパスでゴール前まで迫っていて、伏線はあった。「自分たちのスタイル」で勝負に挑み、後半は互角に渡り合えたのだからこれほどの収穫はない。

 

 昨季は13位でフィニッシュした中山体制の沼津。就任2年目の今季は開幕戦(ホーム)でツエーゲン金沢に3対0と快勝して好スタートを切ると、大宮と引き分けた10節終了時点で6勝2分け2敗の勝ち点20で2位をキープ。パスをベースにした攻撃サッカーでここまでリーグ2位となる19得点をマークしている。後半に強いのも一つの特徴で、前節のSC相模原戦(4月10日)も前半に先制点を奪われながらも試合終盤に和田育の2ゴールで逆転勝利を奪っている。勝負に対して貪欲で、ひるまず、あきらめずという中山監督の姿勢がチームに浸透している。

 

 現役時代の中山は言うまでもなく一時代を築いた日本を代表するストライカーである。J通算157ゴールは史上4位で、MVP、2度の得点王にも輝いている。ジュビロ磐田の黄金期を象徴する一人でもあった。1998年のフランスワールドカップではジャマイカ代表とのグループステージ第3戦で日本代表のW杯初ゴールをマークしている。

 

 ストライカーの育成にはやはり長けていると感じる。

 

 就任1年目の昨季はブラウンノア賢信(今季はJ2徳島ヴォルティスでプレー)をエースとして成長させ、彼は前年「2」だったゴール数を「13」にまで伸ばしている。印象深かったゴールが筆者も取材したアウェイでのFC今治戦。終盤明らかに疲労が見えていながらも最後まで交代させなかった結果、ブラウンノアは同点ゴールを奪っている。エースの使命とは何かを、采配で伝えていたように感じた。

 

 そして今季は筑波大の後輩でもあるプロ2年目の和田が新エース候補としてここまでリーグ2位タイの7ゴールを挙げるなど成長を示している。ケガから完全復調のベテラン川又堅碁も控えており、競争の激化も和田をよりたくましくさせるに違いない。

 

 沼津のトレーニングは何よりハードで知られる。

 

 大宮戦後、今季加入した齋藤学に尋ねると「かなりきつい。でも凄く鍛えられている実感がある」と充実そうに語っていた。シュート練習になれば、指揮官が付き合うのも沼津では当たり前の光景。いいトレーニングがいいゲームを生む。その揺るぎない信念がチームに落とし込まれていることが好調につながっている。

 

 中山監督は言う。

「(大宮戦で感じた)この強度をスタンダードにしなければいけないと思っていますし、日々のトレーニングに落とし込んでいかなければいけない。日々のトレーニングが、やはりこういう勝負にかかわってくるっていうものを非常に感じていますし、それをこれからも続けていかなければいけないなと思っています」

 

 今季からJ3は上位2位までの自動昇格に加え、3~6位によるJ2昇格プレーオフも行なわれる。2年目の“ゴン沼津”は台風の目になるどころか、昇格の有力候補にのし上がっていきそうな勢いである。


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