ニックネームはレーザーだ。好戦的にして一芸に秀でたボクシングスタイルで一部のマニアから熱狂的な支持を得ていた。

 

 ドノバン・“レーザー”・ラドック。彼の“一芸”とはフックとアッパーの中間くらいの角度から飛んでくる左スマッシュ。相手からすれば視界の外、斜め下からシャーッとカミソリでカーテンでも切り裂くようにアゴに向かって伸びてくるのだ。これをブロックするのは至難の業だった。

 

 このオンリーワンのブローを武器にマイク・タイソンとも打撃戦を演じた。ラドックがレーザーならタイソンはアイアンだ。軍配は2度とも鉄人に上がったが、2度目はフルラウンドを戦い抜いた。

 

 タイソンは最初のラドック戦の13カ月前に東京でジェームス・ダグラスにKOされヘビー級のタイトルを失っていた。踏み込みのスピードは落ち、コンビネーションも雑になっていた。その意味で全盛期は過ぎていたと言える。

 

 皮肉なことにボクシングが大味になっていたことでラドックとの2戦は派手な大立ち回りとなった。“打たせずに打つ”から“打たれても打つ”へ――。普通のボクサーなら、白目をむいて倒れてもおかしくないラドックのレフトを何度も急所に受けながら、何事もなかったようにやり過ごすタイソンは、やはり鉄人だった。

 

 大みそか、王座返り咲きを狙った内山高志とWBA世界スーパーフェザー級王者ジェスレル・コラレスの一戦は残念な結果となった。

 

 惜しかったのは10回だ。乾坤一擲のボディブローで流れが変わったかに見えた。本人も手応えを感じていたはずだ。<倒せそうだったのに残念です>。メールでそう答えた。

 

 8カ月前の敗北は“事故”のように映った。ラドックのスマッシュ同様、半身の構えから発射されるパナマ人のレフトは軌道が読みにくい。しかもスピードがあって頻繁にスイッチしてくる。その目まぐるしさに対応できなかった。3度のダウンの反省もあって今回はガードをしっかり固め、コラレスの乱気流に巻き込まれないよう慎重にボクシングを組み立てた。

 

 それでもやりにくさは払拭できなかった。手数で下回り、チャンスで攻めあぐねた。内山は「不完全燃焼ではない」と言うが、同じ相手に2度負けたままでグローブを壁に飾れるのか。37歳の心中は察して余りある。

 

<この原稿は17年1月4日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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