(写真:ハーダウェイはチーム不振への憤りを隠しきれていない Photo By Gemini Keez)

 4月3日、オーランド・マジックにホームで惨敗を喫した直後、ニューヨーク・ニックスのロッカールームは殺伐とした雰囲気だった。

 

「俺が何を言おうと、悪い風に受け取られるんだろう? いったいあなたたちは何が悪かったと思ったのか、言ってみたらどうだ?」

 ティム・ハーダウェイ・ジュニアがある記者にそう詰め寄り、取り囲んだメディアたちも思わず硬直した。この日のニックスは同じく低迷中のマジックにシーズン最小の73得点で、今季51敗目(27勝)となった。これで実に4年連続50敗以上と泥沼は続いている。

 

 新エースの離脱

 

(写真:5年連続でプレイオフ逸が決定し、ニューヨーカーの無念は続く Photo By Gemini Keez)

 今季半ば以降のニックスは次期ドラフトでの上位指名権獲得を目指し、本気で勝ちにいっているわけではない。それでも現場の選手たちのフラストレーションが変わるわけではない。ニューヨークのメディアが辛辣になりがちなのは今に始まったことではないが、ハーダウェイの激しい言葉は、これまでに溜め込んだ憤りの蓄積が吐き出された結果だったに違いない。

 

 シーズン序盤の時点では、名門フランチャイズは復活気配に思えた。評判の悪かったフィル・ジャクソン前球団社長がオフにニックスを去り、スティーブ・ミルズ球団社長、スコット・ペリーGMによる新体制がスタート。スーパースターのカーメロ・アンソニーがオクラホマシティ・サンダーにトレードされ、エースの座は3年目のクリスタプス・ポルジンギスに引き継がれた。

 

 様変わりした陣容で迎えた今季、11月29日の時点で11勝10敗、クリスマスゲームを終えた時点でも17勝16敗とまずまずのスタート。この頃には、ニックスはようやく新しい方向に足を踏み出したかと思えた。しかし――。

 

(写真:ニューヨークの新たな顔となると期待されたポルジンギスだが、今季中に大ケガを負ったのは痛恨だった Photo By Gemini Keez)

「良い時期もあったが、故障者が出たのが痛かった。特にKP(ポルジンギス)が離脱して、すべてが変わった。まるでアップ&ダウンの激しいローラーコースターに乗っているみたいだったよ」

 コートニー・リーがそう述べた通り、主力のケガは痛恨だった。ハーダウェイが左足を痛めて20戦を休んだのに続き、2月6日にポルジンギスが左膝前十字靭帯断裂という重傷を負った。今季平均22.7得点を挙げ、22歳にして初めてオールスターに選出された新エースのシーズンはここで終了。この時点でニックスの今季も終わったも同然だった。以降は坂を転がり落ちるように下降を続け、選手たちは不満を溜め込んでいく結果になった。

 

 1999年にジェームズ・ドーランがオーナーを引き継いでから始まったニックスの暗黒時代は、まだ終わる気配はないようだ。

 

 前時代の遺産が残った00~01シーズンまでは良かったが、01~02シーズン以降にニックスほど多くのゲームを負けたチームはディビジョン内に他に存在しない。過去17年間、プレイオフ戦での勝利は7戦のみ。こんな近年の歴史を振り返れば、ニックスは“リーグ最悪級のフランチャイズ”と呼ばれても仕方あるまい。

 

 レニー・ウィルキンス、ラリー・ブラウン、アイザイア・トーマス、マイク・ダントーニ、フィル・ジャクソン……etc。これまでに多くのコーチ、エグゼクティブが“救世主”の期待を浴びてきたが、ほぼ無残に失敗している。評判の悪いドーラン・オーナーはもう現場介入はしていないというが、それでも運気はなかなか変わらない。ミルズ&ペリー体制になった今季も、結局はこれまで同様の負のサイクルに陥った感がある。

 

「重要なピースは集まってきている。ポルジンギスは素晴らしい選手だとみんなが知っていて、彼と一緒にプレイしたいと思っているプレイヤーはこのリーグにたくさんいる。他にも何人かの優れた選手がいるのだから、私たちが上位進出できるようになる日はそれほど遠くはないはずだ」

 ここしばらくのニックスを間近で見てきた筆者には、ジェフ・ホーナセックHCのそんな言葉は希望的観測に聞こえる。何より痛かったのは、今季中にポルジンギス、他の若手選手が成長度を示せなかったことだ。

 

 光明見出せず

 

(写真:フランス出身の二リキナ<左>は“ロールプレイヤーの素材”との声も Photo By Gemini Keez)

 ユニークなスキルを持つポルジンギスは確かに素晴らしい素材だが、膝の手術後にかつての姿を取り戻し、さらに次の段階に進めるという保証はない。去年のドラフト1巡目全体8位で指名されたフランク・ニリキナは、シーズン中盤以降は多くのプレイ機会を与えられたが、“未来のスター候補”と目されるほどのポテンシャルは誇示できていない。

 

 今夏に再びドラフト上位指名権は得るが、そこで即戦力が獲得できるという保証があるわけではもちろんない。とにかくチーム全体に不確定要素が多すぎる。今の状態では、向こう1~2年以内にニックスでプレイしてみたいと感じるFAのスター選手はほとんどいないはずだ。

 

「ニックスの低迷は、スカウティングの拙さ、育成のまずさ、トップの意思統一のなさに、不運が合わさった結果。それでもフィル・ジャクソン政権下に比べれば良い方向に進んでいるが、勝てるようになるまでにやることは山積みだ」

 3月中、イースタン・カンファレンスの某チームのスカウトは筆者にそんな率直な意見を話してくれた。今後に状況が上向くとしても、確かにまだしばらく先の話なのだろう。ニックスが戦力を一気に引き上げるためには、おそらくあと2枚はスターレベルの選手が必要。具体的には、ドラフトで1度、FA補強で1度は成功しなければならないのではないか。最近のこのチームを見る限り、近未来にそれらを成し遂げる姿は想像しがたいのが現実だ。

 

(写真:ペリーGM<左>はこれからどうやってチームを立て直していくか<右はポルジンギスの兄> Photo By Gemini Keez)

 今夏にFAになりそうなレブロン・ジェームズを獲得する大逆転ホームランは夢物語に過ぎないし、2019年夏にマーケットに出るカイリー・アービング、カワイ・レナード、ジミー・バトラー、ケビン・ラブ、クレイ・トンプソンといった好選手から興味を持ってもらえる可能性は高いとは言えない。周囲にそう感じさせるような歴史を、すでに積み上げてきてしまったのだ。

 

 筆者はニューヨークに住んでいてもニックスのファンではないが、やはり残念に感じる。“メッカ”と呼ばれるマディソン・スクウェア・ガーデンは素晴らしい場所で、ニックスが強いときは伝統のアリーナが荘厳なまでの光量で満たされる。プレイオフ戦時の高揚感は筆舌に尽くしがたい。依然として数多くの熱狂的なファンを持つニックスは、NBAにとっても重要なフランチャイズであるはずなのだ。そんな“メッカ”から、活気が消えてもう久しい。

 

 “救世主”になり得ると思われたポルジンギスまでもが倒れ、トンネルの向こうに光は見えてきていない。チーム内外で信頼を失った感のあるホーナセックの更迭が次のステップになるかもしれないが、それだけで多くが変わるとは思えない。大都市の人々として稀有なほど献身的なニックスのファンは、残念ながら、もうしばらく我慢の時間を余儀なくされそうである。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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