全米ボクシング記者協会(BWAA)が選出する2023年の「シュガー・レイ・ロビンソン賞」(年間最優秀選手)に、日本人として初めて井上尚弥が輝いた。

 

 

 これを受け、井上は「世界中の記者の方々からの評価をいただけて光栄に思います。同協会が98年の歴史があると知り、改めて受賞の重さと大きさを感じました」とコメントした。

 

 あらゆる階級を通じて、一番強いボクサーは誰か。これは米リング誌の初代編集長であるナット・フライシャーが1950年代初頭に創案した概念で、ウェルター級とミドル級でケタ外れの強さを誇ったシュガー・レイ・ロビンソン(米国)の功績を称えるためのものだった。

 

 この「パウンド・フォー・パウンド」が、ボクサーの実力を評価する上での横軸の基準なら、縦軸の基準が「オール・タイム・ランキング」だ。こちらは、あらゆる時代を通じ、その階級で最強のボクサーは誰か――。

 

 では、「パウンド・フォー・パウンド」と「オール・タイム・ランキング」、すなわちあらゆる階級、あらゆる時代を通じて最強のボクサーは誰か。「オール・タイム・パウンド・フォー・パウンド」。それはシュガー・レイ・ロビンソンをおいて他にない。

 

 同賞は1938年に創設され、第1回目の受賞者は、あのマイク・タイソンが憧れたといわれる伝説的な元世界ヘビー級王者のジャック・デンプシー。最多受賞はモハメッド・アリ、ジョー・フレイジャー、シュガー・レイ・レナード、イベンダー・ホリフィールド、マニー・パッキャオ、フロイド・メイウェザー・ジュニアの3回。ボクシング史を彩るそうそうたる顔ぶれである。

 

 井上が偉大なのは、23年の2試合(7月のスティーブン・フルトン戦、12月のマーロン・タパレス戦)が、いずれもボクシングの本場アメリカではなく、日本だったということ。それでも米国の記者たちは井上をMVPに選んだ。日本のモンスターに新たな勲章が加わった。

 

<この原稿は『週刊大衆』2024年2月12日号に掲載された原稿です>

 


◎バックナンバーはこちらから