第1198回 「神童」も「凡人」も趣味に境界線なし
早熟の天才が、必ずしも大成するとは限らないことを言い表した言葉に「昔神童、今凡人」というものがある。昔も今も「凡人」の身からすれば、幼少期の一時期だけでも「神童」と呼ばれた誇らしい記憶を持つ者は幸せだろう、と思う。しかし、それは凡人の独りよがりで、元神童の中には、複雑な感情を引きずっている者もいるかもしれない。
領域横断型の学際的な研究で知られるドイツのカイザースラウテルン・ランダウ大学などの国際研究チームが、このほど米サイエンス誌に、世界で活躍する人材の分析結果について発表した。
国際研究チームが、ノーベル賞受賞者、五輪メダリスト、トップクラスのチェスプレーヤー、著名な作曲家など、各界で活躍する3万4839人のデータ分析を行なったところ、世界のトップ10に入る逸材のうち9割が、若い頃は目立つ存在ではなかったことが判明した。
スポーツについていえば、調査対象となったアスリートの中には、五輪の女子体操で計7つの金メダルを獲得したシモーネ・バイルズ(米国)や、五輪の男子競泳で計23個の金メダルを胸に飾ったマイケル・フェルプス(米国)らが含まれていた。
大成した逸材の9割が「凡人」だったと書くと「英才教育」は無用のように思われるかもしれない。だが、決してそうではない。アスリートに限って言えば、身体の発育過程に顕著な個人差があり、「早熟型」もいれば「大器晩成型」もいる。保護者や指導者が英才教育にのめり込むリスクとしては、トレーニングや練習の場での身体的に未成熟な子どもたちに対する過大な負荷要求が指摘されている。それにより、どれだけ有為な人材が失われてきたことか。
残念なことに近年、子どもたちのスポーツ離れが加速している。12歳から19歳までのスポーツ実施率は、11年が33.3%だったのに対し、21年は26.6%と7ポイント近く低下した(笹川スポーツ財団調べ・週5回以上、1回120分以上)。
その理由としては、スマホの普及や猛暑などが考えられるが、スポーツ能力発見協会理事長の大島伸矢さんは「競技環境の問題も大きい」と言う。
「たとえば子どもが“サッカーが嫌いになった。もうやりたくない”と言って家に帰ってきたとする。保護者は“サッカーが嫌いになってしまった”と早合点する。でも、よくよく聞くと、先生やコーチ、友達が嫌いだったりすることの方が多い。要するにサッカーが嫌いになったわけじゃないんです。嫌いになった原因のほとんどは、競技とは別のところにある。子どもたちを取り巻く競技環境さえよければ、もっとその競技が好きになり、成長のチャンスが得られたのに、と思うともったいない」
28日に放送されたNHKスペシャルで、大谷翔平は、こう語った。「趣味としての野球は消したくない」。レベルはどうであれ、趣味を満喫し、追求することに「神童」と「凡人」の境界線はないはずだ。
<この原稿は25年12月31日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>
