24日、ボクシングのトリプル世界戦が行われた。バンタム級初戦でWBC王座に挑戦した中谷潤人(M.T)は6ラウンドTKO。WBOスーパーフライ王座決定戦に臨んだ田中恒成(畑中)は判定勝ち。中谷はフライ級、スーパーフライ級(いずれもWBO)に続く3階級制覇達成した。田中はミニマム級、ライトフライ級、フライ級(いずれもWBO)に続く4階級制覇となった。メインのWBAバンタム級王者の井上拓真(大橋)は9ラウンドKOで初防衛に成功した。

 

 バンタム級に階級を上げ、WBC1位にランクインした中谷はプロ3階級目にして初めて挑戦者として世界王座に挑んだ。対戦相手は5階級制覇を達成したノニト・ドネア(フィリピン/アメリカ)と王座を争ってベルトを掴んだアレハンドロ・サンティアゴ(メキシコ)。今回が初防衛戦となる。

 

 身長差13cm(中谷172cm、サンティアゴ159cm)、リーチ差4cm(中谷170cm、サンティアゴ166cm)。中谷は序盤。距離を測るように右で相手を制して戦った。「タフな選手なのでガンガン来るかなという想定のもと、自分の距離を徹底し、ルディ(・フェルナンデストレーナー)の指示を受けながら試合を組み立てていけた」と振り返る。「その作戦が私を混乱させた」とはサンティアゴ。王者としては「状態を揺らして中に入る」狙いだったが、中谷がそれを許さなかったのだ。

 

 4ラウンド終了時の公開採点はジャッジ3者がフルマーク(40-36)で中谷を支持した。5ラウンドからは中谷のコンビネーションが徐々にサンティアゴをとらえ始める。試合後が動いたのは6ラウンドだ。セコンドのフェルナンデストレーナーからの「テンポを変えろ」との指示で、構えをアップライトにして攻めると「リラックスして出た」という左ストレートが炸裂し、サンティアゴは思わず尻餅をついた。

 

 両国国技館に詰め掛けたファンがKOを期待する中、中谷は攻め続けた。王者をロープ際に追い込み、ラッシュをかける。左でバランスを崩したところを右フックで追撃。2度目のダウンを喫したサンティアゴが戦線に戻ることはなかった。

「KO負けの無い選手にKO勝利ができたのはより自信になった。さらに上のところを見ていけるのかな、と」

 

“ネクストモンスター”と称されるが、既に実力は怪物級。今後に向けては「統一戦だったり、パウンド・フォー・パウンド(階級を超えた最強ランキング)入りすることを目指しているので、そこに向けてビッグファイトをしていきたい」と語った。

 

 3年2カ月ぶりの世界戦となった田中は、21戦目での4階級制覇を達成した。かねてからディフェンス面が課題に挙げられてきた田中はカウンターに磨いてきた。接近戦を得意とするクリスチャン・バカセグア(メキシコ)を相手に持ち味のスピードを生かしながら、カウンターを狙った。

「いいカウンターをできたが、自分自身のバランスが良ければもっといいカウンターを打てた。(完成度は)まだまだなんだな、と」

 

 8ラウンドにはボディから顔面をとらえるとレフリーがスタンディングダウンを取る。カウント8で帰ってきたバカセグアを仕留めることはできなかったものの、3-0の判定で完勝した。「KOで勝ちたかった」と田中。その一方で「満足できていない自分にうれしい」とも口にした。

 

 4階級目の王座戴冠を「通過点」と言い切る彼が見据えるのは、プロ初黒星を喫した現WBA王者の井岡一翔(志成)へのリベンジマッチ、そして「スーパーフライ級王座4団体統一」だ。まずはIBF王者の(フェルナンド・)マルティネスを標的に定める。「ベルトを2本持ってリングに立つのが井岡さんへのリスペクト」と言う。

「マルティネス選手を倒して、自分の強さを証明する。1本じゃなく2本のベルトを賭けて戦う。それぐらいのことをやって、それぐらいのものを賭けて初めて『リベンジさせてください』と言いたい」

 

 メインイベントに登場したのは井上。「過去一の強敵」というIBF世界スーパーフライ級王座を9度防衛したジェルウィン・アンカハス(フィリピン)を相手に打ち合い、これまでとの違いを見せた。

 

 試合後に「父(真吾トレーナー)から『くっついたらボディだ』と耳にタコができるくらい言われてきた。きつい練習をしてきた効果」と振り返ったようにボディがこの日のカギを握った。

「効いていたのが分かったので、ボディを攻めて体力を削ろうと思っていた」

 

 9ラウンド、ボディの連打で相手の心を折った。「キャリアでも初めてというくらい完璧に入った」とアンカハスは脱帽。井上は「相手が前に出てくるのは想定していた。ポイントアウトできたとしても、いつものつまらない試合になってしまう。打ち合って勝てたことが自信になりました」と胸を張った。父・真吾トレーナーは「相手の攻撃を外すだけでなく、返す。引き出し、幅がちょっとずつ広がったかな」と評価。大橋秀行会長も「壁を破って新しい井上拓真を見せた」と称えた。

 

 兄・尚弥(大橋)が果たしたバンタム級4団体統一を目標に掲げる。「それを掲げる以上、一度も負けられない。一歩一歩勝ち続けていきたい」と井上。この日、WBC王座を獲得した中谷対しては「お互い勝ち続けていればいつかは当たるかもしれない。その日が来るまで勝ち続けていきたい」と話した。

 

(取材・文・写真/杉浦泰介、取材/手塚俊兵)