第311回 トランプに平和賞 FIFAとの蜜月
昨秋、国際サッカー連盟(FIFA)が「平和賞」を制定するというニュースに接した際、胸騒ぎがした。
「まさか、あの御仁では……」
残念ながら、と言うべきか、やっぱりと言うべきか、受賞者は「あの御仁」だった。
第45・47代米国大統領のドナルド・トランプ氏である。
FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長は「世界の平和と統合を促進するために見せた卓越した努力と行動力を示した」と、受賞理由を読み上げた。
どうにも腑に落ちない。たとえば、2度目の大統領選挙でトランプ氏が「私が大統領に就任すれば1日で終わらせる」と豪語したウクライナ戦争。終結に向けて動いたのは事実だが、侵略した側のロシアに有利な和平案は、窮地のウクライナを、さらに追い詰めているように映る。
他にもデンマークの自治領グリーンランドを手に入れるためには「あらゆる可能性を排除しない」と軍事力行使をほのめかしたり、隣国のカナダに「51番目の州になるべきだ」と暴言を吐くなどトラブルの種は尽きない。
そもそも、この賞はノーベル平和賞受賞を逃したトランプ氏に、インファンティーノ氏が媚びを売るために設けたものだと言われている。
なぜ、そこまでして歓心を買う必要があるのか。
インファンティーノ氏には、史上最多となる48カ国・地域が参加する26年北中米W杯を成功させることで自らの権力基盤を強化し、FIFA内で独裁体制を築きたいという野望がある。そのためには、まるで王様のように振る舞うトランプ氏のご機嫌を取り続けるしかないのだろう。
もっともトランプ氏がサッカーファンだという話は、寡聞にして知らない。しかし、昨夏、米国11都市で行なわれたFIFAクラブW杯では、優勝したチェルシーのトロフィーリフトの中心に、なぜかトランプ氏がいた。あそこは選手たちの“聖地”である。
にもかかわらず、まるで自分が主役だとでも言わんばかりのトランプ氏の姿に、鼻白む思いを味わったサッカーファンは、たくさんいるのではないか。
案の定、今回の「平和賞」を巡っては、英国の人権団体などから批判が相次いでいる。
そのひとつが、政治的中立を定めたFIFAの倫理規定に違反しているのではないか、というもの。
だが、こうした批判も、インファンティーノ氏とっては、どこ吹く風だ。「無理が通れば道理が引っ込む」とは、よく言ったものである。
<この原稿は『週刊漫画ゴラク』2026年1月9日-16日合併号に掲載された原稿です>