五輪2連覇(14年ソチ大会、18年平昌大会)に加え、世界選手権優勝2回、グランプリファイナル優勝4回などフィギュアスケートの世界で数々の金字塔を打ち立てた羽生結弦が「引退」を表明した。

 

 

 引退といっても、スケート靴を脱ぐわけではない。五輪や世界選手権などの競技会からは身を引くものの、今後はプロとしてアイスショーなどを中心に活動を続ける。

 

 五輪2連覇もさることながら、最後の五輪となった北京での壮絶な演技も忘れられない。フリー直前に右足首を捻挫、ドクターストップがかかっていながら痛み止めの注射を打って出場し、前人未踏のクワッドアクセル(4回転半)に挑んだ。

 

 回転が足りず、結果的には転倒したが、その姿は、まるで血しぶき上げて討ち死にする戦国武将のように映った。羽生の覚悟は自ら選んだ楽曲『天と地と』によく表れていた。戦国武将・上杉謙信の半生を描いたこのドラマは1969年にNHKで放送され、大きな反響を呼んだ。

 

 謙信のライバルと言えば武田信玄。川中島の合戦(第四次)で両雄が切り結ぶシーンは圧巻だ。

 

 この楽曲について聞かれた羽生は「4回転半ジャンプ、クワッドアクセルはできれば降りたかったのが正直なところですが、上杉謙信というか、自分が目指していた『天と地と』という物語にふさわしい演技でした」と語った。

 

 上杉謙信に憧れを抱くアスリートは羽生だけではない。“平成の大横綱”と呼ばれた元横綱の貴乃花も「義」に生きた謙信が好きだと語っていた。

 

 自ら好んで戦(いくさ)に臨むことはないが、戦えば必ず勝つ。謙信は自らを“軍神・毘沙門天の化身”と称していた。

 

 ちなみに元弟子の大関・貴景勝は謙信の養子である景勝に由来する。それ程までに入れ込んでいたのだ。

 

 参考までに紹介しておくが、謙信の戦での戦績は、一説によると70戦2敗。戦国最強の武将と呼ばれる所以である。

 

<この原稿は『週刊大衆』2022年8月15日号に掲載されたものです>

 


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